残業代請求はどんなときに強制執行できる? 知っておきたいことは
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残業代請求はどんなときに強制執行できる? 知っておきたいことは

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

未払いの給料・残業代が発生しているときは、会社に対して段階を踏んで請求を行いましょう。任意の支払いに応じない場合は、最終的に訴訟などを経て強制執行を申し立てます。

今回は残業代請求の手続きの流れや、最終段階に当たる強制執行の概要などを解説します。

1. 残業代請求の手続きの流れ

未払いとなっている残業代を請求する際には、以下の手順で対応しましょう。

  1. 残業代の支払いについて会社と交渉する
  2. 残業代請求訴訟などで債務名義を得る
  3. 強制執行を申し立てる

(1)残業代の支払いについて会社と交渉する

まずは会社の人事担当者などに連絡を取り、未払いの残業代がある旨を伝えます。

そして、残業の事実を示す証拠と労働基準法に基づく適正な金額を提示しながら、未払い残業代の支払いを求めて交渉しましょう。

<残業の証拠例>

  • 勤怠管理システム、タイムカードの記録
  • オフィスの入館記録、退館記録
  • 交通系ICカードの乗車記録
  • タクシーの領収書
  • 業務上のメールや成果物
  • 業務日誌

など

交渉を通じて会社が支払いに応じれば、早期に未払い残業代を回収できます。

なお、残業代請求権は発生から3年(2020年3月31日以前に発生したものは2年)で時効消滅します。残業代請求権の消滅時効が完成していると、会社に時効を援用されて請求できなくなる可能性が高いのでご注意ください。

(2)残業代請求訴訟などで債務名義を得る

未払い残業代の支払いに関する交渉がまとまらなければ、法的手続きを通じて回収を目指しましょう。

強制執行を見据えると、まずは法的手続きによって債務名義を取得する必要があります。

債務名義とは、強制執行を申し立てる際に提出すべき公文書です(民事執行法第22条)。たとえば以下の公文書が債務名義に当たります。

  1. 確定判決、仮執行宣言付判決、和解調書
    訴訟によって取得できます。
  2. 調停調書
    民事調停または労働審判によって取得できます。
  3. 審判書
    労働審判によって取得できます。
  4. 仮執行宣言付支払督促
    裁判所に支払督促を申し立て、会社側から異議申立てが行われなかった場合に取得できます。

など

残業代請求の債務名義は、労働審判または訴訟を通じて取得するのが一般的です。弁護士のサポートを受けながら手続きを進め、債務名義の取得を目指しましょう。

(3)強制執行を申し立てる

債務名義の取得後、なお会社が未払い残業代を支払わない場合は、裁判所に強制執行を申し立てることができます。

強制執行を申し立てれば、会社の財産から強制的に未払い残業代を回収できます。

2. 残業代請求の最終段階

強制執行とは?

強制執行は、未払い残業代請求の最終段階に位置づけられる手続きです。

強制執行を申し立てると、債務の支払いを拒否する債務者の財産が差し押さえられ、強制的に弁済へ充てられます。未払い残業代についても、債務名義を提出して裁判所に申し立てを行えば、強制執行による回収を図ることができます。

(1)差し押さえの対象となる財産

強制執行を通じて差し押さえることができるのは、差押禁止財産(民事執行法第131条、第152条など)を除く債務者の財産です。たとえば、以下のような財産が強制執行の対象となります。

  • 現金
  • 預金債権
  • 売掛金債権
  • 不動産
  • 機械類
  • 高価な美術品、骨董品

など

未払い残業代の強制執行については、個人事業主が使用者である場合を除き、会社などの法人が債務者となります。

法人を債務者とする強制執行では、個人が債務者の場合に比べると、差押禁止財産の範囲は狭いです。ただし、事業に不可欠な機械・器具などは差押禁止に当たる可能性があります。

なお、強制執行を申し立てる際には、差し押さえるべき債務者の財産を特定しなければなりません。

たとえば預金債権を差し押さえる場合、会社が口座を有する銀行の支店を特定する必要があります。売掛金債権を差し押さえる場合、契約の種類や仕事の内容などを特定しなければなりません。

会社財産に関する情報は、弁護士に依頼して弁護士会照会を行ってもらうか(弁護士法第23条の2)、または民事執行法に基づく財産開示手続(同法第196条以下)、第三者からの情報取得手続(同法第204条以下)を利用することで取得できる可能性があります。

(2)強制執行の申し立て方法・申し立て先

強制執行は、差し押さえるべき会社の財産を特定した上で、裁判所に申立書と執行文の付与された債務名義などを提出して申し立てます。執行文は、裁判所書記官に申し立てれば付与してもらえます(民事執行法第26条第1項)。

強制執行の申し立て先は、差し押さえるべき財産の種類によって、以下のとおり決まっています。

  1. 不動産を差し押さえる場合(不動産執行)
    不動産の所在地を管轄する地方裁判所(民事執行法第44条第1項)
  2. 船舶を差し押さえる場合(船舶執行)
    強制競売の開始決定時における船舶の所在地を管轄する地方裁判所(同法第113条)
  3. 動産を差し押さえる場合(動産執行)
    差し押さえるべき動産の所在地を管轄する地方裁判所に所属する執行官
  4. 債権を差し押さえる場合(債権執行)
    債務者(元配偶者)の普通裁判籍の所在地(住所など)を管轄する地方裁判所(同法第144条第1項)

残業代請求の進め方、強制執行の申し立て方が分からない労働者の方は、弁護士にご相談ください。

弁護士JP編集部
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法的トラブルの解決につながるオリジナル記事を、弁護士監修のもとで発信している編集部です。法律の観点から様々なジャンルのお悩みをサポートしていきます。

  • こちらに掲載されている情報は、2023年03月28日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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