ドラマ好きな弁護士が、オタクな目線で楽しむ『競争の番人』11 ~談合:刑事事件編~
  • 2022年09月16日
  • 企業法務

ドラマ好きな弁護士が、オタクな目線で楽しむ『競争の番人』11 ~談合:刑事事件編~

ドラマ『競争の番人』の第10回放送(9/12)で、「談合編」にケリがつきました。小日向文世演じる事務次官が本作のラスボスが倒されて終わるのかと思っていましたが、「もう少しだけ続くんじゃ」というドラゴンボール的な展開になったのには驚きました。

今回、検察が動いているように談合は刑事事件としての側面も強いです。小日向文世の事務次官は入札談合等関与行為防止法で逮捕され、処罰されたのでしょう。では、談合に参加した各会社はどのような扱いになったのか? 今回は、公正取引委員会が扱う独禁法としての談合と、刑事事件として扱う談合で、考え方や着目点にどのような差が出るかという、少しマニアックな論点を深掘りします。

1. 実行行為と時効 ~5年の時効にかからないための工夫~

公正取引委員会(公取委)の調査だと、基本的に市場にとっての問題行為を発生させないことを第一にしますし、発生していたらしていたで課徴金を課すと淡々と処理すれば良いので、あまり細かくこだわらなくても問題に取り組めるのですが、刑事罰を科す場合はそうはいきません。国家権力として、強制的に刑務所に入れる刑を科したり、企業に多額の罰金を科すわけですから、近代刑法の原則にのっとり、法律が定めた厳格な基準で犯罪を成立しているか判断する必要があります。

まず、これをやったら犯罪行為とされる実行行為については、独禁法89条にあるとおり、条文上は公取委が扱う時と同じ「不当な取引制限」と同じです。そして、その不当な取引制限について、談合だと基本合意と個別調整という概念があるのは、コラム9でも言及しました。

公取委は、このうち「基本合意」というものをターゲットにして立証していきます。基本合意が不当な取引制限にあたるのは、当然です。一方で、悪質かつ巨大な談合事件だと、その基本合意自体は遠い昔に結ばれており、10年単位で談合が行われてきている時もあります。この場合、独禁法89条の罪は懲役が最高5年なので、5年たてば時効が成立して罪に問えなくなってしまいます。

このような点について、実務上はいくつかの解決法をとっています。まず、談合は犯罪の性質として、その基本合意の効果が続いている限り行為が終了しておらず、時効がスタートしないという考え方です(東京高裁平成9年12月24日判決(平成9年の第1号))。他に、基本合意と個別調整のうち、直近に行われていて証拠が集まりやすい個別調整も犯罪の実行行為として扱い、時効にかからないようにするものもあります(東京高裁平成19年9月21日判決(平成17年の第1号第2号))。

犯罪が複雑で巨大な割に、懲役刑としての刑は重くなく、公訴時効が短めであることから、このような問題が成立し、しばしば議論にもなっています。

2. 既遂と未遂

刑法43条は、犯罪が「未遂」で終わった場合、刑の減軽を行えることになっています。また、そもそも未遂を処罰する規定が存在しないと、未遂の段階では処罰ができません。独禁法89条2項には未遂処罰の規定があるため、未遂の段階と既遂の段階がそれぞれあることになります。それでは、いつ既遂に達すのでしょうか?

この点については判例があり、不当な取引制限罪では、合意によって相互拘束が生じ競争を実質的に制限する効果が生じていれば既遂なのであり、合意内容の実施時期が到来して、実際に実行される必要はないとされています(最高裁昭和59年2月24日判決(昭和55年あ第2153号))。入札日まで待つ必要はないということですね。

つまり、今回のドラマの事件も、既遂に達していたということになります。じゃあ、未遂はどこからなのだという点は、実行行為への着手の時点と抽象的には述べられますが、やはり争いが生じるような場面は今後もでてき得ると思います。

3. リニエンシーと共犯からの離脱 ~課徴金だけでなく前科も免れるには?~

独禁法には、”リニエンシー“というチクって課徴金を免れ減額する手段があるというのも、以前話しましたね(コラム4)。

公取委との関係では、このようにチクって駆け込むことが重要で、やってしまった後からでも、ある程度目をつけられてからでも、調査に協力して減免を得られる可能性を高めるのが大事と話しました。ただ、刑事責任があるかないかを決める、刑法の共犯としての責任については、課徴金ほど柔軟に扱えません。

刑法において、「共犯からの離脱」という論点があります。一度共犯として参加した者は、どこまですると共犯の関係から外れて、仮に残りの連中が何か引き起こしたとしても、罪を免れられるのかという問題です。前記東京高裁平成19年9月21日判決は、普段の共犯事件同様、自分が発生させた犯罪の危険は除去するよう求めており、ただ談合をやめることを表明するだけでも足りず、競合他社の犯行継続阻止に十分な措置を取ることが必要としています。実際に何をすれば良いのでしょうか?

この点についても、厳密に議論が確定しているわけではないのですが、ここらの先例とされる事件は皆、平成17年にリニエンシーが導入される前に問題となった事件です。リニエンシーで公取委に情報提供し、調査を成功させるために他の業者にも余計なことを言わずにいるといった状況を想定すれば、それで共犯責任が発生するという結論が不合理だとは、容易に想像がつくかと思います。

リニエンシーは、犯行継続阻止に十分な措置と考えるべきでしょう。公取委側でもこの点は手当しており、公取委の告発がないと検察が捜査できない仕組みを利用して、告発先を選択したりしています。

4. 「安い」は罪?

今回、ラスボス小日向文世が競争を憎むきっかけになった、「安い建築」の問題が挙げられました。公共事業は、過去に公共事業を行った実績を持っていることで、赤字覚悟で受けることも実際あるのですが、その場合問題なのは、あくまで最低限のクオリティーを維持できる入札下限価格を設定しなかった国または地方公共団体です。人々の競争にあぐらをかいて、赤字奉仕とかに喜んでいるのも、公の機関としては罪なんですね。

「安いと罪なんですか」問題は、次回にも続きそうです。どういう展開になるかわかりませんが、最終話もきっちりコメントして行こうと思います。

杉山 大介
杉山 大介 弁護士

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