無痛分娩で死亡のリスクがある? 出産前に知っておくべきことを解説

無痛分娩で死亡のリスクがある? 出産前に知っておくべきことを解説

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

出産の際に無痛分娩を選択する方が増えています。一方で、無痛分娩に関する事故のニュースなどを目にし、不安になる方も多いかもしれません。

本コラムでは、無痛分娩の基本知識をはじめ、無痛分娩に伴うリスク、万が一事故が起きた場合の法的対応について解説します。

1. 無痛分娩の基礎知識と死亡事故の実態

無痛分娩は出産時の痛みを和らげるメリットがある一方、適切な処置を行わないと大きな事故につながってしまうリスクが存在します。

(1)無痛分娩とは

無痛分娩とは、出産の際に硬膜外麻酔を用いて、痛みを和らげる方法です。分娩時の痛みを緩和することで、母体の負担を軽減する出産を目指します。母体の保護という医療上の必要性から施術されることもありますが、一般的には出産される方自身の希望によって行われるケースが多いです。

厚生労働省によると、分娩全体に占める無痛分娩の割合は病院で9.4%、診療所で7.6%(2020年時点)です。また日本産婦人科医会の調査によれば、2016年時点での割合は6.1%であり、出産方法として無痛分娩を選択する方は増加傾向にある状況です。

(参考:「Ⅰ 医療施設調査」(厚生労働省))
(参考:「「無痛分娩の実態把握及び安全管理体制の構築についての研究」」(厚生労働省))

(2)無痛分娩のリスク

無痛分娩の安全性は基本的には非常に高く、適切に行えば、母体に及ぼすリスクは低いとされています。とはいえ、母体や分娩の進行に悪影響が出るおそれがまったくないとは言い切れません。無痛分娩の主なリスクは以下です。

①分娩時間の延長

麻酔で陣痛が弱まることで、分娩が長引くことがあります。これにより、分娩時に介助が必要となり、吸引や鉗子(かんし)、あるいは陣痛促進剤(子宮収縮薬)の使用を要する場合があります。

②麻酔の副作用

血圧の低下、体温の上昇、排尿障害(排尿感の弱まり)、足の力が入りにくくなるなどの副作用が出る場合があります。多くの場合、これらの症状は一時的なものですが、ごくまれに局所麻酔薬中毒や硬膜外血腫のような重篤な副作用が出る場合もあります。なお、無痛分娩が胎児の体に深刻な悪影響をもたらすケースは非常にまれです。

(3)無痛分娩の死亡件数

無痛分娩の際に最悪のケースとして考えられるのが、妊婦が亡くなってしまうことです。統計調査によると、無痛分娩により死亡にまで至ってしまうリスクは極めてまれとされています。

日本産婦人科医会の調査によると、2010年から2016年の期間中、妊娠中から産後1年以内に亡くなった妊婦のうち、無痛分娩を行った割合は約5.2%(14例)でした。この14例のうち、無痛分娩が明確な死因であると言えるのは局所麻酔薬中毒を起こしてしまった1例のみが該当します。その他については自然分娩の場合でも起こり得た死因であり、無痛分娩が直接的な原因とは判断されていません。

2. 無痛分娩による死亡事故で問える法的責任

万が一、無痛分娩によって妊婦や胎児の死亡事故が起きてしまった場合は、医師に対して刑事と民事2つの側面から責任を問える可能性があります。

(1)刑事責任

医師が無痛分娩の際に適切な注意を払わず、その結果として妊婦が亡くなった場合、業務上過失致死傷罪に問えます。業務上過失致死傷罪を適用するには、医師が通常の医療行為において必要とされる注意を怠り(注意義務違反)、それが原因で妊婦が亡くなってしまったことを証明しなければなりません。刑法211条では業務上過失致死傷罪に対して、5年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円の罰金を規定しています。

出典:「刑法|e-Gov法令検索

(2)民事責任

民事責任としては、医師に対して「不法行為」または「債務不履行」の責任を問い、損害賠償を請求できます。

①不法行為

故意または過失によって、法律上保護されるべき他者の権利や利益を侵害する行為です。分娩中の事故について、不法行為に基づき医師の責任を問う場合、医師に過失があった事実と、過失と損害の因果関係を証明する必要があります。

②債務不履行

何らかの契約を結んだにもかかわらず、その契約に基づく義務を果たさなかったことを意味します。通常、医師と患者との間には治療契約が成立していると考えられます。したがって、医師が適切な医療措置を提供しなかった事実があった場合は、医師の債務不履行となります。債務不履行に基づき医師の責任を問う場合、債務不履行と損害の因果関係を証明する必要があります。

医師の責任を問う際には、医師に過失(債務不履行)があった事実と、その過失(債務不履行)と損害のあいだの因果関係を証明することです。しかしこれを一個人で実現するのは非常に難しいので、通常は医療事故に詳しい弁護士などに相談して進めていきます。

3. 無痛分娩を受ける前に注意したいこと

無痛分娩を検討する際には、いくつかの点に注意が必要です。

(1)無痛分娩の手順や経過を把握しておく

自然分娩とは異なる経過をたどることを把握しておきましょう。たとえば、無痛分娩では陣痛促進剤の使用や吸引・鉗子分娩が必要になる割合が、自然分娩よりも高いとされています。

(2)病院を選ぶ際は無痛分娩に関して十分な経験と実績があるかを調べる

無痛分娩やそれに伴うリスクへ適切に対応できる人員、体制、ノウハウが備わっているのかを調べておいた方がよいでしょう。

(3)自身の健康状態や既往歴を医師へしっかり伝える

これらの情報を医師に伝えることで、出産方法の選択、分娩中の措置、そして万が一の際の緊急対応などが適切に行われる可能性が高まります。

自然分娩・無痛分娩いずれも、出産によって妊婦にかかる負担は大きく、リスクを完全に排除することはできません。万が一、病院のミスなどによってトラブルが生じ、法的措置を検討することになった場合は、弁護士にご相談ください。

弁護士JP編集部
弁護士JP編集部

法的トラブルの解決につながるオリジナル記事を、弁護士監修のもとで発信している編集部です。法律の観点から様々なジャンルのお悩みをサポートしていきます。

  • こちらに掲載されている情報は、2023年12月26日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

お一人で悩まず、まずはご相談ください

まずはご相談ください

医療に強い弁護士に、あなたの悩みを相談してみませんか?

弁護士を探す
まずはご相談ください

お一人で悩まず、まずはご相談ください

医療に強い弁護士に、あなたの悩みを相談してみませんか?

医療に強い弁護士

  • 中邨 鶴一 弁護士

    ベリーベスト法律事務所 湘南藤沢オフィス

    神奈川県 藤沢市
    神奈川県藤沢市朝日町10-7 森谷産業旭ビル5階
    JR東海道本線・小田急江ノ島線「藤沢駅」より徒歩約6分
    江ノ島電鉄「藤沢駅」より徒歩約8分
    • 当日相談可
    • 休日相談可
    • 24時間予約受付
    • 電話相談可
    • ビデオ相談可
    • 初回相談無料

    ※初回相談無料は、ご相談の内容によって一部有料となる場合がございます。

     
    注力分野

    病院の対応や説明に不信感…その疑問をお聞かせください

  • 母壁 明日香 弁護士

    弁護士法人長瀬総合法律事務所水戸支所

    茨城県 水戸市
    茨城県水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル7階
    常磐線水戸駅徒歩7分
    *お車でご来所される場合は、事務所近くのコインパーキングへ駐車くださいますようお願い申し上げます。
    現在営業中 6:00〜23:00
    • 当日相談可
    • ビデオ相談可
    • 初回相談無料

    当日相談は日程調整ができない場合もありますので予めご了承ください。

     

  • 関根 光一 弁護士

    弁護士法人長瀬総合法律事務所

    茨城県 牛久市
    茨城県牛久市中央5-20-11 牛久駅前ビル201
    常磐線牛久駅徒歩1分
    *お車でご来所の際は、事務所近くのコインパーキングをご利用ください。
    現在営業中 6:00〜23:00
    • 当日相談可
    • ビデオ相談可
    • 初回相談無料

    当日相談は日程調整ができない場合もありますので予めご了承ください。

     

  • 大久保 潤 弁護士

    弁護士法人長瀬総合法律事務所

    茨城県 牛久市
    茨城県牛久市中央5-20-11 牛久駅前ビル201
    常磐線牛久駅徒歩1分
    *お車でご来所される場合は、事務所近くのコインパーキングへ駐車くださいますようお願い申し上げます。
    現在営業中 6:00〜23:00
    • 当日相談可
    • ビデオ相談可
    • 初回相談無料

    当日相談は日程調整ができない場合もありますので予めご了承ください。

     

  • 鈴木 麻文 弁護士

    弁護士法人長瀬総合法律事務所

    茨城県 牛久市
    茨城県牛久市中央5-20-11 牛久駅前ビル201
    常磐線牛久駅徒歩1分
    現在営業中 6:00〜23:00
    • 当日相談可
    • ビデオ相談可
    • 初回相談無料

    当日相談は日程調整ができない場合もありますので予めご了承ください。