グーグルマップ“悪質”口コミでゆがむ「本当にいい店舗」探し…被害に苦しむ医師ら4月に集団訴訟も、グーグルの見解は?

弁護士JP編集部

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グーグルマップ“悪質”口コミでゆがむ「本当にいい店舗」探し…被害に苦しむ医師ら4月に集団訴訟も、グーグルの見解は?
口コミの影響力が肥大化し、経営的ダメージを受ける店舗やサービスも

飲食店など利用者のクチコミ評価が広く使われているグーグルマップを提供する米Google本社に対し、日本の医師や歯科医師ら90人が4月をめどに損害賠償を求め、東京地裁に集団提訴する準備を進めている。そのひとりの医師は取材に対し、「裁判を見据えているため、いまはなにも言えませんが、クチコミで実害が出ているのは事実です」と答えた。

グーグルマップは米グーグルが運営する地図アプリ。ルート検索以外にもさまざまな機能を持ち、地図上に表示される店舗などの評価を、消費者が誰でも5段階でランク付けすることもでき、コメントも書き込める。居場所近くの飲食店を探す際に参考にする人も多く、「3.7」や「4.4」などのスコアとともに、利用者の感想が並ぶ。

当然、書き込みは良い話ばかりではなく、「店員の対応が悪かった」などの悪評もある。こうした書き込みと低スコアがつけられると、店選びに大きな影響が及ぶ。的確な評価なら仕方ないが、中傷のような投稿や、虚偽の内容の書き込みも見受けられ、以前から問題視されてきた。

当初、口コミレビューはグルメ系などサービス特化型サイトが優勢だったが、グーグルマップの浸透で徐々に影響力を増し、いまではその書き込み内容が、店舗運営等に大きな影響を持つまでに肥大化している。

閉店に追い込まれたラーメン店も

過去には、千葉県市川市でラーメン店を経営していた男性が「スープにゴキブリが入っていた」と、心当たりのないコメントを書き込まれ、グーグルに削除を要求。ところが対応がなく、「悪評を削除します」という代行業者を見つけて依頼。25万円支払ったものの、削除までに4か月かかったという。男性は結局、店の評価が平均以下の「2.7」で集客もままならず、閉業へ追い込まれた。

「レビューの数はたった4人でしたが、うち2つは同一人物と思われるアカウントで、1を付けられました。他の人が4と5の高評価でも平均すれば低くなってしまう」とその男性はグーグルマップの仕組みへの不満を吐き出した。

集団提訴に踏み切る医師らもこれと同様の悩みを抱えていたと思われる。冒頭で取材に応じた医師の病院のスコアは「2.8」で、やはり低い。そこで最低となる「1」をつけている人のレビューを確認すると、「医師が患者の話を聞いていない」「看護師の愛想が悪かった」などの経験を細かく記載しているものが多く、レビューを見た人には「個人の感想としては、実際にそういう体験があったのだろう」という印象になる。

なかには医師の個人名を出し、「セクハラまがいの診察があった」と書かれているものもあり、それが事実ならたしかに問題だ。だが、もし虚偽なら病院側にとっては悪質な誹謗中傷であり、営業妨害になり得る事案だろう。

店舗、そしてユーザーにも悪影響のある悪質な口コミ

店舗運営側にすれば、悪質な口コミは経営を揺るがすほどの大ダメージにつながりかねない。一方、グーグルマップで店舗探しをするユーザーにとっても、心ない悪評は検索精度を狂わせる“ゴミ情報”となる。悪い口コミと低い点数を参考に、訪問候補から排除した店が、実は書き込みが虚偽で本当は優良店舗だった――そんなことがあるとすれば、ユーザーはみすみすいい店舗との出会いの機会を奪われることになる。

悪質な書き込みは、経営側にもユーザー側にも負の要素しかないといえるだろう。

感想と誹謗中傷の境目は?

「あくまで感想です」。書き込んだ人がそう言うなら、それ以上どうしようもないのかもしれない。だがそうなると、書き込み内容のどこまでなら感想として許容され、どこからが営業妨害につながりかねない誹謗中傷となるのだろうか…。

「誹謗中傷は、誹謗と中傷の2つの言葉が合わさったものです。誹謗は根拠なく他人を悪く言うこと。中傷は他人を傷つけるという意味です。一方、批判は人の言動などの誤りや欠点を指摘し、正すべきであるとして論じることという意味。根拠があるかないかが大きな違いになります」

こう解説するのは、ネット上の誹謗中傷トラブルに詳しい瀬戸章雅弁護士だ。続けて補足する。

「感想は自分が感じたことを述べること。意見は自分が正しいと思うことを相手に提案すること。そこには相手を傷つける意図はないことが誹謗中傷との違いといえます」

感想か、誹謗中傷か…。ここを争点にすれば、議論が平行線をたどる可能性もあり、得策とはいえないだろう。

訴訟のターゲットをグーグルに定めた理由

だからこそ、集団訴訟にのぞむ医師らは、ターゲットを投稿者ではなく、問題投稿を放置したプラットフォームのグーグルに定めた。今回の集団訴訟には加わっていない都内の精神科医に話を聞くと「私も投稿者より管理する側に問題を感じる」と同調する。

「ウチもグーグルではスコアは『2.9』。悪い病院に見えちゃうでしょ。でも、精神科だと、患者さんが『自分の話を誰にも聞いてもらえない!』と興奮状態にある方も少なくなくて、診断するために冷静になるようお願いしても、怒ったまま出て行かれることも。直後に、『この病院はクソだ!』とか、『私が明日自殺しても平気な医師だ』とか書かれたりします。医師として反論を書くことはできないので、つらいですが、患者のぶつける感情も理解できなくはないんです…」(前出の精神科医)

グーグルはガイドラインを設け、そこに虚偽やハラスメント、ヘイトスピーチなど禁止事項を多数記載している。その通りに投稿が記載されていれば、こうした被害は起こり得ず、いい店舗との出会いを増幅してくれるイメージもわいてくる。だが、実質的にそれらを熟読してから投稿する人がどれだけいるかははなはだ疑問だ。

前出のラーメン店店主も「グーグルは自分で掲げたポリシーを十分に実行できていない。削除まで4か月もかかったら被害の方が大きい」と憤る。店側が返答を掲載することもできるが、炎上リスクがある。病院の場合は、投稿者に心当たりがあっても「医療の守秘義務もあるので飲食店以上に反論しにくい…」(前出の精神科医)と職業的な悩ましさもある。

グーグルは「詐欺的なコンテンツを監視し、発見した場合は迅速な対応をとっている」との見解示す

こうした状況について、グーグルに見解を求めると、広報部から次のような回答があった。

「Google マップのユーザー投稿は、店舗の営業時間の更新や新しくオープンしたビジネスなど、常に変化する世界の中で、人々がより自信を持ってどこに行き、何をすべきかを判断するのに役立っています。Googleのポリシーは、クチコミは実際の体験や情報に基づいていなければならないと明記しており、人と機械を組み合わせて、詐欺的なコンテンツを24時間365日体制で注意深く監視しています。人々を欺こうとする詐欺行為を発見した場合は、コンテンツの削除からアカウントの停止、さらには訴訟まで、迅速な対応をとっています」

「一刻も早い削除が重要」とネット上の誹謗中傷トラブルに詳しい弁護士

瀬戸弁護士がいう。「ネット上で誹謗中傷や悪評で被害が生じたら、一刻も早い削除が重要になります。タイミングによっては永久的に残る可能性もありますから。法人の場合は、書き込み内容を放置すると大きな損害につながる可能性もあります。イメージ低下による経営の悪化や採用難になれば、そのダメージは深刻です」

明らかにおかしな書き込みでもプラットフォームの都合で削除できず、その間に経営が苦境に追い込まれる…。利便性の一方であまりに理不尽でゆがんだ状況を、集団提訴でどこまで修復できるのか。

おりしも日本では、「プロバイダ責任制限法」の改正案が閣議決定され、「情報流通プラットフォーム対処法」(情プラ法)に改められる見通しとなり、書き込みによる被害救済へ大きく動きだしている。絶大な影響力をもつプラットフォームに、集団決起した一撃がどこまで食い込めるのか、成り行きが注目される。

【GOOGLEマップクチコミ被害訴訟の訴状案】

医師らが準備を進める集団提訴の訴状案(http://g.todasogo.jp/?page_id=32より)
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