2023年「不祥事」ランキング1位は? 「法律的な話題多かった」弁護士が振り返る10大“ワースト”ニュース

弁護士JP編集部

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2023年「不祥事」ランキング1位は? 「法律的な話題多かった」弁護士が振り返る10大“ワースト”ニュース
性加害報道後初の記者会見は、4時間を越える長丁場となった(撮影:中原慶一)

ビッグモーターの保険金不正請求および街路樹問題、旧ジャニーズ事務所の性加害問題、宝塚歌劇団の長時間労働およびパワハラ問題など、2023年は組織のあり方そのものを揺るがすような不祥事が次々と発生した。

企業法務に詳しい杉山大介弁護士は「法律的な話題も多い年だった」と振り返る。編集部では杉山弁護士に、印象に残った不祥事を1位〜10位までランキング化してもらった。

ランキングを見ると、こんなにも多くの不祥事がわずか1年の間に起きたのかと、改めて驚くかもしれない。

10位:老舗旅館「大丸別荘」大浴場の湯を“年2回”しか交換せず

福岡県筑紫野市の二日市温泉にある老舗旅館が、県の条例で本来は週に1回以上すべての湯を入れ替えなければならないところ、年に2回の休館日にしか交換していなかった。さらには消毒用の塩素も注入しておらず、基準値を最大3700倍上回るレジオネラ菌が検出されたとして22年12月に県から改善指導を受けていたことが発覚し、旅館運営会社の社長が2月28日に謝罪会見を開いた。

杉山弁護士:温泉に行っては成分などの分析表を確認して記録を取る温泉好きとしては、非常に気になったニュースでした。分析表とかを見ると、結構年月がたっていて、今改めて検査をしても安全を確認できるかはわからないことも多いです。つまり、消費者が温泉を健康的に使うには、宿の人を信じるしかないんですよね。

今年、私が行った秋田の玉川温泉なんかはph値がかなり低い強酸性の温泉水で、文字通り“体が溶けるような成分”になっており、さすがにここまでいくとレジオネラ属は生息できない気もします。しかし、厚労省は基準以下のphでも生息しないとする確実な証拠はないとも示しており、衛生面への正しい警戒意識はやはり必要でしょうね。

菌を吸い込むと肺炎などの「レジオネラ症」を引き起こし、重症化や死亡のリスクも。大阪健康安全基盤研究所ホームページより(http://www.iph.osaka.jp/s012/050/010/030/050/20181121153857.html)

9位:埼玉県営プールの「水着撮影会」巡る騒動

6月に県営プールで開催予定だった水着撮影会に対し、施設を管理する県公園緑地協会が明確なルールがないまま一律で中止要請した騒動。協会は「肌の露出が多い水着の着用を認めないといった開催の許可条件に沿っていない」などとしていたものの、実際に許可条件が定められていたのは一部の施設のみだったことが明らかになった。

杉山弁護士:表現の自由を巡る問題の中では、私が強く意識すべきと思った事件です。普段、「表現の自由」というトピックで語られ、あるいは「キャンセルカルチャー」などという言葉で取り上げられるトピックの大半は、私からすると大して問題ではありません。それどころか、批判という表現のみを畏縮させようという一部の動きには反感を抱いています。

そのような中、本件は、間違いなく表現の自由が問題でした。公の施設、すでに利用が認められて具体的になった権利、ただの批判ではなく公的な強制力で表現の機会を奪いうる立場など、普段の批判による自粛との違いが出ていて、この手の問題を考える上では意識すべきニュースだと思います。

8位:プロ野球楽天・安樂智大投手による「ハラスメント行為」

東北楽天ゴールデンイーグルスの投手が複数の若手選手にハラスメント行為をしていた。その内容は、ロッカールームで若手選手を逆立ちにさせ、下着をずらして下半身を露出させるといった陰湿なもの。球団社長は11月30日に記者会見を開いて謝罪するとともに、同投手を自由契約にすると明らかにした。

杉山弁護士:この後で出てくる事案にも言えますが、どうしてそこまでやって行けると思ったのかが疑問です。しかも、うそをついてごまかしたり、密室を利用して行ったりと、中途半端に悪知恵だけは回しており、ただの悪しき昭和文化、体育会文化とも言えないところが、非常にいやらしく感じました。

当人がここまで慢心するまでには、これが許されてきたという成功体験が蓄積されているはずです。このような成功体験の積み重ねが、常に大きな問題や構造的腐敗をもたらすものであるため、スターとしての地位を失うような大きな問題に至る前に、正しくつまづく機会がなかったのが良くないと思います。

ハラスメント行為がチームのパフォーマンスに影響を及ぼしたことは想像に難くない。ファンをも裏切る結果となった(撮影:弁護士JP編集部)

7位:宝塚歌劇団「劇団員の自死報道」受けて記者会見

宙組の娘役だった25歳の劇団員が、9月に自宅マンションで自ら命を絶った事件をきっかけに、その背景にあったとされる長時間労働の実態やパワハラ・いじめ問題が顕在化した。劇団は外部弁護士による調査チームを設置して調査を進め、11月14日に記者会見を開いて報告書の内容を公表したものの、遺族側の弁護士は「事実認定も評価も問題が極めて多い」と批判。SNSでも“炎上”した

杉山弁護士:「長時間労働の問題」と「パワハラいじめの問題」とが混在してますね。長時間労働の問題の方が、法的に言えば帰責性(責めに帰すべき事由)は認められやすいところで、こちらは早速劇団でも公演数を減らす形で対応しています。宝塚は、同じ人が同じ公演を5回も10回も、誇張表現なく見て、しかもそれでもチケットからあぶれる人が出てしまうことから、公演数を増やすほどに売り上げは大きくなり、構造的に過労を求めやすい環境にはあったと思います。

それでも5組を回すため、隙間は比較的作りやすいのかとも思いましたが、練習時間などを加味すると、まだまだタイトだったようですね。私は現在、星組が好きなのですが、この1年半くらい見られていません。それでも、今公演数が減っていることは、必要なことだと受け入れようと思います。

6位:ビッグモーターの不正請求、街路樹問題など

数年前から内部通報やマスコミ報道などで指摘されてきた損害保険の水増し請求問題を巡り、7月25日に兼重宏行社長(当時)らが記者会見を開いた。この記者会見は、社長が社員に責任を押し付けるような言動をしたことなどから、多くのメディアやSNSユーザーが“史上最悪”と評価。保険金の不正請求のほかにも、社長の長男である副社長(当時)が社員に送ったという「死刑死刑死刑死刑死刑」などのLINEメッセージや、販売店に並ぶ車を見えやすくするよう故意に街路樹を枯れさせていた問題など、不祥事が続々と明るみに出た。

杉山弁護士:タガが外れるとはこのことを言うのでしょうね。ビッグモーターも、ここまで悪しざまな行為を繰り返すほどの切迫した事情というのはなかったと思うんですよね。結局のところ、そもそも問題だという意識すらなくなっていた、規範意識が鈍麻(どんま)していたということなのかと。私が弁護士として気になるのは、どうもこの会社にも、とある著名な弁護士事務所が顧問先としていたらしいということです。対依頼者の関係ではいろいろな背景事情もあるとは承知していますが、私は目の前でこういう行為が行われてなお、意見できないような仕事はしたくないですし、それを言って壊れる関係なら「辞任辞任辞任辞任辞任」です。

あまりに多くの問題が露見したことから「不正のデパート」とも評された(撮影:榎園哲也)

5位:日大アメフト部「薬物事件」

日本大学アメリカンフットボール部の部員が7月、寮で違法薬物を所持したとして逮捕されたことを皮切りに、他の部員2人も逮捕され、1人が書類送検された。一連の薬物事件を巡り、学長と副学長の辞任が決定しているほか(辞任時期は24年3月)、部を一度廃止し、来春に新たな部を創設する方針となっている。

杉山弁護士:使用罪も創設されて施行を待つ大麻ですが、本当に広くまん延していると思います。私、事件に触れる中で、ほかにも名前が知られている大学での取引が行われていることも耳にしています。大麻の効能を正確に理解すると、確かに酒やタバコと比して特段の悪質さはないことからも、余計に「ダメゼッタイ」的なワードでは防げないのだろうと思っています。現在の、違法なものへのアクセス手段がネットにより容易になった社会では、ダメゼッタイで近づかせないようにするコントロールはうまく行きません。むしろ等身大の効果を理解し、変に使用した時に「この程度か」という安心感を持ってしまわないようにするのも大事です。

4位:ジャニーズ事務所「性加害問題」

イギリスの公共放送「BBC」が3月に故・ジャニー喜多川氏による所属タレントへの性加害問題について報道したことをきっかけに、元所属タレントらによる被害の告発が相次いだ。長年この問題を黙殺し続けてきたメディアも報道しはじめたことを受け、ジャニーズ事務所は9月、10月に記者会見を実施。旧ジャニーズ事務所は社名を「スマイル・アップ」と変えて事業内容を被害者救済に特化し、所属タレントのマネジメントは新会社「スタートエンターテイメント」で行われることとなった。

杉山弁護士:過去に裁判まで行われているわけですから、事実としてはもう顕出されていた話が、ようやく死後に問題化される。しかも海外報道が契機でというのが、なんとも嫌な空気でしたね。なお、ジャニーズの調査委員会や記者会見で出てくる弁護士を見ると、顧問事務所を起点としたヤメ検(元検事)ネットワークの存在を強く感じました。あえて世間の方向と反対のことを言いますが、刑事事件に関わるものとしては、誰が訴えてももっともらしく聞こえる場面だからこそ、本当にすべての被害申告が事実なのかを検証することまで妨げられてはならないと思いますよ。

時に涙を浮かべながら記者会見に臨んだ藤島ジュリー景子前社長(撮影:中原慶一)

3位:岸田首相の元秘書官・荒井勝喜氏が「同性婚」差別発言で更迭

岸田文雄首相の秘書官だった荒井氏が2月3日、同性婚について記者団に対し「(同性婚の人を)見るのも嫌だ」「隣に住んでいるのも嫌だ」「同性婚を導入したら国を捨てる人もいると思う」などと発言。同日中に撤回したが、事態を重く見た首相は翌日に更迭した。なお荒井氏は7月4日付けで大臣官房審議官に“スピード復帰”している。

杉山弁護士:今年はLGBTがらみのニュースも多かったです。T(トランス)の立場に関係した最高裁判決も出ましたね。トランス関係の話題は、女性の立場の前には他者の人権など意にも介さない一部フェミニストと宗教右派が同じ立ち位置になるため、非常にデマや攻撃的な世論誘導が起きやすいと感じています。この手の先例や法令ができた時にいつも噴出する「女子トイレに女装男が入ってくるぞー」的な叫び声には気を付けるべきです。今年の最高裁判決も、そんなことを認めたものではありません。

2位:「Colabo」vs「暇空茜」

東京都の事業を受託して、虐待や性暴力を受けた女性を支援する一般社団法人「Colabo」の会計報告に不正があったなどとして、インフルエンサーの暇空茜氏が住民監査請求を行った。都監査委員は1月、一部の不当な点があると認めたものの、請求の大半は退けられる結果となった。暇空茜氏はこれを不服として住民訴訟を提起しているほか、Colaboと暇空茜氏による双方への損害賠償請求訴訟や、Colaboへの誹謗中傷問題などに関するNHKの取材メモが暇空茜氏へ流出するなど、事態は混迷を極めている。

杉山弁護士:この話題で、私が正当性を辛うじて認められたのは「監査請求をした」という点のみで、後は本来、ネットの与太(よた)話のひとつにすぎないはずでした。ところが、それを社会問題としてとらえるべき周辺環境がそろってしまった。特に名誉毀損訴訟の機能不全は、法律家の観点からも深刻です。いくら損害賠償を行っても、それ以上の収益化に成功している場合、何ら抑止力にはなりません。

NHKですら内部に賛同者を抱えて取材メモが漏えいするという問題が発生し、報道機関の根幹にもダメージが生じました。このような事象に対応できないようであれば、日本の司法制度は法治を維持できなくなっていると言えます。長年、週刊誌などを巡る名誉毀損訴訟における損害賠償機能の不全、利益の吐き出し機能の必要性などが指摘されてきながら、放置してきたツケだと思います。

1位:自民党派閥の「政治資金パーティー」問題

自民党最大派閥の清和政策研究会(安部派)で、松野博一官房長官(当時)をはじめとする大半の議員がキックバックを受けたのにもかかわらず、政治資金収支報告書に記載しなかった疑いが持たれている問題で、4閣僚が交代する事態に発展した。また12月19日には、東京地検特捜部が「政治資金規正法違反」の疑いで清和政策研究会(安部派)と志帥会(二階派)の強制捜査をしている。

杉山弁護士:自民党と言いますか、やっぱり圧倒的に清和会(安部派)の問題ですね。私のようなミスをしてはダメな側が言うのもあれですが、細かい収支の記載などは漏れが生じても人間的には理解ができてしまうところがあります。それくらいに、手続き的正確さを期するのは難しいところがあります。だからこそ、不記載も一定の範囲では立件まではしていないところがあるわけです。ただ、それにたかをくくって「記載しなくて良い」「キックバックによる裏金を作って良い」とまで認識するのは、タガが外れていると思います。

私は、今回の件でも、過去の政権と異なり法務省との「折衝」を積極的に行わない岸田首相はまだ誠実だと思いますよ。不正を是とした人間を支持し、悪質な隠蔽(いんぺい)工作などに走らなかったからこそ批判しやすくなる対象についてはどんどん追及するという日本の有権者の政治的姿勢は、不正を積極的に行い強権的に支配した方が得であるという政治家側の意識を生んで良くないと思います。もう亡くなっていますが、強権を用いて問題をわかりにくくするものにこそ、より強い批判と監視の視線が向けられなければなりません。

7月には安倍晋三元首相の一周忌法要が執り行われた(撮影:榎園哲哉)
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