熟年離婚の場合、財産分与はどうなる?
夫婦が熟年離婚をする場合、財産分与が重要な争点になることが多いです。相手の財産をきちんと調べた上で、適切な金額の財産分与請求を行いましょう。
今回は熟年離婚における財産分与請求について、準備・ポイント・相手が応じない場合の手続きなどを解説します。
1. 熟年離婚では財産分与が重要
熟年離婚をする夫婦の間では、財産分与が特に重要な争点になりがちです。その理由としては、主に以下の2つが挙げられます。
(1)婚姻期間が長いため、財産分与が多額になりやすい
財産分与の対象となるのは、原則として、夫婦のいずれかが婚姻期間中に取得した財産です。
婚姻期間が長ければ長いほど、財産分与の対象財産は高額となる傾向にあります。そのため、熟年夫婦が離婚する際には、財産分与の金額や内容を巡って激しく対立することが多いです。
(2)熟年夫婦は専業主婦世帯が多い
近年では共働き世帯が増加していますが、数十年前は専業主婦世帯の方が主流でした。
独立行政法人労働政策研究・研修機構の統計グラフによると、1980年代までは専業主婦世帯が主流であったのに対して、1990年代は共働き世帯と専業主婦世帯が拮抗(きっこう)しており、2000年代以降は共働き世帯が多数となっています。
(参考:「図12 専業主婦世帯と共働き世帯」(独立行政法人労働政策研究・研修機構))
したがって、1990年代以前に結婚した熟年夫婦の場合、若者夫婦よりも専業主婦世帯が多い傾向にあると考えられます。
専業主婦世帯では、共働き世帯より夫婦間の収入格差が大きいため、財産分与も多額になりやすいです。また、専業主婦で収入がない側は、離婚後の生活資金を確保するため、できるだけ多くの財産分与を受けることが重要です。
そのため、妻が専業主婦の夫婦が熟年離婚する場合、財産分与が非常に重要な争点となります。
2. 熟年離婚における財産分与請求の準備
熟年離婚をする際、配偶者に対して財産分与請求を行うに当たっては、夫婦それぞれの財産をリストアップする必要があります。その際、財産隠しが疑われるようであれば、弁護士に対処法を相談しましょう。
(1)夫婦の財産をリストアップする
まずは、財産分与の対象となる財産をリストアップしましょう。
後述するように、婚姻期間中に取得した財産であれば、夫婦どちらかの単独名義であっても財産分与の対象となります。財産分与の対象となるのは、たとえば以下のような財産です。
- 現金
- 預貯金
- 有価証券(株式、投資信託など)
- 住宅(土地、建物)
- 自動車
- 美術品
- 貴金属類
- 高価な時計
- 高価なコレクション類
- 退職金請求権
- 公的年金の受給権(年金分割)
など
特に、婚姻期間中の収入が少なかった側(専業主婦、パートなど)は、配偶者が所有するこれらの財産を漏れなくリストアップして、できる限り多くの財産分与の獲得を目指しましょう。
(2)財産隠しが疑われる場合の対処法
配偶者が財産を隠していることが疑われる場合には、以下の対処法が考えられます。
①弁護士会照会
弁護士の依頼に基づき、所属弁護士会が企業や官公庁に対して照会を行う制度です。預貯金口座のある金融機関などに照会を行うことで、配偶者の財産が判明する可能性があります。
②調査嘱託
家庭裁判所の調停や離婚訴訟では、裁判所が金融機関などに対して、当事者が所有する財産について調査を嘱託することがあります(家事事件手続法第258条第1項、第62条、民事訴訟法第186条)。
③文書提出命令
離婚訴訟では、裁判所が当事者に対して、所有する財産に関する文書の提出を命ずる場合があります(民事訴訟法第223条)。
弁護士会照会は、弁護士に依頼している場合に限って利用できる手続きです。調査嘱託は調停または訴訟、文書提出命令は訴訟の手続きによる必要があり、いずれも弁護士によるサポートを受けることをおすすめいたします。
3. 熟年離婚における財産分与請求のポイント
配偶者と熟年離婚をするに当たっては、財産分与に関する法律・実務上の取り扱いを知っておくことが大切です。弁護士に相談しながら、以下のポイントを踏まえつつ財産分与請求を行いましょう。
(1)財産分与の対象となる財産・ならない財産
財産分与の対象となるのは、原則として、婚姻期間中に夫婦のいずれかが取得した財産です。共有名義の財産に限らず、単独名義の財産であっても、婚姻期間中に取得したものであれば財産分与の対象となります。
夫婦いずれかが厚生年金保険の加入者である(あった)場合、婚姻期間中の加入記録も財産分与の対象となります。これは特に「年金分割」と呼ばれるもので、夫婦間の合意が成立した後、日本年金機構で手続きを行います。専業主婦の方の場合、年金分割の合意が成立しなくても、単独で「3号分割」を請求できることがある点にご留意ください。
(参考:「離婚時の年金分割」(日本年金機構))
これに対して、以下の財産は財産分与の対象になりません(特有財産、民法第762条第1項)。
- 婚姻前から有する財産
- 婚姻中に自己の名で得た財産(相続や贈与によって取得した財産など)
財産分与を請求する際には、対象となる共有財産を選別してリストアップしましょう。
(2)財産分与の方法は自由に決められる
財産分与額や実際に移転する財産は、夫婦間の協議によって自由に決めることができます。協議が成立しない場合には、家庭裁判所の調停を通じて話し合うことも可能です。
財産分与の方法は本来、法律に従って一刀両断的に決めるべきものではなく、夫婦の実情に応じて柔軟に決めることが望ましいです。離婚後の生活を見据えて、お互いにとってメリットがある財産分与の形を模索しましょう。
財産分与に関する話し合いがまとまらない場合は、弁護士へのご相談をおすすめいたします。弁護士に相談すれば、双方の主張を踏まえた上で、適切な落としどころを見つけるためのサポートを受けられます。
(3)訴訟・審判の場合、財産分与割合は原則として2分の1ずつ
財産分与に関する協議・調停が成立しない場合、最終的には離婚訴訟の判決、または財産分与に関する家庭裁判所の審判によって結論が示されます。
訴訟の判決または審判が行われる場合、財産分与の割合は原則として2分の1ずつです。ただし、財産分与をする側が経営者・医師などで、特殊な技能により収入を稼いだ場合には、財産分与割合が2分の1ずつにならない例もまれに見られます。
訴訟・審判を通じて財産分与を請求する場合、裁判所に対して請求の根拠を明確に伝えることが大切です。請求者の主張を裏付けるため、証拠資料の提出も重要になります。 適正額の財産分与を請求・獲得するためには、弁護士へのご相談をご検討ください。
4. 相手が財産分与に応じない場合の手続き
配偶者が財産分与の請求に応じない場合、以下の手続きを通じて財産分与を請求しましょう。
(1)離婚調停
離婚前の段階であれば、まずは家庭裁判所に離婚調停を申し立てましょう。
(参考:「夫婦関係調整調停(離婚)」(裁判所))
離婚調停では、有識者から選任される調停委員が仲介者として、夫婦間で離婚条件を合意できるようにサポートします。
夫婦が直接話し合うよりも冷静な議論を期待できる点が、離婚調停のメリットです。離婚の経緯や請求の根拠などを丁寧に説明し、調停委員を味方に付けることができれば、離婚調停を有利に進められます。
離婚調停を通じて、財産分与を含む各種の離婚条件について合意できたら、その内容を記載した調停調書が作成されます。その後は調停調書に従って財産分与などを行い、調停成立日から起算して10日以内に、市役所・区役所・町村役場に離婚届を提出します。
(2)離婚訴訟
離婚調停が不成立に終わった場合、引き続き離婚を求めるには、家庭裁判所に離婚訴訟を提起しましょう。
離婚訴訟は離婚調停と異なり、原則として公開の法廷で行われます。以下のいずれかの法定離婚事由(民法第770条第1項)がある場合に限り、裁判所は離婚を認める判決を言い渡します。
- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 3年以上の生死不明
- 強度の精神病に罹り、回復の見込みがないこと
- その他婚姻を継続し難い重大な事由
離婚を認める判決の主文では、財産分与・慰謝料などの離婚条件についても結論が示されます。少しでも有利な条件で裁判離婚を成立させるには、充実した証拠資料を裁判所に提出することが大切です。
上告審判決の言い渡し、または控訴・上告期間(判決書の送達から14日)の経過によって、離婚を認める判決が確定します。判決が確定したら、確定日から起算して10日以内に、市役所・区役所・町村役場に離婚届を提出しましょう。
(3)財産分与請求調停・審判
離婚後であっても2年間が経過するまでは、家庭裁判所に対して「財産分与請求調停」を申し立てることができます。
(参考:「財産分与請求調停」(裁判所))
財産分与請求調停は、離婚調停と同様に、調停委員が仲介者として話し合いをサポートする手続きです。財産分与に関する合意が成立すれば、その内容をまとめた調停調書が作成されます。
財産分与請求調停が不成立となった場合、離婚する段階とは異なり、家庭裁判所が審判によって結論を示します。審判に当たっては、調停で提出された主張や証拠資料に加えて、審判移行後に提出された主張や証拠資料が参酌されます。
調停・訴訟・審判のいずれの手続きによる場合でも、適正な条件による財産分与を受けるには、弁護士に代理人を依頼するのがおすすめです。熟年離婚に伴う財産分与請求を行う際には、弁護士にご相談ください。
- こちらに掲載されている情報は、2023年03月08日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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