みなし残業とは? 違法になるケースはある?

みなし残業とは? 違法になるケースはある?

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

一部の企業では、労働者の見かけ上の待遇を良く見せたい、業務効率化に向けた労働者のモチベーションをアップさせたいなどの理由から、「みなし残業代制(固定残業代制)」が採用されています。

しかし、みなし残業代制であっても、残業代が常に一定額であるとは限りません。毎月長時間の残業を強いられているのに、追加残業代が一切支払われていない場合には、未払い残業代の請求をご検討ください。

今回はみなし残業代制について、仕組みや違法となるケースなどを解説します。

1. みなし残業代制(固定残業代制)とは

みなし残業代制(固定残業代制)とは、一定の残業時間に対応する残業代を、毎月必ず支給する制度です。

(1)みなし残業代制の仕組み

みなし残業代制が採用されている場合、固定残業時間に達するまでは、残業時間にかかわらず所定のみなし残業代が支給されます。これに対して、固定残業時間を超過した場合には、みなし残業代に加えて、超過時間に対応する追加残業代が支払われます。

(例)
固定残業時間が30時間、みなし残業代が9万円の場合
→毎月の残業時間が30時間に達するまでは、みなし残業の9万円が支給されます。仮に残業時間がゼロであっても同様です。

1か月の残業時間が30時間を超えると、みなし残業の9万円に加えて、超過1時間当たり3000円の追加残業代が支給されます。たとえば、40時間の残業をした場合の残業代は、合計12万円です。

(2)みなし残業代制とみなし労働時間制の違い

みなし残業代制(固定残業代制)と似た用語に「みなし労働時間制」がありますが、両者は異なる概念です。

みなし労働時間制は、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定めた時間分労働したものとみなす制度です。具体的には、以下の場合にみなし労働時間が適用されます。

①事業場外みなし労働時間制(労働基準法第38条の2)

事業場外で労働した労働者について、実際の労働時間を算定し難い場合に適用されます。

②専門業務型裁量労働制(同法第38条の3)

厚生労働省令・厚生労働大臣告示によって定められた19業務について、業務の遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある場合に、労使協定に基づいて適用されます。

③企画業務型裁量労働制(同法第38条の4)

事業運営に関する企画・立案・調査・分析業務について、業務の遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある場合に、労使委員会決議に基づいて適用されます。

これに対してみなし残業代制は、実際の労働時間に従って残業代を支給する必要がある点に注意が必要です。

2. みなし残業代制が違法となるケース

みなし残業代制は、労働基準法に従った適切な運用がされていないケースも多いです。典型的には、以下のいずれかに該当する場合、みなし残業代制が違法となります。

(1)明示すべき事項が明示されていない場合

みなし残業代制を適用するには、使用者が労働者に対して以下の事項を明示しなければなりません。

  • 固定残業代を除いた基本給の額
  • 固定残業時間
  • 固定残業代の金額の計算方法
  • 固定残業時間を超える時間外労働、休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨

労働者に対して、これらの事項が一つでも明示されていない場合、みなし残業代制は違法となります。

(2)実際の労働時間が労働基準法・36協定に違反している場合

みなし残業代制を適用する労働者についても、労働基準法・36協定に基づく労働時間の上限は、通常どおり適用されます。

<労働時間の上限>

  • 36協定が締結されていない場合
    1日8時間、1週間40時間(労働基準法第32条)
  • 36協定が締結されている場合
    36協定で定められた限度時間※(同法第36条第2項第4号、第3項)

※限度時間は原則として、1か月45時間以内かつ1年360時間以内(同条4項)。ただし、特別条項が定められている場合は、臨時的な特別の事情がある場合に限り、以下の条件をすべて満たすことを条件に超過可能。

  • 坑内労働等の健康上特に有害な業務については、1日当たりの時間外労働が2時間以下
  • 直近1か月間の時間外労働・休日労働の合計が100時間未満
  • 直近2か月・3か月・4か月・5か月・6か月間における、1か月当たりの時間外労働・休日労働の平均合計時間が80時間以下
  • 年間の時間外労働が720時間以下
  • 月45時間超の時間外労働を行うのは、1年のうち6か月以下

労働基準法・36協定に基づく上限を超えて労働者を働かせることは、労働基準法違反です。

(3)固定残業時間を超過した場合に、追加残業代が支払われていない場合

前述のとおり、みなし残業代制は、固定残業時間を超過した労働に対して追加残業代を支払う制度です。

そうであるにもかかわらず、「給料は残業代込み」などと、みなし残業代制を言い訳にして追加残業代を一切支払わない会社が散見されます。これは労働基準法違反に当たる賃金未払いであり、労働者は会社に対して未払い残業代の支払いを請求できます。

3. 違法なみなし残業への対処は弁護士に相談を

みなし残業代制を正しく運用していない会社は非常に多く、残業代未払いの被害に遭っている方は、潜在的に数多く存在すると思われます。

もしみなし残業代制を理由として、会社が一切追加残業代を支払わない場合は、未払い残業代が発生している可能性が高いです。サービス残業について適正な残業代を獲得するため、お早めに弁護士までご相談ください。

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法的トラブルの解決につながるオリジナル記事を、弁護士監修のもとで発信している編集部です。法律の観点から様々なジャンルのお悩みをサポートしていきます。

  • こちらに掲載されている情報は、2023年01月25日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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