休職中に管理職を降格させられた! 違法ではないの?

休職中に管理職を降格させられた! 違法ではないの?

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

従業員の降格処分は、使用者である会社がもつ人事権を根拠に行われますが、実施する場合には合理的な理由が必要です。では、病気などで休職している間に管理職から降格された場合、この人事異動を不当として撤回させることはできるのでしょうか。

本コラムでは、休職中に降格や減給処分を受けてしまった方に向けて、具体的な事例を交えて違法な降格処分について解説します。

1. 休職による管理職からの降格(降職)は違法ではないのか

会社には、労働者を採用・配置し、昇進や降格などの人事異動を行える「人事権」があります。法的で明確に定義されているわけではなく、法的な根拠はありませんが、「業務命令権」「施設管理権」とともに、会社を守る「経営三権」として知られています。人事権には広範な裁量が認められており、合理的な理由があれば、使用者である会社は労働者を降格させることが可能です。

ただし、人事権にも一定の制限が設けられています。特に降格や減給、解雇といった労働者にとって不利益な処分を行う場合には、労働契約や就業規則にのっとった判断が求められることはもちろん、公序良俗などに照らし合わせて、第三者から見ても納得できる理由が必要です。

たとえば、降格(降職)処分を行うための具体的な理由としては以下が挙げられます。

  • 職務に必要な能力や適性が当該従業員には明らかに欠けている
  • 就業規則やコンプライアンスに違反する不正行為や不祥事を当該従業員が犯した

逆にたとえば、

  • そのほかの一般従業員に比べて、当該従業員の業務速度がやや遅い気がする
  • 当該従業員は職場の雰囲気にマッチしていないようだ

といった、労働契約や労働協約、就業規則に違反しているわけでもなく、第三者から見て降格(降職)もやむを得ないと思える合理的な理由がない場合には、会社側の人事権の逸脱や濫用が疑われます。

休職を理由に管理職から降格させられた場合には、当該従業員の休職が、復職後に管理職としての業務を遂行することが不可能であったのか、さらには会社が事業を継続する上で降格は不可避であったのか、代替策はなかったのかなどが争点になると考えられます。

降格自体に問題がなかったとしても、降格にともなって行われる減給がすべて適法であるとは限りません。たとえば役職給は、降格時に支払われなくなる、あるいは減額されることがあっても、直ちに違法であるとは考えられません。

しかし、基本給の減額については、労働契約で減給に関する条項が規定されていれば、契約にのっとって処理されなければならず、恣意(しい)性が入り込んだ処理は認められません。

さらに、降格したにもかかわらず、労働時間や職務内容が降格前とは実質的に変わらないという場合も、減給に合理性があるとは考えられません。

2. 休職による降格(降職)が違法となる事例

休職による降格が違法または無効となる具体的な事例をいくつか紹介します。

(1)病気が軽症であり、すぐ業務に復帰できる場合

従業員が病気やけがを理由に休職したものの、症状が軽く、短期間での業務復帰が見込まれる場合には、当該従業員を降格する合理的な理由があるとはいえません。このような状況での降格は、一般的に人事権の濫用と見なされます。

(2)妊娠・出産を理由に降格処分を行った場合

男女雇用機会均等法では、女性従業員の妊娠や出産を理由に不利益な扱いをすることを禁止しています。具体的には、以下を理由に降格処分を行うことは認められません。

  • 妊娠・出産にともなう体調不良
  • 妊娠・出産にともなう業務転換の要求
  • 産休・育休の取得
  • 時間外労働の制限

(3)病気の発症の原因が会社側にあると認められる場合

従業員が病気を発症した原因が、会社の安全配慮義務違反や使用者責任によるものであると認められる場合には、病気を理由に降格を行うことは認められません。たとえば、過度の長時間労働や職場内のハラスメントなどのストレスが原因で従業員がうつ病を発症して休職した場合、従業員のうつ病を理由に降格処分を行うことは不当です。

3. 不当な降格処分を受けた場合の対処法

万が一、会社から不当な降格処分を受けた場合、最初に行うべきは、会社の人事課などに降格の理由を確認することです。降格理由に納得できない場合は、処分の撤回を要求できます。労働組合に加入している場合は、組合に相談することをおすすめします。

降格処分撤回の要求や労働組合への相談を行っても問題が解決しない場合には、次のステップとして損害賠償請求を検討します。これは、降格が原因で生じた経済的損失や精神的苦痛などに対して、会社に補償を求める行為です。

特に、降格にともなって給与が減額された場合には、本来受け取れるはずだった賃金を降格時にさかのぼって請求(差額賃金請求)することが可能です。当事者同士の話し合いで問題が解決しない場合は、労働審判や裁判を通じて、不当な降格に対して訴訟を起こすことも選択肢のひとつです。

会社に損害賠償請求したり、労働審判を起こしたりする場合には、弁護士に相談することをおすすめします。降格処分の不当性を主張し、望んだ結果を実現するには、法的な根拠や客観的な証拠にもとづいて会社の違法性を明らかにすることが必要です。多くの場合、会社には顧問弁護士がいますので、法律に明るくない個人が自力で交渉にあたっても不利は免れません。

その点、弁護士に相談すれば、降格処分を法律の専門家として第三者的な観点から判断してくれたり、会社との交渉を代行してくれたりします。損害賠償請求の交渉だけでなく、退職代行を依頼することも可能です。さらに、労働審判や裁判にまで発展した場合でも、訴訟手続きの代行や裁判を有利に進めるための証拠収集や資料作成、弁護などのサポートを受けられます。

会社を相手に交渉したり、訴えたりすることには大変な勇気が求められます。しかし、降格処分に正当な理由が見当たらないのであれば、降格の撤回や損害賠償を求めることは労働者として当然の権利です。会社の降格処分に納得できない、疑問・不信感がある場合には、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

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  • こちらに掲載されている情報は、2024年04月29日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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