
- 離婚・男女問題
離婚慰謝料の時効は何年? 強制執行で未払いを解決することは可能?
相手の不倫などを原因に離婚する場合、慰謝料を請求する方も多いでしょう。中には、早期に離婚をするために、慰謝料請求は後回しにされる方もいらっしゃいます。
しかしながら、慰謝料請求には時効があり、一定の期間を経過してしまい、相手方がそれを主張すると、慰謝料を請求しても認められなくなってしまいます。具体的には何年で時効が完成してしまうのか、時効期間の終了が近づいている場合はどうしたらよいかを解説します。
また、慰謝料請求を行い、相手が支払いに合意した場合や、裁判を行って支払いを内容とした判決を得たとしても、合意や判決どおりに支払ってもらえないケースも少なくありません。その場合にはどうしたらよいのかもあわせて解説します。
1. 離婚慰謝料の消滅時効は何年?
「離婚慰謝料」とは、一方の行為により離婚をすることになり、離婚により受けた精神的苦痛に対する賠償金のことです。配偶者の不倫やDV、モラハラなどが背景にある場合に発生します。
離婚慰謝料請求権の消滅時効は、原則として「離婚時から3年間」です(民法第724条1項)。時効のカウントが開始される日(起算日)は離婚成立の日ですから、離婚届の受理日、調停離婚の成立日、裁判離婚の判決確定日がそれぞれ起算日です。長期間別居をしていたとしても、離婚が成立した時から時効のカウントが始まります。
早期の離婚を実現するために慰謝料請求を後回しにされる方は、離婚から3年以内に離婚慰謝料を請求することを忘れないようにしましょう。
なお、離婚慰謝料については、特別な事情がない限り、不倫相手に対する請求は認められないと考えられています(最判平成31年2月19日)
離婚慰謝料と混同されがちなのが「不貞慰謝料(不倫慰謝料)」です。これは配偶者の不倫により受けた精神的苦痛に対する慰謝料です。離婚慰謝料とは異なり、離婚しなくても請求できます。
離婚しない場合はいつでも請求できますが、離婚した場合は「離婚から6か月間または不倫に気づいたときから3年間のいずれか遅い方」が時効期間です。
不貞慰謝料は配偶者の不倫相手にも請求できます。時効は「配偶者の不倫に気づき、不倫相手の名前や住所などが特定できてから3年」です。たとえば夫のスマートフォンに残っていたやりとりから不倫に気づいたとしても、不倫相手が誰だか特定できていない場合には時効期間のカウントは始まりません。
なお夫の昔の不倫に離婚後に気づいたなど、何もせずに「不倫が終わってから20年間」が経過していれば、相手が誰かわからなくても不貞慰謝料請求はできなくなります(民法724条2項)。
2. 離婚慰謝料の時効が完成する前にすべきこと
離婚慰謝料の消滅時効が迫っている場合には、時効をストップさせる必要があります。できるだけ早く時効の「完成猶予」または「更新(中断)」をしましょう。それぞれご説明します。
(1)時効の完成猶予
「時効の完成猶予」とは、時効のカウントを一定期間止めることです。主に次のような手段があります。
- 内容証明郵便を使った請求(催告)
- 裁判上の請求
- 強制執行
一番手軽なのは「内容証明郵便を使った請求」です。
債務者に対して支払いを求めることを「催告」といい、一般的には配達証明が付く内容証明郵便を利用して行います。催告で時効の完成を猶予できる期間は「6か月」です。その間に交渉を行い、応じないようであれば訴訟を提起する必要がありますので注意しましょう。
また慰謝料請求訴訟を起こしたり、民事調停を申し立てたり、強制執行を申し立てたりすれば、それらが終結するまでの間は時効の完成が猶予されます。裁判の結果、判決で慰謝料請求が認められたり和解が成立したりした場合は、そこから「10年間」の消滅時効が進行し始めます。ただし、取下げにより終了した場合には、当初の3年で時効が成立してしまいますので、注意が必要です。
なお一般的に強制執行には確定判決などが必要ですが、離婚時に「○○は、本証書記載の金銭債務を履行しない場合は、強制執行に服する旨を陳述した」といった、強制執行認諾文言付の公正証書を作成すれば、それをもとに強制執行ができます。
(2)時効の更新
「時効の更新」とは、時効をいったんリセットし、またゼロからカウントを始めることです。
主な更新の手段は、次の通りです。
- 調停の成立、裁判の勝訴判決
- 強制執行の実施
- 債務の承認
裁判の勝訴判決の確定、調停・和解の成立、強制執行(差し押さえ命令)によって、時効は更新されます。なお確定判決や調停・和解の成立によって消滅時効期間は10年になります(民法第169条)。
債務者に慰謝料の支払い義務があることを認めさせる「債務の承認」も時効更新の手段です。たとえば配偶者と話し合って支払いに関する合意書を作成する、慰謝料を一部でも支払ってもらうといった方法があります。
承認は口頭でも成立しますが、「言った・言わない」のトラブルを防止し裁判時の証拠とするためにも書面にしておくのがおすすめです。ただし、書面の内容次第では債務の承認として有効と認められない可能性がありますので、時効が迫っている場合には、内容証明郵便による催告を行うことや、訴訟を提起することを検討されるとよいでしょう。
時効の更新はややハードルが高いため、一般的にはまずは内容証明郵便による請求などで時効の完成を猶予し、その間に調停や裁判の準備を進めます。調停や判決によって慰謝料の支払い義務が確定しても支払われない場合には、最終的には強制執行により慰謝料の回収を目指します。
なお、消滅時効は時効期間を過ぎれば自動的に成立するわけではありません。相手に消滅時効が完成したことを告げる「援用」という手続きが必要で、援用が行われていない限り、時効によって請求が否定されることはありません。また時効が完成していても、相手が同意すれば慰謝料を払ってもらうことは可能です。
なお令和2年4月1日より前の事案に関しては、改正前の民法が適用されますので注意してください。
時効が迫っている場合は、すぐに時効を止める手を打つ必要があります。時効の完成を猶予し、調停や裁判で望ましい結果を得るためには、相手の不倫の証拠収集や書類の準備などが必要です。法律の知識や裁判経験などが重要になるため、早めに弁護士に相談してサポートしてもらいましょう。
- こちらに掲載されている情報は、2022年02月21日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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