【2024年4月〜】運送業の残業時間の上限規制はどう変わる?
運送業では「物流の2024年問題」が差し迫っており、ドライバーに対する労働環境の抜本的な変革が求められています。この問題に対応するためには、労働基準法の改正による新ルールについて理解を深めなければなりません。
本コラムでは、運送業における残業時間の上限規制や、未払いの残業代請求について詳しく解説します。
1. 現状の運送業における残業時間
運送業は、その他の産業と比較して、一般的に、労働時間が長い一方で賃金が低い傾向にある業種です。国土交通省の「トラック運送業の現状等について」によると、トラックドライバーと全産業の平均年間所得を比較した場合、大型トラックドライバーは約1割低く、中小型トラックドライバーは約2割低い、との調査結果が出ています。
年間の労働時間に関しては、全産業と比較すると、大型トラックドライバーは約1.22倍長く、中小型トラックドライバーは約1.16倍長い状況です。さらに、厚生労働省の「毎月勤労統計調査」では、「運輸業・郵便業」の月間総実務労働時間は170.3時間でした。これは、日本標準産業分類に基づく16大産業の中で、「鉱業・採石業等」に次いで2番目に長くなっています。
(参考:「トラック運送業の現状等について」(国土交通省))
(参考:「毎月勤労統計調査 令和5年7月分結果確報」(厚生労働省))
2018年6月に参院本会議で「働き方改革関連法」が成立し、大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から、時間外労働に対する罰則付きの上限規制が施行されました。
法改正以前は、労使関係で「特別条項付き36協定」を締結することにより、年6か月以内であれば、月45時間以内もしくは年360時間以内を超える、実質無制限の時間外労働が可能でした。しかし、働き方改革関連法の成立により、特別条項付き36協定でも上回れない時間外労働の上限規制が設けられます。
■特別条項を定めた場合の時間外労働の上限規制
- 年720時間以内(休日労働を除く)
- 1か月の時間外労働+休日労働が月100時間未満
- 2〜6か月で時間外労働+休日労働が平均80時間以内
- 月45時間を超過できるのは年6か月まで
(参考:「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」(厚⽣労働省・都道府県労働局・労働基準監督署))
運送業で長時間労働が常態化している理由のひとつは、この法改正による時間外労働の上限規制が適用されないことです。具体的には、「自動車運転の業務」「建設事業」「医師」「鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業」は、時間外労働の上限規制の実施が困難であると判断され、働き方改革関連法の適用に5年間の猶予が与えられました。したがって、運送業のドライバーは年6か月までであれば、上限規制のない時間外労働が可能です。
2. 2024年からは運送業でも残業時間の上限規制がされる
働き方改革関連法の施行により、5年間の猶予を与えられた運送業ですが、令和6年4月1日以降、自動車運転の業務にも時間外労働の上限規制が適用されます。つまり、特別条項付き36協定を締結している場合でも、時間外労働の上限は「年960時間(休日労働を含まない)」です。
また、今回の法改正によって、拘束時間や休息期間などの取り扱いに変化が生じる点にも注意が必要です。
(1)拘束時間
始業から終業までの休憩時間を含めた労働時間を意味し、1日あたりの拘束時間は原則13時間以内、最大拘束時間は16時間が限度とされています。終業から次の始業までに、8時間以上の継続的な休息期間を確保できる場合は、週2回まで15時間超過が認められます。
労働時間に荷待ち時間や渋滞時間を含めない運送業者もありますが、これらは本来であれば拘束時間に含まれます。
(2)休息期間
終業から次の始業までの生活時間を指し、継続11時間を基本として、下限が継続9時間です。ただし、1週間の運行がすべて長距離の貨物運送であり、なおかつ運行における休息期間が住所地以外の場所であれば、週2回を限度に継続8時間以上が下限となります。
運転時間は改正前と変化はなく、2日間平均における1日あたりの運転時間は9時間以内、2週間平均における1週間あたりの運転時間は44時間以内です。
(参考:「トラック運転者の改善基準告示 ( 2 0 2 4 年 4 月 1 日施行 )」(厚生労働省))
3. 未払いの残業代請求は弁護士に相談
先述したように、運送業では物流施設や荷主の都合で、荷待ち時間が発生する場合があります。国土交通省の「トラック輸送状況の実態調査結果」によると、「荷待ち時間がある運行」は「荷待ち時間がない運行」よりも、平均拘束時間が1時間48分長い、との調査結果が出ています。しかし、こうした荷待ち時間や渋滞に巻き込まれた時間を労働時間として計上しない企業もあることが実状です。
(参考:「トラック輸送状況の実態調査結果(全体版)」(国土交通省))
未払いの残業代を請求するためには、事前準備として証拠を収集する必要があります。たとえば、タイムカードの記録や運行データ、業務日報、ドライブレコーダーの記録、ETCの利用履歴、物流施設の入退館記録などです。
そして、就業規則や給与規定に基づいて残業代を計算し、雇用主に内容証明郵便で通知書を送付します。その後は、雇用主と未払い金の支払いに関して交渉し、和解に至らない場合は第三者を交えて労働審判や通常訴訟に移行することが基本的な流れです。
残業代の未払いを自分で請求する場合、通知書の作成や送付、残業代の計算、雇用主との交渉など、すべてひとりで実行しなければなりません。さらに、交渉が決裂した場合は訴訟の申し立てを行う必要があるため、法律に関する高度な知識が求められます。残業代の未払い請求を検討している人はひとりで抱え込むのではなく、法律の専門家である弁護士へ相談しましょう。
- こちらに掲載されている情報は、2024年01月03日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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勝又 賢吾 弁護士
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