離婚にともなう慰謝料の相場と請求方法

  • (更新:2024年10月04日)
  • 離婚・男女問題
弁護士JP編集部 弁護士JP編集部
離婚にともなう慰謝料の相場と請求方法

離婚の責任が配偶者にある場合は、配偶者に対して離婚慰謝料を請求できる可能性があります。

1. 離婚慰謝料とは

離婚慰謝料とは、夫婦のうち離婚の原因を作った側が、配偶者に対して支払う慰謝料です。

(1)離婚慰謝料の概要

離婚慰謝料には、以下の2つの要素が含まれていると解されています。

①離婚自体慰謝料

離婚によって夫婦関係を解消せざるを得ないことによる精神的苦痛の賠償金です。

②離婚原因慰謝料

離婚の原因となった不法行為(不倫やDVなど)による精神的苦痛の賠償金です。

ただし実際には、上記の2つを区別することなく、一括して離婚慰謝料の金額を取り決めるのが一般的です。

離婚慰謝料は一般的に、離婚の原因につながる行為をした配偶者(有責配偶者)に対して、もう一方の配偶者が請求します。相手から自動的に受け取れるものではなく、請求しなければ受け取れません。

特別な事情がない限り、不倫相手に対する請求は認められないと考えられています(最判平成31年2月19日)。

(2)不貞慰謝料(不倫慰謝料)との違い

「不貞慰謝料(不倫慰謝料)」は、不倫行為自体に対する慰謝料です。離婚慰謝料とは異なり、離婚しなくても請求できます。また配偶者の不倫相手にも請求可能です。ただし配偶者と不倫相手から二重取りはできません。

たとえば慰謝料が100万円の場合、配偶者と不倫相手からそれぞれ50万円ずつ、または不倫相手だけから100万円を支払ってもらうことは問題ありません。ですが双方から100万円ずつ(合計200万円)は受け取れません。

2. 離婚慰謝料の消滅時効

慰謝料請求には時効があり、一定の期間を経過してしまい、相手方がそれを主張すると、慰謝料を請求しても認められなくなってしまいます。

離婚慰謝料は、以下のいずれかの期間が経過するまでの間に請求する必要があります(民法第724条)。

①被害者が損害および加害者を知ったときから3年

(例)不貞行為(不倫)の場合、不倫の事実と不倫相手を知ったときから3年

②不法行為のときから20年

(例)不貞行為(不倫)の場合、不倫が行われたときから20年

なお、消滅時効は時効期間を過ぎれば自動的に成立するわけではありません。相手に消滅時効が完成したことを告げる「援用」という手続きが必要で、援用が行われていない限り、時効によって請求が否定されることはありません。

また、時効が完成していても、相手が同意すれば慰謝料を払ってもらうことは可能です。

離婚慰謝料の請求時効については、以下のコラムもご参照ください。

不倫の慰謝料請求には時効がある?請求のベストタイミングとは

3. 離婚慰謝料の時効完成前にすべきこと

離婚慰謝料の消滅時効が迫っている場合には、時効をストップさせる必要があります。できるだけ早く時効の「完成猶予」または「更新(中断)」をしましょう。

(1)時効の完成猶予

「時効の完成猶予」とは、時効のカウントを一定期間止めることです。主に次のような手段があります。

  • 内容証明郵便を使った請求(催告)
  • 裁判上の請求
  • 強制執行

一番手軽なのは「内容証明郵便を使った請求」です。

債務者に対して支払いを求めることを「催告」といい、一般的には配達証明が付く内容証明郵便を利用して行います。催告で時効の完成を猶予できる期間は「6か月」です。その間に交渉を行い、応じないようであれば訴訟を提起する必要がありますので注意しましょう。

また、慰謝料請求訴訟を起こしたり、民事調停や強制執行を申し立てたりすれば、それらが終結するまでの間は時効の完成が猶予されます。

裁判の結果、判決で慰謝料請求が認められたり和解が成立したりした場合は、そこから「10年間」の消滅時効が進行し始めます。

ただし、取下げにより終了した場合には、当初の3年で時効が成立してしまいますので、注意が必要です。

なお、一般的に強制執行には確定判決などが必要ですが、離婚時に「○○は、本証書記載の金銭債務を履行しない場合は、強制執行に服する旨を陳述した」といった、強制執行認諾文言付の公正証書を作成すれば、それをもとに強制執行ができます。

(2)時効の更新

「時効の更新」とは、時効を一旦リセットし、またゼロからカウントを始めることです。主な更新の手段は、次のとおりです。

  • 調停の成立、裁判の勝訴判決
  • 強制執行の実施
  • 債務の承認

裁判の勝訴判決の確定、調停・和解の成立、強制執行(差し押さえ命令)によって、時効は更新されます。なお確定判決や調停・和解の成立によって消滅時効期間は10年になります(民法第169条)。

債務者に慰謝料の支払い義務があることを認めさせる「債務の承認」も時効更新の手段です。たとえば配偶者と話し合って支払いに関する合意書を作成する、慰謝料を一部でも支払ってもらうといった方法があります。

承認は口頭でも成立しますが、「言った・言わない」のトラブルを防止し裁判時の証拠とするためにも書面にしておくのがおすすめです。

ただし、書面の内容次第では債務の承認として有効と認められない可能性がありますので、時効が迫っている場合には、内容証明郵便による催告を行うことや、訴訟を提起することを検討されるとよいでしょう。

時効の更新はややハードルが高いため、一般的にはまずは内容証明郵便による請求などで時効の完成を猶予し、その間に調停や裁判の準備を進めます。調停や判決によって慰謝料の支払い義務が確定しても支払われない場合には、最終的には強制執行により慰謝料の回収を目指します。

4. 離婚慰謝料の消滅時効期間を過ぎた場合の対処法

不倫慰謝料の消滅時効期間が過ぎてしまったとしても、時効期間内に配偶者や不倫相手によって「権利の承認」(民法第152条第1項)がなされたと認められる場合には、消滅時効が更新され、リセットされます。

「権利の承認」とは、債務者が債権者に対して、自ら債権の存在を認めることをいいます。また、債務者が債権の存在を前提とした行為をした場合も、黙示的に「権利の承認」があったと認められます。

権利の承認に該当うる行為の例は、以下のとおりです。

  • 債務の支払いを待ってほしいと頼む行為(支払い猶予の要請)
  • 債務の一部を弁済する行為
  • 反対債権との相殺を主張する行為

など

配偶者の過去の行動を細かく分析することにより、権利の承認に該当する行為が見つかる可能性があるので、一度弁護士に相談してみましょう。

また、時効期間が経過した後になされた権利の承認の場合も、これによりその後に時効を援用することが許されず、結果として期間の経過により権利が消滅しない場合があります。権利の承認にあたりうるかもしれないと考える事情がある場合には、弁護士にご相談されるとよいでしょう。

5. 離婚慰謝料を請求できるケースと金額相場/請求できないケース

離婚慰謝料を請求できるのは、配偶者が不法行為をした場合に限られます。必ず離婚慰謝料を請求できるわけではない点にご注意ください。

(1)離婚慰謝料を請求できるケースと金額相場

離婚慰謝料を請求できるケースとしては、以下の例があげられます。

①不貞行為

配偶者が自分以外の者と性交渉をした場合は、不貞行為の慰謝料を請求できます。

夫婦は互いに別の異性と性行為をしないという「貞操義務」を負っています。不倫はこれに反する行為であり、不倫をされた配偶者は精神的な苦痛を負います。

なお一般的には不倫で慰謝料が請求できるのは性行為があった場合のみですが、メッセージのやりとりや手をつないだだけといった場合でも、それが原因で夫婦関係を破たんさせたことが明らかであれば、慰謝料請求が認められる可能性もあります。

②DV

配偶者が自分に対して殴る蹴るといった身体的な暴力を振るった場合は、DVの慰謝料を請求できます。

③モラハラ

配偶者が自分に対して侮辱や脅しなどの精神的な攻撃をしてきた場合は、モラハラの慰謝料を請求できます。

④悪意の遺棄

配偶者が勝手に別居する、生活費を全く支払わないなど、夫婦の協力義務・同居義務・扶助義務に違反する行為をした場合は、悪意の遺棄の慰謝料を請求できます。

その他には、ギャンブルによる多額の借金やアルコール依存、性行為の強要、理由のない性行為の拒否(セックスレス)なども、それによって離婚した場合には、離婚慰謝料の請求が認められる可能性があります。

離婚慰謝料の金額は、100万円から300万円程度が標準的です。実際の慰謝料額は、配偶者の行為の悪質性や夫婦関係の状況などによって異なります。

(2)離婚慰謝料を請求できないケース

これに対して、以下のようなケースでは、配偶者の不法行為が認められず、離婚慰謝料は請求できない可能性が高いです。

①性格の不一致や生活のすれ違いが原因で離婚する場合

性格の不一致や生活のすれ違いでは、どちらか一方だけに離婚に至った責任があるとはいえません。配偶者に非がある具体的な行為を立証できない限り、離婚慰謝料は認められないと考えられます。

②ご自身の行為が原因で離婚する場合

ご自身の不貞行為などが離婚の原因である場合、配偶者に対して離婚慰謝料を請求できないばかりでなく、反対に配偶者から離婚慰謝料を請求される可能性があります。

③不倫の前に婚姻関係が破たんしていた

配偶者が不倫していたとしても、そのときすでに長期間別居していたなど夫婦関係が破たんしていた場合には、その不倫が離婚の原因とは言えないとして、慰謝料請求が認められないと判断される可能性が高くなります。

夫婦それぞれが不倫をする、いわゆるダブル不倫の場合で、双方に同じくらい離婚に至った責任があるとみられる場合も、慰謝料請求が認められない可能性が高くなります。

④慰謝料請求の時効が過ぎている

慰謝料請求の消滅時効を過ぎてしまい、それを相手方から主張された場合には、慰謝料請求は認められません。

DVやモラハラがあった場合、早期の離婚成立を優先して慰謝料を決めずに離婚することは珍しくありません。ですが離婚後に「やっぱり慰謝料を払ってほしい」と思った場合は、時効になる前に請求する必要があります。

離婚慰謝料を請求できるケースとできないケースについては、以下のコラムもご参照ください。

離婚慰謝料を請求できる条件は? できないケースもある?

離婚するときに慰謝料を請求する方法は? どのようなときにもらえるのか

不倫と浮気はどう違う? 慰謝料請求が可能なケースについて

DVで離婚した場合の慰謝料はいくら? 証拠の集め方、請求方法を解説

6. 離婚に関する慰謝料を請求する方法

離婚に関する慰謝料は、不法行為をした配偶者に対して請求できるほか、不貞行為(不倫)の場合は不倫相手に対しても請求できます。

配偶者と不倫相手のそれぞれに対する、慰謝料請求の方法を解説します。

(1)配偶者に対する慰謝料請求

配偶者に対する慰謝料請求は、離婚手続きの中で行うのが一般的です。具体的には、離婚協議・離婚調停・離婚裁判の各手続きを通じて請求します。

①離婚協議

他の離婚条件と併せて、慰謝料の金額などを夫婦間で話し合います。合意が成立したら、その内容を公正証書にまとめて締結しましょう。仮に慰謝料などの金銭が不払いとなった場合でも、公正証書があれば直ちに強制執行を申し立てることができます。

②離婚調停

家庭裁判所において、調停委員による仲介のもと、他の離婚条件と併せて慰謝料の金額などを話し合います。合意が成立したら、その内容が調停調書に記載され、離婚の成立とともに慰謝料の支払い義務が確定します。

③離婚裁判

離婚協議・離婚調停が成立しない場合は、家庭裁判所に離婚裁判を提起しましょう。離婚裁判では、慰謝料も請求できます。法定離婚事由の存在を立証し、さらに慰謝料請求権についても立証に成功すれば、離婚判決の主文において慰謝料の支払いが命じられます。

なお、配偶者と離婚しない場合には、慰謝料だけを独立して請求することもできます。また、離婚時に慰謝料を精算しなかった場合は、離婚後に慰謝料を請求することも可能です。これらの場合には、次の項目で解説する不倫相手への慰謝料請求と同様に、示談交渉や訴訟を通じて慰謝料を請求します。

(2)不倫相手に対する慰謝料請求

不倫相手に対する慰謝料請求は、「示談交渉」または「訴訟」のいずれかにより行うのが一般的です。

①示談交渉

内容証明郵便などを送付したうえで、慰謝料の金額などについて交渉を行います。合意が成立したら、その内容を書面にまとめて締結しましょう。公正証書の形で締結すれば、不払いが生じてもスムーズに強制執行を申し立てることができます。

②訴訟

裁判所に訴訟を提起して、不倫相手に対して慰謝料の支払いを命ずる判決を求めます。不倫相手の故意・過失や、ご自身に生じた精神的損害などを、証拠に基づいて立証しなければなりません。

不倫相手に対する慰謝料請求訴訟の提起先は、地方裁判所または簡易裁判所です。家庭裁判所に提起する離婚裁判とは、訴状の提出先が異なるのでご注意ください。

なお、配偶者と不倫相手のいずれに対しても、慰謝料全額を請求できます。二重取りは認められませんが、請求額の配分は選択可能です。

(例)慰謝料額が200万円の場合に、配偶者に対して50万円、不倫相手に対して150万円を請求する

不倫相手に対する慰謝料請求については、以下のコラムもご参照ください。

不貞行為による慰謝料、配偶者の不倫相手に請求できる? その相場は?

配偶者の不倫相手が慰謝料を払わない場合の対応方法

不倫相手にだけ慰謝料を請求したい場合の手続きについて解説

(3)配偶者の借金が原因で離婚する場合

慰謝料の支払いを求める場合、相手の支払い能力が大きな問題になります。相手に支払い能力がなくても、請求をすることはできますが、支払いの能力がなければ裁判で慰謝料が認められても支払ってもらえず、差し押さえるものもないということになれば、費用倒れになるかもしれません。

借金をするということは資金に余裕がないということであり、借金が原因の離婚では希望通りの慰謝料満額を得るのは難しいといえます。そこで次のような方法で少しでも多く回収を図りましょう。

①財産分与で受け取る

離婚の際は、通常は財産分与を行います。財産分与の対象となる財産には、夫婦が結婚後に築いた財産であれば現金や預貯金だけでなく家や車、家電製品なども含まれます。

分与の割合は原則2分の1ですが、慰謝料の代わりに財産を2分の1よりも多く受け取るという手段をとることも可能です。

②分割払いにする

相手から一括で支払ってもらうのが難しい場合は、分割払いも検討しましょう。給料日の後などに支払日を設定するなど、条件を話し合って決めてください。ただし、この場合には支払いを確保し、支払われない場合には強制執行を行うことができるように対策を取る必要があります。

③強制執行をする

協議離婚をする際に慰謝料の支払いなどに合意したら内容を離婚協議書などにまとめ、「強制執行を認める」という趣旨の文言を付けて、強制執行認諾文言付き公正証書にしておきましょう。

相手が約束どおりに慰謝料を払わない場合、それに基づき財産や給料を差し押さえるなどして強制的に回収できます。調停や裁判で離婚と慰謝料について取り決めた場合は、調停調書や判決に基づいて強制執行を進めます。

なお相手が債務整理の一つである「自己破産」をして免責された場合は、原則として慰謝料は請求できないという点には気をつけなければいけません。

慰謝料の金額は婚姻期間の長さや離婚原因となった行為の期間や程度、相手の仕事や財産の状況によって変わってきます。また離婚時には慰謝料以外にも、財産分与や子どもの養育費、親権なども決めなければいけません。

慰謝料請求の可否や金額については、離婚問題に詳しい弁護士に相談すればアドバイスをもらえます。調停・裁判などのサポートもしてもらえますので、相談をご検討ください。

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  • こちらに掲載されている情報は、2024年10月04日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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