ドラマ好きな弁護士が、あえて突っ込んで楽しむ『石子と羽男』4 ~交通事故刑事事件~

ドラマ好きな弁護士が、あえて突っ込んで楽しむ『石子と羽男』4 ~交通事故刑事事件~

石子と羽男、2022年8月5日放送の第4話も、面白いテーマでしたね。2022年4月19日に「道路交通法改正案」が可決され、電動キックボード関係のルールが変わります。時事的な話題です。そして、今回テーマになっている「救護義務違反」の話も、交通事故実務に触れると、それはもうたびたび見かけるポイントになっています。

弁護士から見ても、言いたいことが山ほど出てくるお話選びは、流石だなと思います。

また、私自身、昨年、罪を否定しなければいけない交通事故刑事事件を担当し、ドラマほどの大活劇ではなくとも、自分で調査を行ったりもしました。そちらも幸いにも、特に示談をするといったこともなく、真実をもって依頼者の利益を守ることができたのですが、そのような経験もあって今回の物語には強いシンパシーも覚えました。

そんな私が、今回も石子と羽男を見てコメントしていきます。

1. 大丈夫を信じてはいけない ~絶対に忘れてはいけない報告義務と救護義務~

道路交通法関係のルールで、絶対に覚えておいてほしいことが2点あります。

まず、「事故が起きたら警察に報告する」のが義務であり、報告しないこと自体が犯罪です。そのため、目の前の人が「大丈夫」と言っていようが、そのまま済ませるという選択肢は、法律上ありえません。

そして、今回のドラマでも問題になった「救護義務違反」です。私が複数回見かけているのが、自転車に乗った子どもが車に突っ込んできて衝突したパターンです。子ども側も、自分の運転が悪かったという意識があるため、ごめんなさいと謝り立ち去ったりします。でも、怪我をしていると後から親に事情を聞かれ、結局警察に話が行きます。救護義務違反として捜査対象になります。

今回のドラマでは、そもそも被害者がうそをついているという悪質な点がありましたが、上記のようなパターンでも犯罪として捜査されているのを知っているため、警察のひき逃げ扱いする範囲がそもそも広いと感じます。救護の可能性すらなかった場合にまで犯罪が成立するとは思えないのですが、捜査対象にされて罪の自白を迫られた例を知っています。

事故を起こしてしまったら、とにかく報告救護、元気な被害者だとしても逃がさないのが、リスク回避のためには大事です。

2. 早期の釈放はあり得なかったのか? ~身柄解放もまた刑事事件の華~

本件を担当する場合、裁判や示談の前に真っ先に「獲得目標」とするのは、「釈放」だと思います。

身柄拘束は、あくまで罪証隠滅や逃亡を防ぐために行います。交通事故事件の場合、現場保存などのために重大事件だと逮捕することもあるのですが、それでも長期間の拘束はしないことが多いです。

今回ドラマの事件で言うと、被害者への接触や目撃者への干渉といった罪証隠滅や、ひき逃げをしたのだから逃亡のおそれがあるということになるのでしょうが、入院先へ押しかけるのは非現実的ですし、目撃者はそもそも警察資料上は存在していないわけで、身元引受人のお姉さんもいるため、やはり身柄解放が十分に狙えると思います。罪を否認しているという点も決定打にはならず、仕事の事情や盲目の姉の生活サポートなど、外にいなければ困ることを証拠化して積み立てることによりカバーできる気がします。

刑事事件の中でも、釈放を争う点は、比較的勝てる場面も多いため、羽男くんにも早い段階から狙って欲しかったです。

3. 示談は必要だったのか? ~量刑評価を常に忘れず~

少なくとも、犯罪として成立する部分がある以上、示談を試みること自体は誤りではないです。ただし、常々私が意識しているところですが、示談もまた何を目的として、どのような効果を期待して行うのかを意識すべきと考えます。

死亡事件ではなく致傷事件になった時点で、「実刑のリスク」は減退しています。そもそも死亡している事件ですら、否認したら当然に実刑で刑務所という扱いをしているわけではありません。ましてや、今回の場合は原付きバイクと同等の扱いになる電動キックボードという自動車より危険度の低い乗り物で、速度も低速、酒を飲んでいたなど非難性の高い原因での事故ではないことからすると、仮にひき逃げという要素が加わったとしても、示談をしなければ実刑という状態ではなかったと思います。最後の懲役2年執行猶予という判決すら、重くないかと思いました。

お金を支払うのは弁護士ではなく当事者です。お金を払うことを勧めるのなら、それに見合った成果と必要性を説明するのは弁護士の義務だと思います。思い出の家を売る必要が本当にあったのか、羽男くんには思い返してほしいです。

4. 無罪の立証責任は弁護人にある

今回もぶちぶち言っておりますが、最後の成果はお見事としか言いようがありません。

刑事裁判において、「疑わしきは被告人の利益に」という言葉がありますが、実際には疑わしいだけだと無罪になれなかった経験に基づき、「無罪の立証責任は弁護人にある」とういう「裏格言」も実は存在しています。あれだけ怪しい状況が被害者側にそろっていたとしても、それだけでは足りなかった可能性があるんですよね。

私も、自身で罪を否定しなければならない交通事故事件を担当した時は、事故現場に赴き、周辺の家々に証言協力をお願いするため、あいさつをしてまわったりしたこともあります。それでも、まず後から連絡をくれた人自体がほとんどないという経験をしました。ひとつの事件だけを扱っていられるわけではなく、毎日同じ場所に立ち続けることはできず、どうしても情報収集能力の限界を感じます。

ドラマとは言え、決定的な証拠を入手し、無罪を立証してみせた石子と羽男の活躍は、素晴らしいです。無罪を取るには、ここまで必要だったと私は思いますし、それが報われて良かったと思います。

5. 他にも気になるところはあるが・・・

本当は、前歴についても検察官は調書で証拠請求しておくでしょうとか、尋問時に用いていたテクニックの深堀とか、口出したいところはたくさんあるのですが、キリがないので今回はここまでとします。

刑事事件が2回続いていましたが、次回は再び「民事」のお話のようですね。お隣さんのトラブルについては、私もモーニングショーでもコメントしたことがあり、やはり絶えない話題に思います。次回もどのような展開が出てくるのか楽しみに待っています。

杉山 大介
杉山 大介 弁護士

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