悪意の遺棄とは? 慰謝料を請求できる?

悪意の遺棄とは? 慰謝料を請求できる?

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

配偶者が無断で家を出て行った場合や、生活費の分担を拒否された場合などには、「悪意の遺棄」に該当する可能性があります。悪意の遺棄を受けた方は、配偶者に対する離婚請求や慰謝料請求が可能です。

今回は悪意の遺棄について、該当する行為の例や慰謝料請求のポイントなどを解説します。

1. 悪意の遺棄とは

「悪意の遺棄」とは、夫婦が互いに負う以下の義務(民法第752条)を、正当な理由なく放棄する行為です。

  1. 同居義務
    同居して一緒に生活する義務
    ※夫婦の合意がある場合や、やむを得ない場合には別居可
  2. 協力義務
    収入の獲得や家事・育児などについて互いに協力する義務
  3. 扶助義務
    配偶者に対して、自分と同等の生活を保障する義務

(1)悪意の遺棄に当たる行為の例

たとえば以下のような行為は、悪意の遺棄に該当する可能性が高いです。

<同居義務違反>

  • 配偶者に無断で別居する
  • 配偶者に無断で頻繁に家出を繰り返す

<協力義務違反>

  • 育児を放棄する
  • 働けるのに働かない

<扶助義務違反>

  • 収入に見合った婚姻費用(生活費など)を支払わない
  • 自分だけ外で遊び歩き、家には一切お金を入れない

など

(2)悪意の遺棄は法定離婚事由に当たる

悪意の遺棄は「法定離婚事由」の一つとされています(民法第770条第1項第2号)。

法定離婚事由は、離婚訴訟において離婚を認める判決を得るための要件(離婚原因)です。言い換えれば、悪意の遺棄を受けた場合には、仮に配偶者が拒否しても、離婚訴訟を通じて強制的に離婚を成立させることができます。

悪意の遺棄を行う配偶者との結婚生活に耐えかねている場合には、弁護士のサポートを受けながら離婚請求を行いましょう。

2. 悪意の遺棄を受けた場合、慰謝料請求も可能

悪意の遺棄は「不法行為」(民法第709条)に当たるため、配偶者に対して慰謝料を請求することもできます。

悪意の遺棄の慰謝料額は、100万円から300万円程度が標準的です。具体的な慰謝料額には、以下のような要素が考慮・反映されます。

  • 悪意の遺棄が行われた期間、回数
  • 悪意の遺棄に当たる行為の悪質性
  • 配偶者の反省の態度や謝罪の有無

など

また、配偶者と離婚する場合には、以下の要素も慰謝料額に反映されます。

  • 未成熟の子どもの有無
  • 婚姻期間の長短

など

3. 悪意の遺棄について慰謝料請求をする際の注意点

悪意の遺棄を受けた場合に、配偶者に対して慰謝料を請求するに当たっては、以下の各点にご注意ください。

  1. 悪意の遺棄の証拠を十分確保すべき
  2. 損害賠償請求権の消滅時効に要注意
  3. 離婚しない場合は請求するかどうかも要検討

(1)悪意の遺棄の証拠を十分確保すべき

悪意の遺棄を理由に損害賠償を請求する際には、該当する行為の証拠を十分に確保することが大切です。証拠が不十分だと、立証責任を負う被害者側が負けてしまいます。

行為の内容・種類に応じて、以下のような証拠をできる限り幅広く集め、訴訟になっても立証できるように万全の態勢を整えましょう。

(例)

  • 無断別居
    →別居期間中のメッセージのやり取り
  • 無断での家出
    →家出中の状況確認のやり取り
  • 育児放棄
    →育児に関するメッセージのやり取り(配偶者の非協力的な姿勢が表れているもの)
  • 働けるのに働かない
    →就労能力の証明書類(医師の診断書、健康診断の結果など)
  • 生活費の不払い
    →預貯金の入出金履歴、生活費関連の領収書(自分だけが生活費を支出していることがわかるもの)

(2)損害賠償請求権の消滅時効に要注意

不法行為に基づく損害賠償請求権は、以下の期間が経過すると時効により消滅します(民法第724条、第724条の2)。

①悪意の遺棄が生命・身体を害する不法行為に当たる場合

→以下のいずれか早く経過する期間

  1. 損害および加害者を知った時から5年間
  2. 不法行為の時から20年間

②①以外の場合

→以下のいずれか早く経過する期間

  1. 損害および加害者を知った時から3年間
  2. 不法行為の時から20年間

損害賠償請求権の時効完成を防ぐため、早めに内容証明郵便の送付や訴訟提起などを行いましょう。弁護士に相談すれば、時効完成を阻止するための手続きをスムーズにとってもらえます。

(3)離婚しない場合は請求するかどうかも要検討

相手と離婚しない場合は、慰謝料や婚姻費用などを請求しても、結局同じ家計の中でお金が行き来するだけです。そのため、夫婦関係の改善を重視して、金銭の請求は差し控えた方がよいケースが多いでしょう。

消滅時効が完成するまでは、後からでも慰謝料を請求することはできます。悪意の遺棄の証拠だけはきちんと確保して、将来離婚することになった際に、慰謝料を併せて請求できるように準備を整えておきましょう。

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法的トラブルの解決につながるオリジナル記事を、弁護士監修のもとで発信している編集部です。法律の観点から様々なジャンルのお悩みをサポートしていきます。

  • こちらに掲載されている情報は、2023年04月28日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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