“ぬめぬめ”チェックでリスク回避!? 「レジオネラ菌」が潜む“危ない温泉”の見分け方

弁護士JP編集部

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“ぬめぬめ”チェックでリスク回避!? 「レジオネラ菌」が潜む“危ない温泉”の見分け方
一見清潔な温泉風呂にもレジオネラ属菌が潜んでいる可能性も…(※写真はイメージです 8x10/PIXTA)

今年2月、「温泉」をめぐる衝撃のニュースが飛び込んできた。かつて昭和天皇も宿泊した福岡の老舗高級旅館で基準値を最大3700倍超える「レジオネラ属菌」が検出されたというのだ。

エアロゾル感染によって肺炎などの「レジオネラ症」を引き起こすレジオネラ属菌は、入浴施設やプール、家庭用のお風呂、加湿器、冷却塔などで発生することが多い。菌を吸い込んだ誰しもが発症するわけではないが、基礎疾患を有している人や高齢者、免疫機能が低い新生児、そして大酒飲み、重喫煙者などは重症化のリスクがある。全体での死亡率は5~10% と言われている。

大阪健康安全基盤研究所ホームページ(http://www.iph.osaka.jp/s012/050/010/030/050/20181121153857.html)より

これまでも入浴施設で基準値を超えるレジオネラ属菌が発見されたことはあり、死亡者を出したケースもあった。今回の事件では「基準値の最大3700倍」というにわかには信じがたい数値が多くの人の関心を引き、「老舗高級旅館」への信頼が揺らいだ。

ゴールデンウイークを前に、温泉旅行を予約していた場合、今回の騒動によって不安を感じる人もいるだろう。見た目や匂いではわからない“菌”に対し、入浴客はどのような対応が有効なのか?

対策の基本は“清掃”

「清掃が徹底され、適切に消毒されているところはまず問題ありません」

そう説明するのは、入浴施設の衛生管理を普及啓発する「NPO法人 入浴施設衛生管理推進協議会」の中島有二氏だ。

温泉のレジオネラ属菌をめぐっては、2002年に宮崎県の公衆浴場で起きた集団感染事故(295名感染、7人死亡)を機に、厚生労働省が各都道府県の『公衆浴場法施行条例』や『旅館業法施行条例』にレジオネラ症発生防止対策を追加するよう通知を出すなど、全国の入浴施設で本格的にレジオネラ属菌への対策が講じられるようになった。

対策の基本はなんといっても“清掃”だと中島氏は力をこめる。

今回事件が起きた福岡の旅館では、お湯を入れ替える「換水」作業など、条例で義務付けられている清掃・消毒の頻度をこなしていなかった。

「レジオネラ属菌というのは、大腸菌のように水中で増える菌ではなく、浴壁や床、配管の中などにある“ぬめぬめ”の『バイオフィルム』の中で、アメーバに寄生し増殖していきます。

(弁護士JP編集部作成)

バイオフィルムの中は塩素から守られていますし、バイオフィルムから飛び出したアメーバも水中の残留塩素では死滅しません。つまり“ぬめぬめ”がある状態で消毒をしていても意味がないのです」(中島氏)

「塩素」が効かない温泉も

温泉には毎日換水し清掃を行う「毎日換水式」と、ろ過循環装置を設置してお湯をきれいに保つ「循環式」がある。もちろん「循環式」も週に1回以上の換水と清掃・消毒が義務付けられている。

前述した通り、清掃ができていなければバイオフィルムが発生し、レジオネラ属菌が増殖する可能性はどちらにもある。ただ、どちらかと言えば「循環式」の方がレジオネラ属菌の発生リスクが高いという。その理由について中島氏は次のように説明する。

「『循環式』には浴槽を洗うだけではダメで、『ろ過器』や『配管』もこまめに清掃しなければいけない特有の大変さがあります。各都道府県条例では、ろ過器は1週間に1回以上、循環配管も1年に1回以上の消毒を実施するように定められています。バイオフィルムができてアメーバとレジオネラ属菌が増殖するには日にちが必要です。つまり、清掃と消毒が適切に行われていれば菌がそこまで増えることはありません」

中島氏が繰り返す「適切な消毒」というキーワードだが、これにも意味があるという。

「6~7割の条例には『塩素で消毒』と書かれていますが、実は温泉の泉質によっては、塩素が正しく効かないところもあります。もちろん条例には『塩素が効かない場合は、他の方法を講じること』と書いてありますが、『塩素をいれているから(きれい)』と誤解してしまう人がいるかもしれない。『適切な消毒』の方が正しいのではないかと思っています」(同上)

“危ない温泉”と“安心な温泉”チェックポイント

清掃や消毒、検査の回数は条例によって定められており、それが正しい方法で行われていれば基本的に温泉は安全ということになる。しかし福岡のケースのように「決められた清掃を行っていなかった」ことや「検査の数値をごまかしていた」ことが原因の事件があれば、入浴客は温泉の運営に不安を感じてしまうだろう。

温泉の中に潜む菌について、何かチェックする術はあるのだろうか?

「私は浴槽に入ったら、嫌みったらしく浴壁の縁や、湯が出るところなどを触って“ぬめぬめ”していないかチェックしています。岩風呂もごつごつと平面じゃないので奥の方の清掃ができているか触ってみます。板を貼り付けているような浴槽では、本来の浴槽と板の隙間がデッドポイントになっていることもあります。板を押すとぷくぷくするようなところは要注意ですね」(中島氏)

さらに、このような簡易なチェックの他、一般の入浴客が行える安全な入浴方法や、より安心できる温泉施設の傾向についても、中島氏は次のように話す。

「レジオネラ症はエアロゾル感染なので、入浴時はしぶきをあげないように静かに入るといいでしょう。それとジェットバスには近づかない。これだけでもリスクは抑えられると思います。また、レジオネラ属菌は60℃以上のお湯や、酸性が強い泉質では生きられないと言われていますので、源泉が熱くて酸性の温泉などは比較的安心といえますね」

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