職場でのいじめ・パワハラで労災認定をもらうには
- 労働問題
1. いじめ・パワハラで労災認定されるための基準がある
いじめやパワハラが原因でうつ病などを発症した場合、労災認定を受けることができるのでしょうか。
(1)労災とは
労災とは、業務中または通勤中の出来事が原因となり、怪我、病気、障害、死亡などが生じることをいいます。労働基準監督署により労災認定を受けられれば、労災保険から、治療費の補償、休業中の賃金の補償などさまざまな補償が受けられます。
職場内でのいじめやパワハラは、業務中の出来事にあたりますので、一定の基準を満たせば労災認定を受けられる可能性があります。
(2)職場でのいじめ・パワハラの主な種類
職場内でのいじめ・パワハラには、以下の6つの類型があります。
①身体的な攻撃
- 叩く、殴る、蹴るなどの暴行を受ける
- 書類を投げつけられる
②精神的な攻撃
- 同僚の前で叱責される
- 他の従業員も宛先に含めたメールで罵倒される
- 必要以上に長時間、繰り返し執拗(しつよう)に叱る
③人間関係からの切り離し
- 1人だけ別室に席を移される
- 性的嗜好(しこう)、性自認などを理由に職場で無視される
- コミュニケーションをとらない
- 送別会に出席させない
④過大な要求
- 新人で仕事のやり方がわからないのに、大量の仕事を押し付けられた
- 到底達成が不可能なノルマを課されて、達成不能を理由に罵倒された
⑤過小な要求
- 管理職なのに草むしりや倉庫整理しかやらせてもらえない
- 会社に出社しても仕事を与えてもらえない
⑥個の侵害
- 交際相手について執拗に問われる
- 個人的な秘密を他の同僚に勝手に打ち明けられた
(3)いじめ・パワハラでの労災認定の基準
いじめやパワハラを理由として労災認定を受けるためには、以下の基準を満たす必要があります。
①精神障害を発症していること
労災認定基準では、対象となる疾病が定められていますが、業務に関連して発病する可能性のある精神障害としては主に以下のものになります。
- 統合失調症
- うつ病
- 急性ストレス反応
職場でのいじめ・パワハラによりこれらの精神障害を発症していれば、労災認定基準の1つ目の要件を満たします。
②発症前おおむね6か月間に業務による強い心理的負荷が認められる
対象となる疾病の発病前おおむね6か月間に、対象疾病を発病させるおそれのある強い心理的負荷の生じる出来事があった、といえることが要件となります。
心理的負荷が強いと認められるいじめ・パワハラとしては、以下のものが挙げられます。
- 上司などから治療を要する程度の暴行などの身体的攻撃を受けた
- 上司や同僚から暴行などの身体的攻撃を繰り返し受けた
- 上司などによる業務上の必要性のない精神攻撃や社会通念上相当性のない精神攻撃が執ように行われた
- 上司などにより心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃・精神的攻撃が行われたものの、会社に相談しても適切な対応がなく改善されなかった
③職場以外の心理的負荷により発病したものでない
うつ病などの精神障害を発病したとしても、それが職場以外の心理的負荷により発病したものであるときは、労災認定を受けることができません。
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2. いじめ・パワハラで労災認定をもらうための手続きの流れ
いじめ・パワハラで労災認定をもらうためには、以下の手続きが必要です。
(1)労働基準監督署に申請書をもらう
いじめ・パワハラによりうつ病などの精神障害を発病した場合、まずは、労働基準監督署に療養補償給付の申請を行い、うつ病の治療費を労災保険から補償してもらう必要があります。
その際には、以下のような申請書が必要になります。
- 療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)
この申請書は、労働基準監督署の窓口に備え付けてありますが、厚生労働省のホームページ上からもダウンロードできます。
(2)会社に事業主証明をもらう
労災の申請書には、事業主証明欄がありますので、その部分については、会社に記載してもらわなければなりません。
ただし、いじめやパワハラを理由に労災申請をするケースでは、会社が素直に応じてくれないこともあります。その場合には、事業主証明なしでも申請できる可能性がありますので、労働基準監督署に相談してみるとよいでしょう。
(3)病院で治療を行う
労災保険指定医療機関で治療をすれば、窓口で治療費を負担する必要はありません。治療を受けた医療機関で労災の申請書を提出すると、医療機関経由で申請書が労働基準監督署に提出されます。
労災保険指定医療機関以外で治療をする場合、一旦治療費全額を立て替えて支払い、後日還付を受けるという流れになります。この場合には、申請書に医師からの証明が必要になりますので、治療を担当した医師に記入をお願いしておきましょう。
(4)労働基準監督署に書類を提出
労災保険指定医療機関以外で治療を受けた場合、労働者自身で申請書を労働基準監督署に提出しなければなりません。
3. 退職後の労災申請
退職後であっても労災申請は可能です。以下では、退職後の労災申請の手続きについて説明します。
(1)労災申請後に退職した場合
労災保険を申請している状態で、会社を退職してしまうと労災保険給付がストップしてしまうのではないかと不安に感じる方もいると思います。 労働者災害補償保険法では、「保険給付を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはない」と規定されています(労働者災害補償保険法12条の5第1項)。そのため、休職などで申請している状態で会社を退職したとしても、労災保険給付は継続して受けることができます。
(2)退職してから労災申請した場合
労災申請は、会社に在籍していなければ申請できないと考える方も少なくありません。
労働者災害補償保険法では、「保険給付を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはない」と規定されています(労働者災害補償保険法12条の5第1項)。そのため、会社を退職した後であっても労災申請が可能です。
ただし、労災申請にあたっては、事業主証明欄の記載が必要になりますので、退職後に会社から書類への認証印を押してもらわなければなりません。
(3)労災の認証印に会社が応じてくれない場合は?
職場いじめやハラスメントが退職の理由である場合、すでに辞めた会社から認証印をもらおうとしても、協力を拒まれてしまうこともあります。 しかし、事業主の認証印がなければ労災申請ができないということはありません。事業主による協力が得られない旨を労働基準監督署で説明すれば、事業主の証明欄を空白にしたまま申請することも可能です。
- こちらに掲載されている情報は、2024年04月01日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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