繰り返されるトヨタ系列不正問題に見る “病” の根深さ… 日本的企業が陥る「機能不全」の根本原因とは

角渕 渉

角渕 渉

繰り返されるトヨタ系列不正問題に見る “病” の根深さ… 日本的企業が陥る「機能不全」の根本原因とは
出荷停止が続く中、再興への道を模索している(ダイハツHPより:https://www.daihatsu.co.jp/top.htm)

2022年に公表された日野自動車のエンジンの排ガス処理装置に関わる試験における認証不正に始まり、昨年末のダイハツ工業、今年に入ってからの豊田自動織機と、トヨタ系列の不祥事が立て続けに公表された。日本を代表する名門企業でいったい何が起きているのか…。(角渕 渉)

セクショナリズム、タイト過ぎる納期の末路

日野自動車では、「みんなでクルマをつくっていない」という言葉に象徴されるセクショナリズムが指摘されている。各部署が自分の役割を果たすことに懸命で、他を振り返る余裕がなく、孤立し追い込まれた部署は不正を行うしかなかったのだ。

ダイハツ工業では、タイトすぎる納期にもかかわらず管理職が現場を支援できなかったことが指摘されている。たとえば進捗の大幅遅延で上司に相談すると、「で?」という返事しか返ってこなかったという。コーチング手法の誤った用い方だ。

このような大きな相談で、「で、君はその問題をどのように解決するつもりかね?」と質問で返されても部下は返答のしようがない。八方ふさがりで思いつめているからこそ、上司に相談しているのだ。結果、部下は「相談しても無駄」とあきらめ、不正を選択してしまった…。

豊田自動織機についても類似の状況がみられ、管理職の機能不全が指摘されている。

“トヨタ”でも問題が生じる製造業の病の根深さ

「問題は発生したのと同じ次元では解決できない」(アインシュタイン)

この原因を現場のコンプライアンス意識の低さやリスク感度の鈍さに求めるのは酷である。では真の原因はどこにあるのか。

この3社に対する第三者委員会報告書では管理の仕組みや教育不足など、多岐にわたって問題原因が指摘されており、それぞれ頷けるものばかりである。

ではそれらの問題を個々につぶしていけば、不正の再発は防げるのだろうか。考えてみてほしい。今回の一連の事件を起こしたのはトヨタ系列である。高度な管理システムの構築では、世界的に定評ある企業群なのだ。

それでも問題が生じてしまった…。ということは、より根本的な部分に原因を求めるしかない。改めてアインシュタインが残した言葉を改めて噛みしめるべきだろう。

「任務重視型」をいまだ引きずる日本の組織

元防衛大学校教官の関口高史氏によると軍隊には『環境重視型』と『任務重視型』の二種類があるという。前者はそのときどきの環境に応じてリソース確保を行い、それが出来ないときは任務の内容を柔軟に変更する。それに対して後者は最初に任務ありきで、環境変化があっても「万難を排し、任務を遂行せよ」となる。

旧日本陸軍は後者であり、悪名高きインパール作戦のように、「弾薬も食料も送れない。兵力は1/10まで減ったかもしれないが、それでも天長節(天皇誕生日)までにインパールを占領せよ」といった上級司令部からの命令がまかり通る。「ちょっと何言ってるのかわからない」である。

「無い袖は振れない」というリソースの制約もあるが、日本人の命令に対する従順さへの甘えもあるだろう。

値引き、厳しい納期、人材不足など多重苦で成果だけは強く求められる理不尽

これは戦争時の話だが、現代の日本企業でも同じことが言える。最近、管理職向けコンプライアンス研修の受講者から、「そんなこと、中間管理職に言われてもね」という冷めた声が聞かれることが増えてきた。これが必ずしも管理職の職責放棄とはいえない点が問題である。

値引きを求められる、納期と品質要求は厳しくなる、必要な人材は与えられず、逆に育てた部下をよそに引き抜かれるという多重苦の状況で、成果実現(任務達成)だけが強く求められる。

経営陣に訴えても、「そこを何とかするのが君の仕事だ。期待してるぞ」という激励の名を借りた責任転嫁が返ってくるばかり。管理職の機能不全の背景に経営陣の機能不全が存在するのである。

これで不正の誘惑に負けなかった多くの管理職こそ賞賛されるべきだ。まさに旧陸軍の悪弊が、形を変えて現代の日本企業にも綿々と受け継がれているのである。

もはや経営陣が腹をくくって判断するしかない末期症状

いままさに日本企業は任務重視型から環境重視型へ、経営と組織運営の方向転換を迫られている。

トヨタ系列の3社の報告書に共通するのは、経営陣が現場の事情を理解せず、リソース不足を無視して当初の任務達成だけを強く求めているとの指摘である。

開発期間の短縮が必要なら、そのためのリソースを追加投入しなければならない。そのリソースを新たに調達できないなら他の開発案件から引き抜くしかない。 だとすれば一部の開発案件を中止や延期するしかないが、この判断は経営陣にしかできない。経営陣が腹をくくるべきときに「現場で何とかしろ」で済ませるから問題が起きる。難しい判断から逃げるような者を責任ある地位につけてはならない。

ここまで読んできて、「まさに当社の話を聞いているようだ」と感じている読者も多いことだろう。現場レベルの内部統制ももちろん重要だが、それだけでいまのコンプライアンス問題は防げない。経営陣が腹をくくる。それが本質的な問題解決への処方箋であろう。


角渕 渉
経営コンサルタント・産業カウンセラー/アクアナレッジファクトリ株式会社代表。
ソフトウェアハウス、国内系コンサル会社を経て、大手監査法人グループのKPMG あずさビジネススクールで講師をつとめる。多数の企業コンサルで培っノウハウ・知見を携え2007 年にアクアナレッジファクトリを設立。「確かな基礎力に裏打ちされた『変化に柔軟に適応できる人材』の育成」をテーマに、各種ビジネススキル教育、マネジメント教育の研修講師として活躍中。

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