動物病院に入院中のペットが死亡。獣医師へ慰謝料請求はできる?
動物病院に入院していたペットが亡くなった場合、その悲しみは大変計り知れないものです。なおかつ、死亡原因として獣医療過誤が疑われる場合、どのように対処すればよいかわからない人も多いでしょう。
本コラムでは、獣医療過誤における法的責任や実際の裁判例、損害賠償請求のポイント、獣医療過誤が疑われる場合の対処法について解説します。
1. 獣医療過誤の法的責任とは
「獣医療過誤」とは、疾患を持つペット(動物)の診療過程において、獣医師の過失により、ペットが障害を負ってしまう、もしくは死に至ってしまうことです。獣医療過誤により、動物病院にはどのような法的責任が問われるのでしょうか。3つの法的責任と、実際の裁判例について解説します。
(1)善管注意義務違反および説明義務違反
獣医師は、動物病院で行われる獣医療行為に対して、「善管注意義務」を課されています。善管注意義務とは、一般的および客観的に要求され得る注意を払わなければならない、というものです。この場合、診療にあたった獣医師が、一般的な水準を満たした診療を行っていたかをもとに判断されることがあります。また、どのような治療を選べるかなど、必要な情報を飼い主に提供していなかった場合、「説明義務違反」にあたることも考えられます。
(2)相当因果関係
「相当因果関係」とは、原因から結果までの流れが、一般的に予想される範囲の関係であることを指す法律用語です。損害が起きた場合に、すべての事柄が損害賠償の対象となることではなく、損害に対して直接的な関係があると認められた場合に、賠償責任が発生します。例えば、診療および検査にかかった治療費などが、過失と直接的な因果関係が認められない場合は、損害賠償の対象になりません。
(3)不法行為に基づく責任
民法には「不法行為」についての条文があり、損害賠償義務が規定されています。そのため、特定の行為が行われた場合や損害が発生した場合、また特定の行為と損害に因果関係がある場合は、責任を問える可能性があります。
(4)実際の裁判例
①輸血との因果関係が争点に
愛犬の食欲が減退しおなかが張っていたため、動物病院を受診したところ、検査により膵臓(すいぞう)に大きな腫瘍が発見され、摘出手術を受けました。しかし、愛犬の年齢や病状から余命は長くはないと考えた飼い主は、早く退院させて自宅に連れて帰りたいと伝え、貧血を改善するための輸血を希望しました。当初、病院側は退院を認めませんでしたが、飼い主の要望を受けて輸血が行われることになりました。しかし、輸血後に容体が急変し、そのまま回復せずに愛犬は死亡してしまったケースです。
この裁判では、輸血と死亡との因果関係が問われた結果、輸血における量と速度が基準を上回ったことから、呼吸不全に陥ったと判断されました。
②不法行為に基づく慰謝料請求
愛犬(およそ17歳)が入院中の動物病院で死亡したことにより、大量の強心剤に加え、必要のない薬剤を投与した、また危篤状態になっても必要な措置を行わなかったなど、これらの過失が死に至らしめたとして、不法行為に基づく慰謝料を請求したケースです。
病院側は飼い主の主張をすべて否定し、与えた薬剤や分量、治療法、当時の状況などがわかる詳細な証拠を提出しました。その結果、飼い主の主張は却下され、訴訟費用も飼い主側の負担とされました。このケースでは、動物病院側が提出した証拠および飼い主の年齢が重要視されています。治療中、飼い主が常に病院にいることはないため、病院側の証拠を覆すことは困難です。
2. 獣医療過誤の損害賠償におけるポイント
(1)ペットは法律上「物」として扱われる
人間の場合と異なるのは、法律上、ペットは「物」扱いになることです。したがって、ペット自身の慰謝料請求は認められず、一般的なペットはお金を稼げないことから、逸失利益も認められません。また、ペットが負傷した場合と死亡した場合とでは、慰謝料が異なります。特に負傷の場合は、重大な後遺症が出た場合を除き、慰謝料が発生しにくいことが特徴です。
(2)ペットの死亡により請求できる賠償金
①ペットの時価
「物」として扱われるペットの賠償金は、医療過誤が発生する前の時価を基準に算定されます。時価とは、「今売りに出した場合にいくらで売れるか」を表す金額です。たとえば、受賞歴のあるペットや血統書付きのペットは高額になる場合もありますが、一般的なペットは時価が認定されにくくなります。
②葬儀費用
近年、ペットが死亡してしまった場合に葬儀を行うケースが増えており、その葬儀費用も賠償金の範囲として認められることが考えられます。実際に認められたケースでは、1~5万円ほどの金額です。
③飼い主の慰謝料
ペットが飼い主の精神的安定に寄与しているという事実から、これまでに比べて、慰謝料が増額される傾向にあります。また、夫婦で飼っていた場合など、2人分の慰謝料が認められるケースも発生しているようです。
3. 獣医療過誤を疑った場合の対処法
獣医療過誤の可能性を疑った場合、どのような行動を起こすべきなのでしょうか。ここでは、対処法を解説します。
(1)動物病院と話し合う
まずは、担当した獣医師から、検査や治療、手術などの詳しい経過について説明を受けましょう。丁寧で詳しい説明を受けることにより、状況を理解できるうえ、納得しやすくなります。一方、説明が不十分である場合は、さらに疑念が深まるおそれもあります。
(2)外部の獣医師や弁護士に相談して意見を聞く
動物病院側との話し合いにより、見解が食い違う場合は、外部の獣医師や弁護士などへの相談もひとつの手です。その際は、病院側から診療記録などのコピーをもらいます。専門家にそれらの資料をチェックしてもらったうえで見解を聞き、法的責任が問える可能性を確かめられます。
(3)民事調停を申し立てる
話し合いでの解決が困難である場合、民事調停を申し立てることも検討しましょう。民事調停とは、2人の調停員が双方に事情を確かめ、争う当事者が顔を合わせずに解決を目指す手続きです。民事調停は、弁護士に依頼せずに申し立てられます。
(4)訴訟を提起する
裁判所で訴訟を提起する場合、獣医療に詳しい弁護士探しや証拠資料の提出など、多くの手間がかかります。また、審理の展開が思うように進まなかったり、相手の主張にいら立ちを覚えたりと、精神的にも大きな負担がかかることも考えられます。
獣医療過誤は、獣医療という専門的な事柄を扱うため、獣医師による過失を証明するのは簡単ではありません。したがって、裁判による精神的負担に加え、経済的負担も大きくなる可能性があります。
獣医療過誤の可能性があり、法的手段を検討している場合は、弁護士に相談してみることもおすすめです。
- こちらに掲載されている情報は、2023年11月01日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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