暴行罪とは?成立要件と量刑、傷害罪との区別、逮捕された場合の対処法を解説

暴行罪とは?成立要件と量刑、傷害罪との区別、逮捕された場合の対処法を解説

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

他人に暴力をふるうと「暴行罪」または「傷害罪」に問われることになります。暴行罪と傷害罪は非常に近い関係の犯罪ですが、逮捕される可能性の高さや刑罰の重さが異なるので、どちらの罪に問われるのかは重要な問題です。

本コラムでは、暴行罪と傷害罪の違いや、逮捕される可能性の高さ、逮捕された場合にどうすればよいかなどを解説します。

1. 暴行罪とは?

(1)暴行とは

暴行罪は、刑法第208条に定められている犯罪です。「暴行を加えた者」が「人を傷害するに至らなかったとき」に成立します。刑罰は、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料です。

暴行の結果、相手に傷害を負わせた場合は「傷害罪」(204条)が成立します(暴行罪と傷害罪等との区別については、後ほど改めて説明します)。

暴行罪にあたる行為(実行行為)である「暴行」とは、「人の身体に対する不法な有形力の行使」をさします。典型的な暴力行為として思い浮かぶのは殴る・蹴るなどの行為ですが、それよりも緩やかに解されており、殴る・蹴るよりも程度が軽い以下のような行為も暴行にあたります。

  • 背中を突き飛ばす
  • 胸を押す
  • 頭髪を引っ張る
  • 胸ぐらをつかむ

(2)直接身体に接触しなくても「暴行」にあたる

また、「不法な有形力の行使」といえるためには、直接身体に接触する必要はありません。裁判例によれば、たとえば、以下のような行為も含まれます。

  • 塩を振りかける(嫌悪の情を催させる)
  • 石を投げつける
  • 大太鼓等を連打して意識もうろうとさせ、または脳貧血を起こさせ、息詰まる程度にさせる
  • 狭い室内で刃物を振り回す
  • 驚かすために人の数歩手前を狙って投石する
  • 高速道路で他の自動車に嫌がらせのため幅寄せする

2. 暴行罪と傷害罪の違い

暴行罪と似た犯罪に「傷害罪」(刑法204条)があります。両者は、行為態様が大きく重なりあう犯罪です。

刑法が定める犯罪の中でも暴行罪と傷害罪は発生件数が多い犯罪です。令和6年(2024年)版の犯罪白書によると、令和5年(2023年)中に全国の警察が認知した暴行事件は2万7849件、傷害事件は3万196件で、日常的に暴行事件や傷害事件が発生していることがわかります。

では、暴行罪と傷害罪はどう違うのでしょうか。要件や刑罰等の違いを説明します。

(1)傷害罪とは?

傷害罪は「人の身体を傷害した」場合に成立し、15年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます(刑法204条)。

本罪の成立要件(構成要件)は人の身体を「傷害」することです。この「傷害」とは「人の生理的機能に障害を与えること」という意味で、ケガを負わせることはもちろん、病気にかからせることも含みます。

傷害の程度は問わないので、治療の必要がない程度の軽傷だったとしても、法律上は傷害罪の成立は妨げられません。

(2)「暴行」の結果、傷害を負わせたら「傷害罪」、死亡させたら「傷害致死罪」

以上から、暴行罪と傷害罪の成立要件の区別が導き出されます。

暴行罪は「暴行」(不法な有形力の行使)をふるったものの、相手に「傷害」(生理的機能の障害)を負わせるに至らなかった場合に成立するものだといえます。

また、この場合、相手方にケガを負わせる認識(故意)がなくても、傷害罪が成立します。

さらに、暴行して相手にケガを負わせ、結果として死亡させた場合には「傷害致死罪」が成立し、3年以上20年以下の懲役という厳しい刑罰が科せられます。(刑法205条)。

なお、傷害致死罪と殺人罪(刑法199条)との違いは、「殺意」があったか否かによります。殺意がなければ傷害致死罪となります。

(3)「暴行」がなくても傷害罪は成立しうる

傷害罪に該当する行為は、「人の生理的機能に障害を与えること」なので、暴行(人の身体に向けられた不法な有形力の行使)がなくても成立することがあります。

たとえば、以下のような行為にも、傷害罪が成立し得ます。

  • 耳元で大きな声で怒鳴って被害者の鼓膜が破れた
  • 真夜中に騒音を聞かせて精神疾患にさせた
  • 性交して性病に感染させた
  • 食中毒にさせた
  • 相手に無言電話をかけ続け、相手をノイローゼにさせた

なお、被害者に生理的機能を与える認識(故意)が必要です。

3. 暴行罪も逮捕される可能性がある

暴行罪は、ケンカなどで相手に暴力をふるった場合に問われることの多い犯罪ですが、相手にケガを負わせなくても、相手が警察に被害届を出せば逮捕されてしまうのでしょうか。

結論としては、「罪証隠滅のおそれ」「逃亡のおそれ」があると認められれば、逮捕されます。

(1)逮捕には条件がある

逮捕が許されるのは、罪を犯したと疑うに足りる相当な理由(逮捕の理由)があり、逃亡や証拠隠滅を図るおそれ(逮捕の必要性)がある場合です。

そして、逮捕には、原則として事前に司法官憲が発する令状(逮捕状)が必要です。これを「通常逮捕」といいます。>

なお、逮捕の手続きには「現行犯逮捕・準現行犯逮捕」(犯罪と犯人の明白性等があるので逮捕状は不要)、「緊急逮捕」(後で逮捕状を得る必要がある)の例外があります。

通常逮捕の場合、裁判官は、捜査官の求めに応じて前述の「逮捕の理由」と「逮捕の必要性」の有無を審査し、それらが認められた場合には「逮捕状」を発布します。

(2)「暴行罪は逮捕されにくい」は誤り

以上から、「暴行罪は犯情が軽いので逮捕されない」と考えるのは誤りです。暴行事件でも、逃亡や証拠隠滅を図るおそれがあると認められれば逮捕の危険があるのです。

事実、令和5年(2023年)版犯罪白書によると、犯情の重い傷害事件の身柄拘束事件の割合は50.2%であるのに対し、暴行事件は34.9%となっています。決して「暴行だから逮捕されない」というわけではありません。また、暴行で逮捕された被疑者が逮捕に続き勾留請求された場合、82.5%が認容されています。

さらに、逮捕の有無を問わず、暴行罪の起訴率は30.4%(起訴猶予率69.6%)となっています。

暴行罪で逮捕されるケースは、主に以下のようなものが考えられます。

  • 相手方や目撃者から警察へ通報されて警察官が駆け付け、現行犯逮捕や緊急逮捕が行われるケース
  • 相手方が被害届を提出し、捜査が行われるケース

その際に、逃亡せず、身分・住所等を明らかにし、事情聴取等の取調べに協力的な態度を示せば、逮捕を免れる可能性があります。また、どちらにも責があるいわゆる「ケンカ」の場合には、状況を正しく伝えることが大切です。

4. 逮捕・起訴・処罰を免れたければ弁護士による「示談交渉」が重要

暴行罪を犯した場合、逮捕・起訴され、刑事裁判で有罪判決を受ける可能性があります。それらを免れる、あるいは軽い処分で済ませるためには、反省の態度や、捜査等に積極的に協力する態度を示すのに加え、直ちに弁護士に相談して、相手方(被害者)との「示談交渉」を進めることをおすすめします。

示談は、金銭の支払いを条件に、被害者が加害者の刑事処罰を求めない旨の合意をすることをさします。示談が成立していることは、捜査機関・裁判所において、処分を軽く済ませる方向にはたらきます。暴行罪の場合、示談金の相場は、ケースにもよりますが数十万円~100万円程度となっています。暴行の結果として相手に傷害を負わせた場合(傷害罪)は、行為態様や相手方の症状の程度に応じて大きく異なり、100万円~数千万円となります。

ただし、暴行を犯した場合、被害者が直接の交渉に応じてくれることはまず考えられません。なぜなら、被害者が、連絡先含めた自身の個人情報を加害者に知られることを怖がるからです。したがって、第三者的立場で、かつ法律の専門家である弁護士に依頼することは不可欠といっても過言ではありません。

仮に示談交渉が不調に終わっても、弁護士に、少しでも有利な結果を得るために捜査機関への働きかけや、裁判での主張・立証活動等を行ってもらうことができます。したがって、自分自身や家族が暴行罪・傷害罪にあたる行為をしてしまい、逮捕や処罰のおそれがある場合は、速やかに弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士JP編集部
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  • こちらに掲載されている情報は、2025年01月31日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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