残業代を請求するには何をしたらいい? 準備や請求方法を解説
- (更新:2025年01月06日)
- 労働問題

残業をした場合にその対価をもらうのは労働者として当然の権利です。未払いの残業代がある場合には、きちんと会社に対して請求することが大切です。
しかし、そのためには、残業代請求にあたって必要になる準備事項や残業代請求の流れを理解しておかなければなりません。また、残業代請求をする際には、いくつか押さえておくべきポイントもありますので、それらもしっかりと理解しておきましょう。
1. 残業代を請求する前に準備すべきこと
(1)自分の正しい残業代を把握する
会社に対して残業代請求をする前提として、そもそも未払いの残業代があるのかを把握しなければなりません。そのためには、「残業代の発生条件を知る」ことと「残業代の計算をする」ことが必要です。
①残業代の発生条件を知る
残業とは、法律または契約上定められている労働時間を超過して働くことをいいます。
労働基準法32条では、法定労働時間として原則として1日あたり8時間、1週間あたり40時間を超えてはならないと規定しています。また、同法35条の規定により、会社は法定休日として1週間あたり原則1日以上の休日を与えることが義務付けられています。
ただし、いわゆる36協定(同法36条に基づく、残業や休日労働についての協定)が会社と労働組合、または労働者の代表との間で締結されている場合、会社は労働者に対して法定労働時間を超過する残業を命じることができます。
そして、従業員に残業を命じた会社は同法37条の規定により、労働者に対して残業時間や休日労働日数に応じた所定の割増賃金、いわゆる残業代を支払うことが罰則付きで義務付けられています。
残業の種類は以下の通りです。
- 法定内残業(法内残業)
会社が独自に定める労働時間(所定労働時間)が1日8時間未満の場合に、所定労働時間を超えて8時間まで働くこと。 - 法定外残業(法外残業)
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて働くこと。 - 深夜労働
午後10時から翌午前5時までの労働 - 休日労働
法定休日に働くこと
法定外残業、深夜労働、休日労働に関しては、以下の割増率により増額した割増賃金の支払いが必要になります。なお、法定内残業については、特段の合意がない限り割増賃金はありません。
法外残業 | 25%以上 |
---|---|
月60時間超 | 50%以上 |
法定休日労働 | 35%以上 |
深夜労働 | 25%以上 |
②残業代の計算をする
残業代の計算は、以下のような計算式によって計算します。
1時間あたりの基礎賃金×割増率×残業時間
一定時間分の残業代を含めた金額を固定給とする「固定残業代」の制度が採用されている場合も、その一定時間を超えて残業すれば、残業代を請求できます。
たとえば月給20万円(10時間分の残業代2万円を含む)などとされていれば、10時間を超える残業について残業代請求ができます。
正確に残業代を計算するには、各項目の意味を正確に理解する必要がありますので、詳しくは以下のコラムをご参照ください。
(2)残業代の証拠を集める
残業代を請求するには、労働者の側で未払いの残業代があることやその金額を立証しなければなりません。十分な証拠がない状態で請求しても、支払いを拒否されたり、反論されたり、裁判で負けてしまう可能性がありますので、まずは残業代の証拠を集めることが大切です。退職してしまうと収集が難しくなる可能性があるので、できるだけ在職中から日常的に収集しておきましょう。
残業代を請求する際に必要になる証拠としては、以下のものが挙げられます。
- 給料に関する証拠(雇用契約書、就業規則、賃金規程、給与明細、源泉徴収票など)
- 残業時間に関する証拠(タイムカード、勤怠管理ソフトのデータ、業務日報、入退室記録など)
以下、具体的に説明します。
①タイムカードや日誌など
タイムカードで出退勤を管理している職場であれば、タイムカードをコピーして証拠として保管しておきましょう。タイムカードを採用していない職場でも、出退勤が記録されている業務日誌などがあれば証拠になりえます。
しかし、タイムカードの打刻後にサービス残業をしているケースもあるでしょう。その場合には、タイムカード以外の証拠で、残業していたことを立証する必要があります。
②パソコンやFAXなどの記録
たとえば、夜遅く会社のパソコンから取引先にメールを送信していた場合には、そのメールの送信履歴も証拠になる可能性があります。また、FAXの送信時間やパソコンのログイン・ログオフの履歴も残業していたことを示す証拠になりえます。
③スマホのやり取りやメモなど
たとえば、家族に「これから事務所を出て家に帰る」と伝えているLINEなどのメッセージも、残業の証拠になることがあります。また、残業していたことを記録した日記やメモも、証拠として認められる場合があります。
④通勤定期券など
Suica(スイカ)などを通勤定期券として使用している場合には、利用した日時の履歴が残されている場合があります。このような記録も残業を示す証拠となりえます。
⑤給与明細や就業規則、雇用契約書など
残業に対してどのような規定が設けられているのか、残業代として支払われていたのはいくらだったのかなどを確認できる証拠になり、普段の勤務形態から一定の推計ができることもあります。
これらの証拠だけでなく、証拠になりそうだと思ったものは収集しておくようにすることが大切です。
手元に十分な証拠がない場合には、以下のような手段によって証拠を確保できます。
- 会社に対する証拠開示請求
- 裁判所に対する証拠保全の申立て
会社(使用者)は、労働者との労働に関する書類を5年間保存しなければなりません(労働基準法109条)。弁護士を通し開示請求をすることにより、時間外労働の上限規制や労働時間が分かる書類などを提出してもらえる可能性があります。
会社が開示請求に応じず交渉が難航している場合には、裁判所における訴訟などの法的手続きを通じて残業代請求をすることができます。
証拠保全とは、会社側が証拠の処分や改ざんをするおそれがある場合に、その証拠を確保することができる制度です。証拠保全手続きは非常に複雑な手続きのため、弁護士に依頼するとよいでしょう。
(3)残業代請求の「消滅時効」に注意
残業代を請求する権利には、時効がありますので、権利を行使することなく一定期間が経過してしまうと、時効により権利が消滅してしまいます。具体的な時効期間は、給料の支払い日の翌日から起算して3年とされています。そのため、未払いの残業代がある場合には、早めに請求していくことが大切です。
ただし、時効には、時効の完成猶予または更新といった時効の完成を阻止できる制度があります。そのため、以下のような方法をとることで、時効期間の進行をストップ(時効の完成猶予)またはリセット(時効の更新)できます。
- 内容証明郵便による未払い残業代の請求(時効の完成猶予:6か月間)
- 会社が未払い残業代の支払い義務を認める(時効の更新)
- 労働審判の申立(申立時に時効の完成猶予、調停成立・審判確定時に時効の更新)
- 訴訟提起(訴訟提起時に時効の完成猶予、判決確定時に時効の更新)
2. 残業代請求の流れ
会社に対して未払い残業代を請求する場合、以下のような流れで行います。
(1)証拠を集める
会社に未払い残業代を請求するためには、未払い残業代がある事実を労働者自身が立証する必要があります。そのためには、証拠が不可欠です。タイムカードやパソコンのログイン・ログオフ記録、会社のパソコンから送信したEメールなど、実際に残業した時間を証明するものを集めてください。
なお、あなたが自身で記録した日々の勤務時間も、証拠として認められる可能性があります。
(2)内容証明郵便を送る
会社に対して未払い残業代を請求する場合、まずは、未払い残業代の支払いを求める内容の通知書を作成し、それを内容証明郵便で送ります。内容証明郵便には、未払いの残業代の支払いを強制する効力はありませんが、いつ・どのような文書が相手に届いたのかを証明できます。そのため、時効の完成を阻止する場面では有効な手段といえるでしょう。
(3)会社側と直接交渉する
内容証明郵便が届いたタイミングで、会社との交渉を行います。会社によっては、真摯に対応してくれない場合や、交渉自体を拒否される場合もあります。スムーズに話し合いが進まないこともありますので、そのことも理解したうえで交渉を進めていきましょう。
なお、会社に在籍中に残業代の請求をするのが気まずいという場合は、退職後に残業代請求をすることも可能です。その場合には、残業代の時効に注意が必要です。
(4)労働基準監督署に申告する
未払いの残業代がある場合、会社と直接交渉する方法以外にも労働基準監督署に申告するという方法もあります。
労働基準監督署は、企業が労働基準法などの法令に違反することがないように指導・監督を行う行政機関です。残業代の未払いは、労働基準法に違反しますので、労働者から申告があれば、労働基準監督署が調査を行い、法令違反が確認できたら指導・是正勧告を行ってくれます。労働基準監督署の指導・是正勧告には強制力はありませんが、会社がそれに任意に従うのであれば、未払いの残業代を支払ってくれる可能性があります。
(5)労働審判を利用する
労働審判とは、労働者と使用者との間の労働問題を解決することを目的とした裁判所の紛争解決制度です。
労働審判の平均審理期間(平成18年(2016年)から令和4年(2022年)まで)は、81.2日となっていますので、通常の民事訴訟よりも迅速な解決が期待できる手続きです。また、労働審判では、まずは調停による解決が試みられますので、柔軟な解決が期待でき、それが難しい場合に労働審判という形で事案に即した判断が行われます。労働審判の申立は義務ではありませんが、話し合いによる解決の余地が残されているのであれば、労働審判の利用を検討してみてもよいでしょう。
(6)通常訴訟を提起する
会社との交渉や労働審判で解決できない場合は、裁判所に未払い残業代請求訴訟を提起します。裁判では、労働者の側で未払い残業代があることおよびその金額を主張・立証していかなければなりません。非常に複雑かつ専門的な手続きになりますので、適切に訴訟手続きを進めていくためには、専門家である弁護士のサポートが不可欠です。
裁判所が労働者側の主張を認めた場合には、会社側に残業代の支払いを命じる判決を言い渡します。
(7)強制執行
裁判所の判決が確定後も会社が任意に残業代の支払いを行わない場合には、裁判所に強制執行の申立てを行います。会社に差し押さえるべき財産があれば、それを差し押さえて、未払いの残業代を強制的に回収できます。
残業代請求はどんなときに強制執行できる? 知っておきたいことは
3. 残業代請求で知っておきたいポイント
残業代請求をする際には、以下のポイントを押さえておくことが大切です。
(1)会社との交渉は必ず記録に残しておく
会社と交渉をする際には、どのようなやり取りをしたのかを記録に残しておくことが大切です。記録を残しておけば、「言った・言わない」の水掛け論になることを防ぐことができますし、後日裁判をする際の証拠にも利用できます。口頭での交渉だと記録化が難しいこともありますので、交渉は、できる限り書面のやり取りによって進めていくようにしましょう。
(2)残業代未払いの相談先は?
残業代未払いのような労働問題について相談できる窓口の一例として、以下が挙げられます。
- 総合労働相談コーナー
全国の労働局や労働基準監督署内に、厚生労働省により設置されている相談窓口 - 労働基準監督署
厚生労働省の出先機関で、企業などの使用者が労働基準関係法令を順守しているか監督 - NPO法人POSSE残業代請求サポートセンター
労働問題を中心に活動しているNPO法人 - 全労連 労働問題ホットライン
全国労働組合総連合(日本全国の労働組合の中央組織)により運営されている労働問題の相談窓口
上記のほかに、検討していただきたい相談先が弁護士です。未払い残業代をはじめとする、労働問題の解決に知見と実績のある弁護士であれば、各種の法的なアドバイスはもちろんのこと、あなたの代理人として会社と交渉を行うなど、解決に向けた対応が可能です。
(3)残業代請求を弁護士に依頼することのメリット
残業代請求は、労働者個人でも行うのも不可能ではありません。しかし、弁護士に依頼すれば、証拠収集や残業代の計算、会社との交渉、労働審判・訴訟などの手続きをすべて任せることができます。それにより労働者の負担は大幅に軽減し、有利な条件で解決できる可能性も高くなります。一人で対応するのが不安に感じる方は、強力な味方になってくれる弁護士に依頼するのがおすすめです。
ただし、弁護士に依頼する際には、費用倒れにならないようにしなければなりません。そのため、弁護士への依頼をお考えの方は、まずは弁護士に相談して具体的な費用の見積もりを提示してもらうとよいでしょう。
- こちらに掲載されている情報は、2025年01月06日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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