
脅迫罪とは? 成立要件や強要罪・脅迫罪との違いや刑罰等を解説
日々の暮らしの中で、たとえば、頭に血が上って人に怒りをぶつけてしまうこともあるでしょう。また、クレームなど、正当だと思う要求が相手に聞き入れられず、焦って、脅すような言葉を発することもあるかもしれません。しかし、度を超えて相手を脅すような言葉を発すると、脅迫罪等の罪で逮捕されたり、刑罰を科されたりする可能性があります。
本コラムでは、脅迫罪の成立要件を示し、強要罪や恐喝罪との違い、逮捕された場合の手続きの流れ、どのような場合に刑罰が科されるか、逮捕や刑罰を免れあるいは軽い処分で済むにはどうしたらよいのか、解説します。
1. 脅迫罪とは
脅迫罪は、「生命、身体、自由、名誉または財産に対し害を加える旨を告知して「人」を脅迫した」場合に成立します。法定刑は2年以下の懲役または30万円以下の罰金です(刑法222条)。
脅迫行為の程度、あるいはその結果等によっては、後述するように、より重い別の犯罪が成立することもあり得ます。
(1)脅迫罪の成立要件
脅迫罪の「脅迫」とは一般に、人を畏怖させる程度の「害悪の告知」をいいます。対象者である「人」に会社等の法人は含まれません。
①脅迫の対象者は親族も含む
告知する「害悪」の対象は本人および親族の「生命、身体、自由、名誉、財産」です(刑法222条2項参照)。たとえば、「お前の『子ども』に危害を加える」などと告げる行為も脅迫罪の対象となるということです。
②害悪の対象は「広い」
害悪の対象は「生命、身体、自由、名誉、財産」と限定列挙されていますが、これらはかなり広い範囲のものを含みます。たとえば以下の通りです。
- 生命:「殺してやる」
- 身体:「骨をへし折ってやる」「みんなでリンチしてやる」
- 自由:「誘拐してやる」
- 名誉:「●●(過去の不祥事、知られると不名誉な秘密等)をばらしてやる」
- 財産:「家に放火してやる」「家をぐっちゃぐちゃにしてやる」
【対象別・害悪の告知の例】
他にも、雇用主が労働者に対し「クビにしてやる」ということは、状況によって「自由」や「財産」等に対する害悪の告知にあたり得ます。
また、明示的でなくほのめかす場合も含みます。たとえば「夜道を歩くときは気を付けろよ」などです。
害悪の告知は必ずしも口頭や文書といった「言葉」である必要はありません。態度や挙動で示す場合も含まれます。さらに、インターネットの掲示板やSNS等への書き込みも含まれます。2024年に池袋暴走事故の被害者遺族に対して殺害予告をした女子中学生が書類送検されたのは記憶に新しいでしょう。
他方で「呪ってやる」などの「恨み節」は原則として含まれません。
③相手が畏怖しなくても成立
害悪の告知を受けたことを相手方が認識したことは必要ですが、実際に相手方が畏怖させる必要はありません。
なお、「害悪」の内容は自分が左右できるものでなければなりません。たとえば「もうすぐ地震が起きてお前は死ぬぞ」とか「アンドロメダの帝王が襲ってくるぞ」などは除外されます。
(2)軽い気持ちで脅迫罪が成立しうる具体例
脅迫罪は、軽い気持ちで発した言葉によって犯してしまう可能性がある犯罪です。たとえば、以下のようなものです。
①「訴えてやる」など適法行為の告知
相手の行いが気に入らないなどで「訴えてやる」ということも、場合によって脅迫罪にあたることがあります。「訴える」こと自体は正当な権利行使として適法だとしても、発言した際の状況からみて、相手を畏怖させる意図で発せられ、かつ畏怖させるに足りるものと認定されれば(実際に畏怖したことは不要)、脅迫罪が成立する可能性があるということです。
②取引相手へのクレーム
取引の相手の対応が気に入らない場合等にクレームを入れ、その際に「ネットにさらしてやる」などと申し向ける行為も、脅迫罪に該当する可能性があります(法人の場合は、担当者に対する脅迫罪が成立し得ます)。
なお、クレームの際に相手方に何かを強要した場合には強要罪(刑法223条)、長々とクレームを続けた結果として業務の遂行を妨げた場合は威力業務妨害罪(刑法234条)が成立し得ます(脅迫罪とこれらの犯罪との関係について詳しくは後述します)。
③いさかいの場での暴言
人ともめ事になり、「覚えておけよ」などと暴言を吐くことも、行為者の属性や相手方との関係等の事情によっては、脅迫罪に該当し得ます。
友人の間での言葉であれば冗談で済むことが多いでしょうが、親密な関係ではなく、かつ険悪な場合には注意が必要です。
(3)脅迫罪の公訴時効
脅迫罪の公訴時効は3年です(刑事訴訟法250条2項6号)。起算点は脅迫行為を行った日です(同253条)。
2. 強要罪、恐喝罪等との違い
脅迫行為をした場合、脅迫罪以外の犯罪が成立する可能性があります。刑法上、脅迫罪の脅迫行為に「+α」の事実が加わることにより、別の犯罪の構成要件に該当しうるということです。
いずれの犯罪の構成要件も「脅迫罪+α」なので、法定刑は脅迫罪(2年以下の懲役または30万円以下の罰金)よりも重くなっています。
(1)強要罪との違い
強要罪は、相手方を暴行・脅迫して「義務のないことを行わせた」場合、または「権利行使を妨害した」場合に成立します(刑法223条1項・2項)。未遂犯も処罰されます(同3項)。
法定刑は「3年以下の懲役」です。強要罪が成立する場合、脅迫罪は強要罪に吸収され、強要罪のみが成立します。
(2)恐喝罪との違い
恐喝罪は、人を「恐喝」し、それによって財物を交付させた場合に成立します(刑法249条1項)。また、「財産上の行為を得、または他人にこれを得させた」場合には「恐喝利得罪」が成立します(同2項)
これらは未遂犯も処罰されます(同250条)。
恐喝とは、「相手方の反抗を著しく困難にする程度の」暴行または脅迫をさします。脅迫罪の対象となる脅迫行為が「相手方を畏怖させる程度」のものであるのに対し、それよりも強度のものが要求されています。また、実際に相手の反抗が著しく困難な状態に陥ったかは問いません。
恐喝罪の法定刑は、同罪の脅迫行為が強度のもので、かつ相手から財物の交付等を受けるというものなので「10年以下の懲役」と重くなっています。
なお、脅迫の程度がさらに強く「相手方の反抗を抑圧する程度の脅迫」を加えて財物や財産上の利益を奪った場合には、「強盗罪」が成立します(236条。5年以上の有期懲役)
(3)その他の犯罪との関係
①威力業務妨害罪
脅迫の結果、相手方の業務の遂行を妨害した場合には、威力業務妨害罪が成立します(刑法234条。3年以下の懲役または50万円の罰金)。
なお、妨害行為自体が罰せられるので、実際に相手方の業務が妨害されなくても成立します。また、威力業務妨害罪が成立する場合には、脅迫罪は吸収され、威力業務妨害罪のみが成立します。
②公務執行妨害罪
暴行・脅迫を加えて公務員の業務執行を妨害した場合には、公務執行妨害罪が成立します(刑法95条。3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金)。
また、公務執行妨害罪が成立する場合、脅迫罪は吸収され、公務執行妨害罪のみが成立します。
3. 脅迫罪で逮捕・起訴された場合の手続きの流れ
(1)脅迫罪で逮捕されるケースとその後の流れ
脅迫罪を犯した場合、必ず逮捕されるとは限りません。
まず、多くの場合、脅迫を受けた相手方が告訴することにより、捜査が始まります。ただし、インターネット上のSNSや掲示板への書き込みの場合には、告訴がなくても捜査機関が自発的に動くことがあります。
また、逮捕は所定の要件をみたさなければ認められません。以下の2つをみたす必要があります(刑事訴訟法199条)。
- 罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があること(逮捕の理由)
- 逃亡や証拠隠滅を図るおそれがあること(逮捕の必要性)
さらに、原則として、裁判官が「逮捕の理由」「逮捕の必要性」の有無を審査して発付する令状(逮捕状)が必要です(令状主義。憲法33条参照)。
逮捕されると、警察で最大48時間、検察で最大24時間(合計で最大72時間)の身柄拘束を受けます(刑事訴訟法203条、205条)。
また、その後、もし勾留請求が行われ、令状担当の裁判官により勾留状(令状)が発付されると、最大20日間身柄拘束されます(同207条、208条)。
そして、起訴され刑事裁判が行われます。なお、起訴後の被告人に対しても勾留が行われることがあります(同60条)。
逮捕・勾留の有無にかかわらず、脅迫罪で起訴されると、有罪になり刑罰を科される可能性が高くなります。わが国では起訴された場合の有罪率は99.9%に達しており、起訴されるのを防ぐことが重要です。
そして、起訴を免れたいのであれば、被害者との示談を早急に行うことが必要です。
(2)脅迫罪で刑罰が科されるケースと免れるケース
脅迫罪は、脅迫行為を伴う犯罪のなかでは比較的刑罰が軽い犯罪で、最高刑も懲役2年なので、初犯で悪質性が低ければ不起訴になる可能性は十分に考えられます。また、有罪になっても執行猶予が付く可能性があります。
他方で、脅迫行為を繰り返している場合や悪質性が高い場合は、有罪になり、かつ執行猶予がつかず実刑となる可能性もあります。
いずれにしても、起訴、あるいは有罪判決・実刑を避けるには、被害者との示談を早期に成立させることが重要なポイントとなります。
脅迫罪の示談金の相場は概ね20万円~100万円の範囲内と考えられています。もちろん、悪質性が高い場合や、前述したような他の重い犯罪に該当する場合には、さらに高額な示談金が必要となる可能性も考えられます。また、金額は相手方との話し合いの巧拙によっても左右されます。
さらに、脅迫を受けた相手方が直接の示談交渉に応じてくれるとは考えにくく、実際のやりとりは弁護士を通じて行うことが不可欠です。
弁護士は、被害者との示談交渉の他にも、以下のような重要な役割を担います。
- 裁判官による勾留の決定に対する異議申立て(準抗告)の手続き
- 捜査機関から取調べを受ける際の被疑者・被告人の権利の説明やアドバイス
- 起訴された場合の無罪獲得、または軽い判決を獲得するための立証活動
これらはいずれも、法律の知識や証拠の価値等に関する特別なノウハウと経験を必要とするものであり、素人にはきわめて困難なものです。
自分や家族が脅迫罪で逮捕・起訴された場合、あるいは逮捕・起訴されるのではないかと心配な場合は、一刻も早く、信頼できる弁護士に相談し、サポートを受けることをおすすめします。
- こちらに掲載されている情報は、2025年01月31日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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