ジャニー氏「性加害」 裁判所が“真実性”認定も…「逮捕」へ至らなかった“ある理由”

弁護士JP編集部

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ジャニー氏「性加害」 裁判所が“真実性”認定も…「逮捕」へ至らなかった“ある理由”
“合宿所”と呼ばれるジャニー喜多川氏の自宅は六本木「アークヒルズ」にあったと『週刊文春』は報道している(弁護士JP編集部)

イギリスの公共放送BBCが3月に放送した、ジャニーズ事務所創業者・ジャニー喜多川氏による少年たちへの「性的虐待」に関するドキュメンタリー番組『Predator:The Secret Scandal of J‐Pop(J‐POPの捕食者 秘められたスキャンダル)』が波紋を呼んでいる。

13日には、NHKが“沈黙”を破り、前日に「日本外国特派員協会」で元ジャニーズのカウアン・オカモト氏(26)が記者会見を開いたことや、ジャニー氏から受けた被害体験を語ったことなどを報じて話題となった。

ジャニー氏による「性的虐待」をメディアが取り上げたのは今回が初めてではなく、1999年にも『週刊文春』が、被害を受けた元ジュニアらの告発とともに大々的なキャンペーン報道を展開した。

これに対し、ジャニー氏とジャニーズ事務所は名誉毀損訴訟を提起したものの、東京高裁は2002年に「性加害」の真実性を認める判決を言い渡した(ジャニー氏と事務所側はこれを不服とし上告したものの、最高裁が受理しなかったため2004年に高裁判決が確定)。

しかし、少年たちへの「性加害」の真実性が裁判で認められたのにもかかわらず、ジャニー氏は刑事的責任に問われることなく、2019年6月に87歳で他界している。

“違法性”の根拠となる法律

この度のBBCドキュメンタリーの話題をもってしても、大手テレビ局や新聞社はいまだに“だんまり”を決め込んでいるが、BBCや文春の取材に対して、あまりに生々しい被害の実態を告白している元ジュニアは決して少なくない。これらの報道から察するに、ジャニー氏が少年たちにした行為の“違法性”の根拠となりそうな法令は多々ある。

  • 強制わいせつ(刑法第176条)
    13歳以上の者に対し、暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
  • 強制性交等(刑法第177条)
    13歳以上の者に対し、暴行または脅迫を用いて性交、肛門性交または口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。
  • 準強制わいせつおよび準強制性交等(刑法第178条)
    人の心神喪失もしくは抗拒不能に乗じ、または心神を喪失させ、もしくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第176条の例による。
    2 人の心神喪失もしくは抗拒不能に乗じ、または心神を喪失させ、もしくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。

その他、「児童福祉法」「児童買春・児童ポルノ禁止法」「青少年保護育成条例」に抵触する可能性も否定できなさそうだ。

「少年たちが訴え出て物証を提出していれば…」

ジャニー氏およびジャニーズ事務所と文春との名誉毀損訴訟では、被害を受けた少年2人が証言台に立ち、被害体験を語った。彼らの証言について、東京地裁は「セクハラ行為を受けた日時について、具体的かつ明確には述べていない」などとして「高度の信用性を認めがたい」と判断したが、東京高裁は一転して「少年らが揃って虚偽の供述をする動機も認められない」と、少年らの証言が信用できるものであると認めた。

裁判で少年たちの証言が認められたのにもかかわらず、ジャニー氏はなぜ、刑事的責任に問われなかったのだろうか。みどり共同法律事務所の穂積剛弁護士は「物証の問題」を指摘する。

「刑事事件の場合、当事者の供述だけでは不十分で、たとえば性犯罪ならば『当該人物の精液が採取された』など、物理的な証拠が必要です。

東京高裁の判決文には『(ジャニー氏の)セクハラ行為に関し、少年らやその保護者から捜査機関に対する告訴等がされた形跡もなく、捜査機関による捜査が開始された状況もうかがえない』と記載があります。

『強制わいせつ』『強制性交等』『準強制わいせつおよび準強制性交等』は2017年まで親告罪(被害を受けた人が告訴しなければ起訴されない罪)でしたが、それ以前から非親告罪だった『児童福祉法違反』や『青少年保護育成条例違反』で立件しようとしたとしても、やはり物証がない以上は難しいでしょう。

もし被害に遭った直後に少年たちが訴え出て物証を提出していれば、捜査機関も積極的に動いて、ジャニー氏の刑事的責任を問うことになっていたかもしれません」(穂積弁護士)

文春の記事によれば、1999年のキャンペーン報道で取材に応じたすべての少年たちが、最後に一言「親には絶対に言えません」と話したという。ジャニーズのタレントたちは「母や姉の応募」がきっかけで所属するケースも多いと聞くが、「家族を悲しませたくない」との思いから、被害を告白できなかった少年もいるのではないだろうか。

穂積弁護士は「物的証拠」の重要性を指摘しながらも、「騒動になった当時に捜査機関が動こうと思えば動くことはできたのではないか」と疑問も持つ。

「日本外国特派員協会」で記者会見を開いたカウアン・オカモト氏は現在26歳。彼が初めて被害を受けたという中学3年生の頃、ジャニー氏による性加害の「真実性」が民事裁判で認められてから、すでに10年ほどが経過していた。

取材協力弁護士

穂積 剛 弁護士

穂積 剛 弁護士

所属: みどり共同法律事務所

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