離婚後に、夫名義の持ち家に妻が住む方法。住宅ローンの有無別に解説

離婚後に、夫名義の持ち家に妻が住む方法。住宅ローンの有無別に解説

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

持ち家を所有する夫婦が離婚する場合、どのように持ち家を財産分与するかが大きな問題となります。

特に住宅ローンが残っている場合、簡単に持ち家の所有者(名義人)を変更することはできません。夫名義で購入した持ち家に、妻が子どもと一緒に住み続ける例はよく見られますが、トラブルのリスクも大きいので要注意です。

今回は、離婚後に夫名義の持ち家に妻が住み続ける場合につき、財産分与の方法やリスクなどを解説します。

1. 離婚後、夫名義の持ち家に妻が住むケースは多い

実は、夫婦が離婚した後、夫名義の持ち家に妻が子どもと住み続けるケースはよくあります。

夫婦が離婚する場合、婚姻期間中に取得した財産を公平に分ける必要があります。これを「財産分与」といいます(民法第768条)。特に、持ち家を所有する夫婦が離婚する場合、持ち家の財産分与の方法が大きな問題になります。

基本的には、持ち家の所有者と住む人は一致させることが望ましいです。住宅ローンが残っていなければ、夫婦の協議によって、住み続ける側が持ち家を所有する形で財産分与を行えばよいでしょう。

これに対して、住宅ローンが残っている場合には、持ち家の所有者を簡単に変更することはできません。住宅ローンの契約上、債務者と持ち家の所有者は一致していなければならないからです。

住宅ローンが残った持ち家について名義変更を行う場合、金融機関の承諾を得る必要があります。ただしその際には、金融機関の再審査を経て、住宅ローンの債務者を変更しなければなりません。新所有者(新債務者)となる側の収入が少なければ、再審査の通過は期待できないでしょう。

特に、出産や育児の関係で女性のキャリアが途切れがちな日本では、持ち家を夫単独の名義で購入するケースが多いです。その一方で、離婚時に子どもの親権を獲得するのは、母親であるケースが圧倒的に多数となっています。

こうした背景の下で、「子どもを転校させたくない」などの理由から、夫名義の持ち家に妻が子どもと住み続けるケースはかなり多く見られます。しかし後述のように、夫名義の持ち家に妻が住み続けることには、たくさんのリスクが潜んでいることに注意しなければなりません。

2. 夫名義の持ち家に妻が住み続けることのリスク

夫婦の離婚後、夫名義の持ち家に妻が住み続けることには、以下のリスクがあります。

  • ローン返済が滞り、持ち家が競売にかけられる
  • 持ち家の使用ルールについてもめてしまう
  • (使用貸借の場合)夫に契約を解除される
  • (賃貸借の場合)毎月賃料を支払う必要がある

最悪の場合、妻が子どもと一緒に家を追い出されてしまうおそれがあるので、財産分与の段階で慎重にリスクを検討すべきでしょう。

(1)ローン返済が滞り、持ち家が競売にかけられる

夫の側としては、自分が住んでいない持ち家のローンを支払い続けることについて、責任感が薄れてしまう可能性があります。

また、退職・転職などによる収入の変化に伴い、住宅ローンの返済が困難となるケースも想定されます。場合によっては、支払不能を理由に自己破産を申し立てることがあるかもしれません。

もし住宅ローンの返済が滞ると、金融機関は抵当権を実行して、持ち家を競売にかけることになります。

競売によって持ち家が売却された場合、使用借権や抵当権より後に設定された賃借権は、新所有者に対抗することができません。つまり、夫名義の持ち家に住んでいた妻は、新所有者に権利を対抗できずに追い出されてしまいます。

(2)持ち家の使用ルールについてもめてしまう

公正証書を作成すべき

夫名義の持ち家に妻が住み続ける場合、持ち家の使用に関するルールは、(元)夫婦間の合意によって決めることになります。

しかし、離婚時に十分な話し合いを行わなかったり、きちんと合意書面を作成しなかったりするケースもよくあります。このような場合、持ち家の使用ルールについての合意内容が不明確になるほか、取り決めておくべきルールが決まっていない状況になりかねません。

持ち家の使用ルールが不明確・不十分な場合、元夫婦間でトラブルになる可能性が非常に高いです。その際、内容・形式の整った合意書面が作成されていないと、元夫婦間の対立が泥沼化してしまいます。

持ち家の使用に関して、将来的にトラブルが発生する可能性も想定し、離婚時の段階で公正証書を作成しておきましょう。公正証書の作成は、弁護士に相談すればサポートしてもらえます。

(3)使用貸借の場合

夫に契約を解除される

夫名義の持ち家に妻が住む場合、妻は夫との間で「使用貸借」または「賃貸借」の契約を締結します。

  1. 使用貸借
    所有者(=貸主)である夫が、借主である妻に対して、家を無償で使用することを認める契約です。
  2. 賃貸借
    所有者(=貸主)である夫が、借主である妻に対して、賃料の支払いと引き換えに家を使用することを認める契約です。

妻が夫に対して賃料を支払わない場合、妻の権利は使用貸借契約に基づく「使用借権」です。使用借権は、無償の使用貸借に基づくことを考慮して、賃借権よりも弱い権利となっています。

特に、使用貸借は賃貸借に比べて、貸主の側から比較的容易に終了させることができます。具体的には、貸主は以下の方法によって使用貸借契約を終了させることができます。

①使用貸借の期間を定めた場合

期間の満了によって使用貸借が終了します(民法第597条第1項)。

(例)
「子どもが高校を卒業まで使用を認める」
→高校卒業をもって使用貸借が終了する

②使用貸借の期間を定めず、使用・収益の目的を定めた場合

借主がその目的に従い、使用・収益を終えることによって終了します(同条第2項)。

(例)
「妻が子どもと一緒に暮らすために使用を認める」
→子どもが独立すれば使用貸借が終了する

また、当該目的に従い、借主が使用および収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主は使用貸借契約を解除できます(民法第598条第1項)。

(例)
「妻が子どもと一緒に暮らすために使用を認める」
→子どもが独立していなくても、一般的に独立できる年齢(たとえば、大学を卒業する22歳ごろ)に達した場合には、使用貸借が終了する

③使用貸借の期間、使用・収益の目的をいずれも定めなかった場合

貸主はいつでも使用貸借契約を解除できます(同条第2項)。

使用貸借契約が終了し、または貸主である夫によって解除された場合には、妻は家から出ていかなければなりません。

(4)賃貸借の場合

毎月賃料を支払う必要がある

妻が夫に対して家の賃料を支払う場合、妻の権利は賃貸借契約に基づく「賃借権」です。

賃借権は、使用借権よりも強力な権利として認められています。借地借家法第28条により、貸主(賃貸人)からの契約更新拒絶には正当な事由が必要とされているため、夫の一存で家の賃貸借契約を解除することはほとんどできません。

その一方で、妻は夫に対して、家の賃料を毎月支払う必要があります。妻の収入が少ない場合には、夫への賃料の支払いが負担になる可能性があるのでご注意ください。

3. 夫名義の持ち家に妻が住む以外の財産分与方法

夫名義の持ち家に妻が住み続けることのリスクが懸念される場合は、別の財産分与の方法を検討すべきでしょう。具体的には、以下のような方法が考えられます。

  • 妻が引っ越す
  • 持ち家を妻名義に変更する
  • 持ち家を売却して代金を分与する

(1)妻が引っ越す

他の財産の分与で調整する

持ち家の名義を夫から変更しない場合、所有者と使用者の不一致を避けるには、妻が持ち家から引っ越すほかありません。

この場合、持ち家は引き続き夫の所有となりますが、持ち家を取得したのが婚姻期間中であれば、妻は他の財産について多めに分与を受けられる可能性が高いです。夫・妻双方の財産を正しく把握した上で、適正額の財産分与を請求しましょう。

(2)持ち家を妻名義に変更する

ただし住宅ローンの借り換えが必要

夫名義の持ち家を妻名義に変更すれば、妻が住み続ける場合でも、所有者と使用者を一致させることができます。

ただし前述のとおり、住宅ローンが残った持ち家の名義を夫から妻に変更する場合、借り換えによる債務者変更が必要となります。妻側に十分な収入がなければ、残債と同額の住宅ローンを借り入れることは難しいのでご注意ください。

(3)持ち家を売却して代金を分与する

持ち家の財産分与に関する問題をシンプルに解決するには、売却して代金を分けることも検討すべきでしょう。持ち家の権利関係についてのトラブルを避けられる上に、1円単位で公平に財産分与を行うことができます。

ただし、持ち家がどの程度の価格で売れるかについては、不動産市況によって大きく左右されます。特に一戸建て住宅の場合は、建物に購入当時ほどの買値が付かず、大幅な売却損が生じてしまう可能性がある点に注意が必要です。

また、持ち家の売却が完了するまでには、ある程度の期間を要することが予想されます。スムーズに売却を完了するため、弁護士に相談して財産分与の方針を早めに決めましょう。

4. 持ち家・住宅ローンの財産分与は弁護士に相談を

持ち家を所有する夫婦が離婚する場合、財産分与についてもめてしまいがちです。特に、住宅ローンが残った持ち家の財産分与には多くの注意点があるため、弁護士への相談をおすすめいたします。

弁護士に相談すれば、持ち家の財産分与に関する注意点につき、多角的な観点からアドバイスを受けられます。配偶者との協議・調停・訴訟などの手続きも、弁護士に一任することが可能です。

適正な条件によって、スムーズに配偶者と離婚したい場合には、弁護士にご相談ください。

弁護士JP編集部
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法的トラブルの解決につながるオリジナル記事を、弁護士監修のもとで発信している編集部です。法律の観点から様々なジャンルのお悩みをサポートしていきます。

  • こちらに掲載されている情報は、2023年03月03日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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