残業手当とは? 時間外手当・休日出勤手当とはどう違う?

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弁護士JP編集部 弁護士JP編集部
残業手当とは? 時間外手当・休日出勤手当とはどう違う?

毎月残業をしているのに、思ったよりも残業手当が少ないと感じたことはないでしょうか。このような場合には、適切な残業手当が支払われていない可能性もあります。

未払いの残業手当がある場合には、未払いの残業手当の計算を行い、会社に対して請求していかなければなりません。それには、残業手当の計算方法や請求方法などの理解が不可欠です。会社への残業手当の請求をお考えの方は、残業手当に関する基本事項をしっかりと押さえてから、会社に対して請求をしましょう。

1. 残業手当とは

残業手当とは、どのような内容の手当なのでしょうか。以下では、残業手当に関する基本事項を説明します。

(1)残業手当

残業手当とは、労働者が残業をした場合に、会社から支払われる賃金です。

残業が法定内残業であれば、通常の労働時間に対応する賃金の支払いで足りますが、法定外残業であった場合には、通常の労働時間に対応する賃金に加えて、割増賃金の支払いが必要になります。

(2)残業の種類

残業手当を理解するためには、残業の定義を押さえておく必要があります。また、残業には、大きく分けて「法定内残業」と「法定外残業」の2種類がありますので、これらの理解も必要になります。

①残業とは

残業とは、契約または法律上定められている労働時間を超えて、働くことをいいます。このような残業には、「法内残業」と「法定外残業」の2種類があります。

②法定内残業

法定内残業とは、契約上定められている所定労働時間を超えて働くことをいいます。

たとえば、契約上所定労働時間が6時間と定められている会社で、ある日8時間働いたとします。この場合、所定労働時間の6時間を超える2時間分が残業(法内残業)となります。法内残業は、法定労働時間の範囲内の労働ですので、割増賃金の支払いは不要です。

③法定外残業

法定外残業とは、労働基準法上定められている法定労働時間を超えて働くことをいいます。

労働基準法では、1日8時間、1週40時間が法定労働時間と定められていますので、それを超えた場合が法内残業となります。法定外残業があった場合には、通常の労働時間に対応する賃金に加えて、割増賃金の支払いが必要になります。

(3)36協定(サブロク協定)

36協定とは、企業が労働者に対して、法定労働時間を超えた労働や法定休日労働を行う場合に、企業と労働者との間で締結する協定です。

労働基準法36条に基づき締結される労使協定であることから「36協定(サブロク)」と呼ばれています。36協定なしで法定外残業をさせた場合には、事業主に対して、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。

36協定違反とは? 違法な長時間労働や休日出勤に困ったら

36協定を締結・届出をすると、法定労働時間を超えて残業をさせることができますが、残業時間は無制限ではありません。残業時間は、原則として、月45時間・年360時間以内にしなければなりません。

例外的に、臨時的な特別の事情がある場合には、特別条項付36協定を締結することで上記の上限を超えて残業をさせることが可能になります。ただし、その場合でも、以下のルールを守る必要があります。

  • 時間外労働が年720時間以内
  • 時間外労働と休日労働の合計時間が月100時間未満
  • 時間外労働と休日労働の合計について、2~6か月の各月平均が、すべて1か月あたり80時間以内
  • 時間外労働が月45時間を超えられるのは、年6か月まで

残業時間の上限規制は「月45時間」。36協定での取り決め

2. 残業手当とその他の手当の違い

残業手当のほかにも、「時間外手当」、「休日出勤手当」、「深夜手当」があります。これらの手当は、残業手当とどのような違いがあるのでしょうか。

(1)「時間外手当」と残業手当の違い

残業手当と時間外手当は、基本的には、同じものを指すことが多いです。

しかし、両者が区別して支払われている場合には、残業手当は、法定内残業に対して支払われる手当であるのに対して、時間外手当は、法定外残業に対して支払われる手当であるという違いがあります。なお、法定外残業に対しては、25%以上の割増率により増額した割増賃金の支払いが必要になります。

(2)「休日出勤手当」と残業手当の違い

休日出勤手当とは、労働者が休日出勤をした場合に支払われる賃金です。

休日には、法定休日と法定外休日の2種類がありますが、休日出勤手当が支払われるのは、法定休日における労働です。なお、法定休日労働に対しては、35%以上の割増率により増額した割増賃金の支払いが必要になります。

(3)「深夜手当」と残業手当の違い

深夜手当とは、労働者が深夜労働をした場合に支払われる賃金です。

深夜労働とは、午後10時から翌午前5時までの労働をいいます。なお、深夜労働に対しては、25%以上の割増率により増額した割増賃金の支払いが必要になります。

3. 雇用形態や業種によっては残業代が出ない場合もある

労働者の雇用形態や業種によっては、残業代が出ないこともありますので注意が必要です。

(1)みなし労働時間制(事業場外労働)

みなし労働時間制とは、実労働時間の把握の難しい業務に対して適用される労働時間制で、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定められた労働時間を働いたものとみなす制度です。

みなし労働時間制は、法定労働時間の範囲内で所定労働時間が定められている場合には、残業手当は支払われません。

(2)裁量労働制

裁量労働制とは、労働時間を労働者の裁量に委ねる必要がある業務に対して適用される労働時間制で、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定められた労働時間を働いたものとみなす制度です。

裁量労働制は、みなし労働時間制と同様に、法定労働時間の範囲内で所定労働時間が定められている場合には、残業手当は支払われません。

(3)フレックスタイム制

フレックスタイム制とは、一定の期間について定めた総労働時間の範囲内で、労働者が労働時間や始業・終業時刻を定めることができる制度です。

フレックスタイム制では、1~3か月の清算期間における実労働時間があらかじめ定めた総労働時間を超えた場合に、残業手当の支払いが必要になります。そのため、1日8時間、1週40時間を超えたとしても、直ちに残業代は発生しません。

(4)固定残業制

固定残業代制とは、毎月の給料の中に、あらかじめ一定時間分の残業手当が含まれている制度です。

固定残業代制が導入されている場合、一定時間分の残業手当は、固定残業代に含まれていますので、一定時間の範囲内であれば、残業をしたとしても、固定残業代とは別途残業代は発生しません。

(5)労働基準法の管理監督者

労働基準法上の管理監督者とは、経営者と一体的立場にある労働者のことをいいます。

このような労働基準法上の管理監督者にあたる場合には、労働基準法の労働時間、休日、休憩に関する規定が適用されませんので、残業手当は支払われません。ただし、管理監督者にあたるかは、部長やマネージャーといった肩書ではなく実態で判断するという点に注意が必要です。

(6)法律で残業代の支給がない業務

以下のような業務に関しては、法律上残業代の支給は不要とされています。

  • 農林業、水産畜産業など天候や自然条件に左右される業務
  • 守衛、門番など身体や精神への負担が少ない監視業務
  • マンション管理人など手待ち時間が多い断続的労働業務

(7)公務員

公務員のうち公立学校の教職員に関しては、残業手当の請求ができないとされています(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法3条2項)。

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4. 残業代が正しく支払われていない場合の対処法

残業代が正しく支払われていない可能性がある場合には、以下のような対処法を検討しましょう。

(1)正しい残業代を計算する

未払いの残業手当があるかどうかは、残業代の計算をしてみなければわかりません。そのため、まずは正しい残業代を計算する必要があります。

残業代の計算は、「1時間あたりの基礎賃金×残業時間×割増率」という計算式により算定します。正しい残業代を計算するには、各項目の意味を正しく理解することが重要です。

残業代の細かい計算方法などは、以下の関連コラムをご参照ください。

残業代を計算した結果、正しく残業手当が支払われていない場合には、次の対処法へと進んでいきます。

残業代の正しい計算方法は?

(2)未払い残業代の請求をする

未払い残業代があることが判明した場合、次は会社に対して未払い残業代を請求します。具体的な請求の手順は、以下のようになります。

①交渉

未払い残業代を請求する場合、会社との交渉により未払い残業代の支払いを求めていきます。

残業代の請求権には時効がありますので、時効の完成猶予の措置をとるためにも、まずは、内容証明郵便を利用して、書面で未払い残業代の請求を行います。その後、会社と交渉を行い、未払い残業代の金額や支払い方法などの取り決めを行っていくようにしましょう。

②労働審判

会社との交渉がまとまらなかった場合には、次の段階として、労働審判の申立てを行います。

労働審判とは、裁判官1人と労働審判員2人による労働審判委員会が公正中立な立場で審理・判断に加わり、労働者と使用者との間の紛争を解決する手続きです。労働審判は、話し合いの手続きを基本としながらも、審判という形での解決方法も残されています。

労働審判は、必ず利用しなければならない手続ではありませんが、話し合いの余地が残されているのであれば、労働審判を利用した方がスムーズな解決が期待できます。

③訴訟

会社との交渉や労働審判でも解決できない場合には、最終的に訴訟を提起しなければなりません。訴訟になれば専門的な知識や経験が必要になりますので、弁護士のサポートが不可欠です。

労働審判とは? 申し立ての手続きや費用、注意点を解説

(3)残業代請求の相談先

残業代請求でお困りの方は、一人で悩むのではなく、以下のような相談先を利用してみるとよいでしょう。

①労働組合

労働組合とは、労働条件や職場環境の改善を目的として、労働者により組織する団体です。

労働者個人では会社がまともに取り合ってくれない場合でも、労働組合の団体交渉を利用することで、労働者側の正当な権利を実現できる可能性があります。労働組合は、職場内にあることもありますし、職場にない場合には、地域ユニオンや職業別ユニオンなどに加入することもできます。

②労働基準監督署

労働基準監督署は、企業が労働基準法などの法令に違反しないように監督・指導を行う行政機関です。

残業手当の未払いがあった場合には、労働基準法違反となりますので、労働基準監督署に相談をすれば、必要な調査を行い、指導・勧告により違法状態が改善される可能性があります。

③弁護士

弁護士は、あらゆる法律問題を扱う専門家ですので、残業手当の未払いがあった場合にも弁護士に相談できます。

他の相談先とは異なり、労働者の代理人として会社との交渉を行うことができ、交渉が決裂した場合には、労働審判や訴訟などの手続きも任せることができます。労働者個人で対応するのが難しい場合には、弁護士に依頼して、弁護士のサポートを受けながら進めていくとよいでしょう。

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