相続人の中にアメリカ国籍の方が含まれる場合の手続きはどうする?
相続が開始した場合には、相続人全員が協議をして被相続人の遺産を分割することになります。しかし、相続人の中にアメリカ国籍の方が含まれる国際相続のケースでは、通常の遺産相続手続きとは異なる特別の配慮をする必要があります。
今回は、相続人の中にアメリカ国籍の方が含まれる場合の手続きについて解説します。
1. アメリカ国籍の方の相続の手続きについて
相続人の中にアメリカ国籍の方がいる場合には、通常の遺産相続手続きとどのような違いがあるのでしょうか。
(1)どこの国の法律が適用されるか
外国人が関係する相続手続きについては、まずはどこの国の法律を適用して相続手続きを行うかが問題となります。
通則法36条では、「相続は、被相続人の本国法による」と規定されていますので、相続人ではなく被相続人の国籍を基準に判断することになります。そのため、相続人がアメリカ国籍であったとしても、被相続人が日本国籍であった場合には、日本の法律が適用されますので、基本的には、通常の相続手続きと同様に進めていくことになります。
また、被相続人が外国人の場合でも、国によっては被相続人の最後の住所地によって準拠法を定めるため、外国法に基づくと日本法が適用されることとなり、通則法41条により堂々巡りを防ぐべく、結論としては日本法が適用されるということもありえます。
(2)アメリカ国籍の相続人がいるときに用意すべき書類とは?
日本の法律が適用されるとしても、アメリカ国籍の相続人がいる場合には、日本に戸籍がなく、印鑑登録もしていませんので、通常の相続手続きとは用意すべき書類が異なってきます。
一般的な相続手続きでは、相続人全員で遺産分割協議を行い、合意ができた場合には、遺産分割協議書を作成します。そして、相続登記や預貯金の払い戻し手続きを行う際には、遺産分割協議書以外に、相続人の戸籍謄本、住民票、印鑑証明書などが必要になります。
日本人であればこれらの書類は、市区町村役場で申請すれば簡単に取得することができます。しかし、アメリカ国籍の相続人には、そもそもこれらの書類が存在しませんので、以下の書類で代用することになります。
①戸籍謄本について
日本人がアメリカ人と婚姻をして、アメリカ国籍を取得した場合には、その時点で、日本の戸籍から除籍されることになります。除籍されたからといって、戸籍がすべて抹消されるわけではなく、最後の本籍地の市区町村役場において除籍謄本を取得することができます。
婚姻によって日本国籍を失った方は、除籍謄本を取得することによって、戸籍謄本に代えることができます。
②住民票について
相続人がアメリカ国籍を有していても、日本に居住していれば、市区町村役場から住民票を発行してもらうことができます。
アメリカ国籍の相続人が日本に居住していないという場合には、日本大使館または領事館において「在留証明書」の発行を受けることによって、住民票に代えることができます。
③印鑑証明書について
アメリカでは、日本のように印鑑を使用する文化がなく、印鑑ではなくサインをするのが主流です。そのため、アメリカ国籍の相続人の方には、日本大使館または領事館において、「署名(サイン)証明書」を取得することによって、印鑑証明書に代えることができます。
2. 遺産分割協議で話がまとまらない場合は?
相続人同士の遺産分割協議で話がまとまらないときには、裁判所に遺産分割調停を申し立てて解決を図ることになります。しかし、相続人にアメリカ国籍の方が含まれている場合には、どの国の裁判所に申し立てるかでトラブルになることがあります。
遺産分割を含む家事調停事件については、家事事件手続法3条の13に、日本の裁判所で申し立てられる場合が定められています。その際に、家事審判に関する管轄(同法3条の11)も参照するのですが、ここでざっくり整理すると、被相続人の住所が日本国内だった場合、相手方の住所が日本国内である場合、そして当事者が合意した場合と整理できます。
ほとんどのケースでは、日本の裁判所に調停を申し立てることによって対応することができるといえますので、そこまで大きな問題になることは少ないです。
なお、調停でも解決することができなければ、自動的に家庭裁判所の審判手続きに移行し、裁判官によって遺産分割方法が決められることになります。
- こちらに掲載されている情報は、2021年07月26日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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