ドラマ好きな弁護士が、オタクな目線で楽しむ『競争の番人』4 ~課徴金減免制度(リニエンシー)~
法律をテーマにしたリーガルドラマというのは、日本ではなかなか貴重です。弁護士が主人公の作品はあるのですが、別にその主人公は刑事でも探偵でも良いような作品も多いです。
このような書き出しで第1回のコラムでドラマ「競争の番人」について書きました。今回(第3回放送)の話は、残念ながら、公正取引委員会(公取委)が一切仕事しなくても良い話になってしまっていたと思います。2度の殺人未遂が起きれば、もうそれは完全に刑事事件ですよ。そこまでドラスティックな展開を設けなくても、ポンポコ裏切らせられるのが、独禁法の仕組みです。また、通例より踏み込んだ手段を用いるなら、排除措置命令でやれたこともあります。
このように、今回は批判的に検討しながら、ありえたアナザーストーリーを探ってみようと思います。
1. 排除措置命令による悪徳社長の経営からの排除
実は前回の排除措置命令のコラムで、書こうか悩んだ内容があります。少なくとも前回の時点では、悪徳社長である天沢雲海による直接的な違反行為の関与なども立証できておらず、さすがに難しいだろうとも考えていました。
しかし、実は過去には排除措置命令で事業者団体の解散(公取委勧告審決昭和48年10月18日酢酸エチル協会事件)や営業責任者の配置転換(公取委勧告審決平成17年11月18日橋梁談合事件)を行ったケースもあるのです。
もっとも、これらは全て排除措置命令に審判という裁判類似の手続きが用いられていた時代のものであり、手続き保障を簡略化した現在では、そこまで強い手段をとるのは「相当性に欠く」とも考えられていて、約20年弱使われなくなっています。
ただ、後述するような「減免制度」の存在など、そもそも違反した企業が任意に協力する端緒もたくさん設けられており、本ドラマほど執拗(しつよう)な妨害行動に出る企業自体が珍しいため、そこまでする必要がなくなっているだけとも考えると、本作品ではより強い排除措置命令として、天沢雲海の経営からの完全排除などにも踏み込む余地があったように思います。
無理に、刑事事件の話を差し込んで、公取委の仕事ではない解決をさせるくらいなら、もっと実務の限界に挑戦しても良かったのではないでしょうか。
2. カルテルは裏切りのサーカス ~課徴金減免制度~
本ドラマでは全く説明がありませんでしたが、独禁法ならではの制度として、「リニエンシー」というものがあります。違反行為をやっても、素早く裏切って違反の調査立証に貢献すれば、制裁金を科さないであげる制度です。独禁法特有の、いわば「司法取引的なもの」です。複雑かつ密談も多い事件の全容を暴くのに必要であり、また、違反行為を無くすのが第1目標である競争当局らしいやり方でもあります。
このリニエンシーの面白さを伝えられる事例があります。
2016年12月12日、欧州連合(EU)にて公表された事件です。サムスンSDI、ソニー、パナソニック、三洋電機が2004年から2007年にかけて、リチウムイオン電池のカルテルを組み、価格を引き上げました。サムスンが、EU競争当局に違反行為を通報した結果、サムスンのみが課徴金を免れ、日本の3社は1億6600万ユーロの課徴金を課されました。なお、このカルテルで主体的な役割を担っていたのはサムスンでした。
一番悪かったやつでも、ちゃんとチクれば、罰を免れられるというわけです。それだけ、リニエンシーは大きな効果を得られるため企業にとって重要な選択ですし、競争当局にとっても違反を突き止めるのに裏切り者は重要ということです。
日本でも当然、この課徴金減免制度は存在します。しかも、2020年の独禁法改正は、この課徴金と減免制度に関するところが重要でした。元々、調査開始前に、1番最初にチクった企業は100%の減免が得られる制度はあったのですが、出遅れた企業へのうまみは少な目という問題が、日本の制度にはありました。
そこで今回の法改正では、出遅れた企業であっても調査への協力具合に応じて課徴金の減額が追加で得られるようになったのです。
つまり、企業の合理的な選択としては、法改正以前以上に、バレたらしっかり協力して課徴金の減額をとるというのが重要な戦略になっています。小池栄子の色気にほだされたかに見えた禿(はげ)オヤジも、実は社長としてはすごく企業の利益になる行動を取っていたんですね。そして、わざわざ毒事件などを起こさずとも、きっちりメリットベースで誘いをかけることにより、入院している社長を引き込むこともできたのです。
3. 「家栽の人」としても突っ込みたいところが・・・
最後に、悪徳社長にそそのかされた女子高生が家裁で「保護処分」で済んだという話がサラッと出ていました。
私、ここもめっちゃ食いつきました。
なぜなら、「保護処分」というのは、少年院も含むからです。殺人未遂は重い事件であり原則「逆送」として大人の裁判になることを考えると、家裁での取り扱いになるだけでも良いのは間違いないのですが、「保護処分」だけで良かったとは言えないと思います。
せっかく公取委なのに、その手段は生かしきれておらず、サラッと出てきた刑事少年分野も気になるところがあり、今回は、私はちょっとモヤっとした気分で視聴を終えました。
「公取委はもう少し強いし巧みですよ」と指摘して今回は終えようと思います。
- こちらに掲載されている情報は、2022年08月04日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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