人間ドックでがんの見落としがあった場合、医療機関の法的責任は?

人間ドックでがんの見落としがあった場合、医療機関の法的責任は?

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

人間ドックで何ら異常が指摘されなかったにもかかわらず、その後にがんなどの病状が発見された場合には、人間ドックの段階で見落としがあったことが疑われます。この場合、患者の方やご遺族の方は、医療機関側に損害賠償を請求できる可能性があります。

この記事では、人間ドックでがんが見落とされた場合における、医療機関側の法的責任について解説します。

1. がんの見落としは医療ミスなのか?

医療ミスとは、法的には「診療契約違反による債務不履行」(民法第415条第1項)または「不法行為」(民法第709条)として整理されます。

人間ドックでがんが見落とされたケースについても、医師が注意義務を怠ったばかりに見落としが発生し、その結果として患者の死期が早まった、または病状が悪化したと評価できる場合があります。

この場合には、医療ミスとして病院側の責任を追及できる可能性があるのです。

2. 医療機関側の過失の有無を判断する要素

人間ドックにおけるがんの見落としに関して、医療機関側の責任を追及するためには、医療機関側に過失が認められる必要があります。

では、医療機関側の過失の有無を判断するためは、どのような要素が必要なのでしょうか。

(1)検査の性質

定期検診や健康診断のように、身体を全体的に浅く広く調べる性質の検査では、がんなどの特定の疾患が発見されなかったとしても、医療機関側の過失は認められにくい傾向にあります。

これに対して人間ドックなどの精密検査では、がん検診をはじめとして、特定の疾患を発見するための検査が行われるのが一般的です。したがって、検査の具体的な内容にもよりますが、人間ドックの場合は健康診断などに比べると、見落としに関する医療機関側の過失が認められやすいといえるでしょう。

(2)問診の結果を十分考慮したか

検査にせんだって行われる問診において、すでにがんの兆候が表れていた場合、医療機関には、がんに関する検査を特に慎重に行うことが求められます。この場合、医療機関側の注意義務の水準が上がり、その結果、がんの見落としに関する医療機関側の過失が認められやすくなります。

(3)通常の能力を持つ医師であれば発見できたといえるか

医療機関側の過失の有無は、検査の性質や問診の結果などを踏まえたうえで、『通常の能力を持つ医師であればがんを発見できたといえるか』という基準で判断されます。

特に、レントゲン写真やCT検査で撮影された画像など、画像診断の結果を理由として医療機関側の注意義務違反を主張する場合には、どの程度顕著な所見であれば、通常の能力を持つ医師が発見できたかが争点となりやすいです。

この点に関しては、人間ドックに関する検査実務の実態や、一般的な医療機関における医療水準を医師の証言などから立証したうえで、通常の医師に求められる注意義務がどの程度であるかを明確に示す必要があるでしょう。

3. 医療機関に損害賠償請求をするためのポイント

人間ドックにおけるがんの見落としについて、医療機関側に対して損害賠償を請求するには、医療機関側の過失の立証に加えて因果関係の立証も重要なポイントになります。

手続き全般を通して、法的・医学的な立証が必要となるため、弁護士・医師と協力して適切に準備を進める必要があります。

(1)因果関係の立証も重要

医療機関側の損害賠償責任が認められるためには、債務不履行または不法行為があったことによって、患者側が損害を受けたことを立証しなければなりません。

たとえば、人間ドック検査の時点でがんが発見されていたとしても、その時点で処置不能の段階に達しており、余命が伸びた可能性が低いケースがあります。この場合、債務不履行または不法行為と損害の間の因果関係が否定され、医療機関側の損害賠償責任は認められません。

因果関係は、医師が診療行為を適切に行っていたのであれば患者がその死亡の時点で生存していた可能性が高いといえる場合に認められます。病状の進行状況を医学的に分析しつつ、がんの見落としがなかった場合についてのシミュレーションを適切に行うことが大切です。

(2)弁護士・医師との協力が不可欠

医療機関側に対する損害賠償請求に際して、重要なポイントとなる過失や因果関係の立証には、いずれも医学的な検討・分析が不可欠です。

さらに、訴訟の場で適切に主張・立証活動を行うためには、医学的な検討・分析の結果を法的な書面に落とし込み、裁判所が納得できるような形でアピールすることも大切になります。

そのため、人間ドックにおけるがんの見落としについては、早い段階から弁護士に相談することが望ましいといえます。医療過誤訴訟に精通した弁護士であれば、協力医などと連携して、医学的な主張・立証に向けた準備を適切に進めることができるでしょう。

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