退職金の財産分与と年金分割制度

  • 離婚・男女問題
弁護士JP編集部 弁護士JP編集部
退職金の財産分与と年金分割制度

離婚をする際に不安になるのが将来の経済面です。特に、専業主婦の方だと十分な蓄えもなく、離婚後にやっていけるのか心配になることも多いでしょう。

このような不安については、退職金の財産分与や年金分割を求めることで解消することができます。離婚後に安心して生活していくためにも財産分与や年金分割はしっかりと取り決めることが大切です。

1. 退職金は財産分与の対象となる?

退職金は、常に財産分与の対象になるわけではありません。以下では、退職金と財産分与の関係について説明します。

(1)離婚時の退職金の取り扱い

財産分与とは、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産を清算する制度です。

退職金には、給与の後払い的性質があり、夫に支払われる退職金は、婚姻期間中の妻の協力があって得られたものといえますので、財産分与の対象となる財産に含まれる場合があります。

ただし、財産分与の対象になるのは、あくまでも夫婦の協力関係により形成された部分に限られます。そのため、「勤務期間」と「婚姻期間」が重なる部分の金額のみが財産分与の対象になります。

(2)財産分与の対象となるケースと計算方法

退職金が財産分与の対象になるのは、主に以下の2つのケースです。

①退職金がすでに支払われており、手元に残っているケース

退職金がすでに支払われており、それが手元に残っている場合には、そのうち婚姻期間に対応する部分が財産分与の対象になります。このケースでは、以下の計算式で財産分与の対象額を求めます。

財産分与の対象額=退職金の金額×婚姻期間÷勤務期間

財産分与の対象額
(すでに退職金が支払われている場合)
すでに
支払われた
退職金
婚姻期間
勤続期間

たとえば、退職金の金額が3000万円、婚姻期間が20年で働いていた期間が30年(重なる部分は20年)の夫婦だと、「3000万円×20年÷30年=2000万円」が財産分与の対象です。

②退職金の支払いが確実であるケース

退職金は、会社の経営状態や退職理由によっては、支払われない可能性もあります。そのため、まだ退職金が支払われていないケースでは、定年退職前に一律に財産分与の対象としてしまうと将来の状況次第で不都合な結果になるおそれがあります。

そこで、退職金がまだ支払われていないケースでは、退職金の支払いがほぼ確実であるといえる場合に財産分与の対象となります。退職金の支払いの確実性については、以下のような事情を考慮して判断します。

  • 会社の退職金支給規定の有無および内容
  • 会社の規模、経営状態
  • 退職金が支払われるまでの期間
  • これまでの勤務状況

このケースにおける財産分与の対象額を計算する方法には、「現時点で退職したと仮定して計算する方法」と「定年時に退職したと仮定して計算する方法」の2つの方法があります。

【現時点で退職したと仮定して計算する方法】

財産分与の対象額=現時点で退職したときに支払われる退職金×婚姻期間÷勤務期間

財産分与の対象額
(現時点で退職したと仮定する場合)
現時点で
支払い予定の
退職金
婚姻期間
勤続期間

【定年時に退職したと仮定して計算する方法】

財産分与の対象額=定年時に退職したときに支払われる退職金×婚姻期間÷勤務期間×退職時までの年数のライプニッツ係数

財産分与の対象額
(定年時に退職したと仮定する場合)
定年退職時
支払い予定の
退職金
婚姻期間
勤続期間
退職時までの
ライプニッツ係数

(3)退職金の分割方法

退職金の財産分与は、まずは夫婦の話し合いで決めていきます。一般的には、協議離婚の際の条件の一つとして話し合いが行われます。

夫婦の話し合いでの解決が難しい場合には、家庭裁判所に離婚調停を申し立てて、調停委員を介して話し合いを進めていきます。

離婚調停でも解決できない場合には、最終的に離婚裁判を起こす必要があります。

なお、財産分与は、離婚後にも請求することができますが、離婚から2年以内に請求する必要がありますので注意しましょう。

退職金の財産分与については、以下のコラムもご参照ください。

退職金は離婚時の財産分与の対象になる? 分割割合や計算方法を解説

2. 年金分割について

年金分割とはどのような制度なのでしょうか。以下では、離婚時の年金分割について説明します。

(1)年金分割制度とは

年金分割制度とは、夫婦が離婚した場合に、婚姻期間中の保険料納付額に応じた厚生年金を分割して自分の年金にすることができる制度です。具体的には、年金分割により厚生年金の支給額計算の基礎となる報酬額の記録が分割されますので、将来受け取ることができる年金を増やすことが可能です。

なお、年金分割は、厚生年金部分に限られますので、国民年金と企業年金については、年金分割の対象外となります。

(2)年金分割制度の種類

年金分割制度には、「合意分割」と「3号分割」の2つの種類があります。両者の制度をわかりやすくまとめると以下の表の通りです。

合意分割 3号分割
対象となる離婚時期 平成19年4月1日以降に成立した離婚 平成20年5月1日以降に成立した離婚
対象となる期間 婚姻期間中の厚生年金期間 平成20年4月1日から婚姻期間のうち第3号被保険者であった期間
夫婦間の合意 按分割合についての当事者の合意または裁判所の決定が必要 合意は不要
分割割合 上限が50% 一律50%

①合意分割制度

合意分割とは、以下の要件に該当する夫婦が婚姻期間中の厚生年金の標準報酬を分割することできる制度です。

  • 平成19年4月1日以降に離婚した夫婦であること
  • 夫婦の合意または裁判手続きで年金分割割合を定めていること

②3号分割制度

3号分割とは、以下の要件に該当する夫婦が平成20年4月1日以降の厚生年金の標準報酬を分割することができる制度です。

  • 平成20年5月1日以降に離婚した夫婦であること
  • 平成20年4月1日以降に第3号被保険者期間があること

3号分割については、以下のコラムもご参照ください。

離婚時の「3号分割」年金の分割はどのようにすれば良い?

(3)年金分割の決め方、手続き方法

①合意分割と3号分割のどちらを選択すべきか

合意分割は、婚姻期間全体が年金分割の対象期間になりますが、3号分割は平成20年4月1日以降に第3号被保険者であった期間のみが対象となります。そのため、基本的には、合意分割を選択した方が有利といえるでしょう。

②年金分割の手続き

合意分割をする場合には、相手の同意が必要ですので、まずは相手との話し合いで按分割合を決めていきます。按分割合の協議が調わない場合には、年金分割調停または審判により決めることになります。離婚と同時に年金分割を求める場合には、離婚訴訟における附帯処分として申し立てをすることも可能です。

按分割合が決まったら、年金事務所で手続きをすることで合意分割を行うことができます。なお、3号分割は、相手の同意が不要ですので、年金分割を請求する方が1人で年金事務所に行って手続きを進めることができます。

年金分割の仕組みについては、以下のコラムもご参照ください。

年金分割しても年金を2分の1もらえない!? 年金分割の仕組みとは

弁護士JP編集部
弁護士JP編集部

法的トラブルの解決につながるオリジナル記事を、弁護士監修のもとで発信している編集部です。法律の観点から様々なジャンルのお悩みをサポートしていきます。

  • こちらに掲載されている情報は、2023年12月27日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

お一人で悩まず、まずはご相談ください

まずはご相談ください

離婚・男女問題に強い弁護士に、あなたの悩みを相談してみませんか?

弁護士を探す