職場でのハラスメントで損害賠償は請求できる?

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弁護士JP編集部 弁護士JP編集部
職場でのハラスメントで損害賠償は請求できる?

職場では、パワハラ、セクハラ、マタハラ、パタハラなどさまざまなハラスメント被害にある可能性があります。このようなハラスメント被害を受けた場合には、会社に対して損害賠償請求をできる可能性があります。
ただし、ハラスメントによる損害賠償請求には、証拠収集などいくつか注意すべきポイントがありますので、まずはそれらをしっかりと押さえておくようにしましょう。

1. 職場でよくあるハラスメントとは?

職場でよくあるハラスメントにはどのようなものがあるのでしょうか。

(1)ハラスメントとは

職場でのハラスメントとは、一般的に労働者の就業環境を害する言動に起因する問題と定義されています。

厚生労働省が令和2年4月に公表した「職場のハラスメントに関する実態調査 」では、過去3年間にハラスメントの相談があった企業のうち、ハラスメントに該当すると回答した企業の割合は、以下のようになっています。

  • 顧客等からの著しい迷惑行為(92.7%)
  • セクハラ(78.7%)
  • パワハラ(70.0%)
  • 介護休業等ハラスメント(21.9%)
  • 妊娠、出産、育児休業等ハラスメント(47.9%)

このような調査結果を見ると、多くの企業でさまざまなハラスメントが問題になっていることがわかります。

(2)職場ハラスメントの種類 職場でのハラスメントには、主に以下のような種類があります。

①パワハラ

パワハラとは、「パワーハラスメント」の略称で、以下の3つの要素をすべて満たすものをいいます。

  • 優越的な関係を背景とした言動
  • 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
  • 労働者の就業環境が害されるもの

客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適切な指導や業務指示に関しては、パワハラには該当しません。しかし、以下のような言動については、パワハラにあたる可能性があります。

  • 殴打、足蹴り
  • 必要以上に長時間にわたる激しい叱責
  • 特定の労働者を集団で無視し、職場内で孤立させる
  • 到底達成できないノルマを課し、達成できないことを理由に叱責する

②セクハラ

セクハラとは、「セクシュアルハラスメント」の略称で、職場内で労働者の望まない性的な言動に対し労働者側がとった対応により、労働条件について不利益を受けることや、性的な言動により就業環境が害されるものをいいます。

セクハラに該当する行為としては、以下のものが挙げられます。

  • 性的な事実関係を尋ねる
  • 性的な内容の情報を流布する
  • 食事やデートへの執拗(しつよう)な誘い
  • 性的な関係を強要する
  • 必要なく身体に接触する

③マタハラ

マタハラとは、「マタニティハラスメント」の略称で、妊娠・出産に関して女性労働者を不快にさせる言動をいいます。

マタハラに該当する行為としては、以下のものが挙げられます。

  • 妊娠、出産のタイミングで女性労働者に退職を促す
  • 妊娠、出産を理由に減給や降格処分を行う

④パタハラ

パタハラとは、「パタニティハラスメント」の略称で、育児休業の取得に関して男性労働者を不快にさせる言動をいいます。

パタハラに該当する行為としては、以下のものが挙げられます。

  • 育児休業を取得したことを理由に嫌がらせを受ける
  • 育児休業の取得を理由に減給や降格処分を受ける

⑤カスハラ

カスハラとは、「カスタマーハラスメント」の略称で、顧客や取引先などから理不尽なクレームや不当な要求を受けることをいいます。

カスハラに該当する行為としては、以下のものが挙げられます。

  • 従業員の些細なミスに対して延々とクレームを言う
  • 従業員に対して金品や土下座を要求する
  • 何度もクレームの電話をかけて業務を妨害する

2. 職場のハラスメントで慰謝料などの損害賠償請求はできる?

職場でハラスメントの被害を受けた場合、加害者や会社に対しての損害賠償請求は可能なのでしょうか。

(1)加害者本人への損害賠償請求

職場でのハラスメントが必要かつ相当な範囲を超えて行われ、被害者の権利を侵害するような態様だった場合には、不法行為(民法709条)が成立します。そのため、被害者は、ハラスメントを行った加害者本人に対して、慰謝料などの損害賠償請求を行うことができます。

(2)会社への損害賠償請求

会社が被害者に対して直接ハラスメントを行うということはありません。

しかし、会社には、労働者が安全かつ快適に仕事ができるよう職場環境に配慮する義務(安全配慮義務)があります。労働者がハラスメント被害を受けていることを認識していながら、それを放置していたような場合には、会社にもハラスメントの責任があるといえますので、安全配慮義務違反を理由として、損害賠償請求が可能です。

また、加害者本人が不法行為に基づいて損害賠償義務を負う場合には、会社も使用者責任による損害賠償責任を負います。そのため、会社に対しての使用者責任に基づいた損害賠償請求も可能です。

3. 職場のハラスメントでの慰謝料の相場

職場のハラスメントで認められる慰謝料の金額は、事案によってさまざまですので一概にいえるものではありません。それでも一定の相場を示すとなると、10万円~100万円程度の慰謝料が裁判での一般的な相場といえるでしょう。

もっとも、ハラスメントでの慰謝料は、以下のような要素を踏まえて、金額が判断されます。

  • ハラスメントの内容
  • 被害者と加害者との関係
  • ハラスメントの期間、頻度
  • ハラスメントにより生じた被害
  • ハラスメントに関する会社の対応

そのため、ハラスメントにより被害者が精神疾患を発症し、退職を余儀なくされたケースやハラスメントにより自殺に追い込まれたようなケースでは、一般的な慰謝料相場よりも高額な慰謝料が認定される可能性もあります。

このようにハラスメントの慰謝料は、事案によってケースバイケースですので、適正な慰謝料を知りたいという方は、まずは弁護士に相談してみるとよいでしょう。

4. 職場のハラスメントでの損害賠償請求は「証拠集め」が重要

職場のハラスメントによる損害賠償請求をするためには、証拠の有無が重要なポイントになります。

(1)ハラスメントの事実の証明

ハラスメント行為の多くは、加害者からの言動など客観的な証拠に残らないものであることが多いため、被害者が意識的に証拠化していくことが大切です。

ハラスメントの事実を証明するための証拠としては、以下のようなものが考えられます。

  • 暴行や暴言を受けている状況を撮影した動画
  • 卑わいな言葉をかけられた状況を録音したデータ
  • メールにより執拗な嫌がらせを受けた場合には、メールの送受信履歴

(2)ハラスメントでの実害の証明

慰謝料を請求するためには、ハラスメントにより被害が生じたことを立証しなければなりません。そのための証拠としては、以下のようなものが考えられます。

  • 医師の診断書
  • 病院に支払った治療費の領収書
  • 暴行を受けて怪我をした部分を撮影した写真や動画

(3)証拠として弱いもの

  • 被害者の証言のみ
  • 具体的な内容が記載されていないメモ

これらの証拠は、証拠として利用できないものではありませんが、単独では証拠としては非常に弱いものといえます。

ハラスメントを理由に法的措置をとる場合、被害者の側でハラスメントの立証を行っていかなければなりません。十分な証拠がない状態では、訴訟による損害賠償請求が認められませんので注意が必要です。

(4)ハラスメントの損害賠償請求は費用倒れに注意

ハラスメントの一般的な慰謝料相場は、10万円~100万円程度とそこまで高額ではありません。そのため、弁護士に依頼してハラスメントの慰謝料請求をすると、弁護士費用の方が慰謝料額を上回ってしまうおそれもあります。

ただし、事案によっては、弁護士費用を支払っても、それを上回る慰謝料が支払われるケースもありますので、まずは、弁護士に相談してみるとよいでしょう。

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