過労死を弁護士に相談するメリット|労災保険の認定基準も解説
長時間労働や職場でのハラスメントなど職場の問題は心身の健康に大きく関係しています。度を超えた負荷がかかると心身ともにバランスを崩し、「過労死」してしまう可能性もあります。
本コラムでは、家族が過労死してしまった場合に請求できる労災保険や損害賠償について解説します。
1. 過労死で請求できるお金と請求先
実際に過労死が起こってしまった場合、遺族は労災保険や損害賠償を請求することになります。ここでは、過労死の定義や請求できるお金について解説します。
(1)そもそも過労死とは
過労死とは、仕事上で過剰な負荷を受けたことによって疾病を発症し、それが原因で死に至ることです。
「過労死等防止対策推進法第2条」によると、「過労死等」の定義は次のとおりです。
- 業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡
- 業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡
- 死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害
仕事上の負荷には、長時間労働などの身体的なものだけではなく、ハラスメントなどの精神的なものも含まれます。また、死亡に至らなくても過労死の対象となります。
厚生労働省が公表した「令和5年版過労死等防止対策白書」によると、令和4年度に労災認定された脳・心臓疾患は194件、精神疾患は710件といずれも前年を上回る結果となりました。
出典:厚生労働省「令和5年版過労死等防止対策白書」第2章 過労死等の現状」p.44、54こうした疾病の発症が業務によるものか否かを判断する基準として「過労死ライン」があります。発症前1か月の時間外労働が100時間を超える場合、または、発症前2〜6か月平均で月80時間を超える場合、発症との関連性が高いとされています。
ただし、過労死ラインを超えなければ認定がされないというわけではありません。時間外労働が月45時間を超えて長くなればなるほど、疾病発症との関連性が強まるとされています。このほかにも出張の多さや拘束時間の長さが加味されます。
出典:厚生労働省「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」p.3出典:厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定基準の改正概要」
(2)過労死で請求できるのは2種類
残念ながら過労死が発生してしまった場合、遺族は「労災保険による補償」と「会社への損害賠償」を請求できます。
①労災保険による補償
過労死が労働災害だと認められた場合、労災保険による補償が受けられます。補償内容は次のとおりです。
- 遺族(補償)等年金:給付基礎日額の153日分〜245日分(遺族数に応じて変動)
- 遺族特別支給金(一時金):一律300万円
- 遺族特別年金:算定基礎日額の153日分〜245日分(遺族数に応じて変動)
- 遺族(補償)等一時金:給付基礎日額の1000日分の一時金等
- 葬祭料等:31万5000円+給付基礎日額の30日分
②会社への損害賠償請求
労災保険と併せて、会社の責任を問うこともできます。会社に賠償を請求できるのは「死亡逸失利益」「死亡慰謝料」「葬祭費用」などです。なお、請求できる額は個々の事情によって変動します。
- 死亡逸失利益:労働者が死亡しなければ得られたであろう将来の利益(収入)
- 死亡慰謝料:労働者本人と遺族が受けた精神的苦痛に対して支払われる慰謝料
- 葬祭費用:葬儀にかかる費用
2. 過労死の労災認定を受けるための要件
労災保険による補償を受けるには、労働者の死亡が労働災害であることを国に認めてもらう必要があります。
(1)労災認定の対象となる疾病
厚生労働省は労災を認定するにあたって、対象となる疾病を定めています。対象疾病は大きく「脳疾患」「心臓疾患」「精神障害」の3種類に分けられます。
- 脳疾患:脳内出血(脳出血)、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症など
- 心臓疾患:心筋梗塞、狭心症、心停止、重篤な心不全、大動脈解離など
- 精神障害:うつ病、適応障害、急性ストレス反応など
労災の認定には、疾患名、発症時期が考慮されることとなっており、医師の診断書や通院歴が重要な証拠となります。
(2)過労死の労災認定基準
労働者の過労死が労災認定されるには労災認定基準を満たす必要があります。ここでは、脳・心臓疾患と精神障害に分けて解説します。
①脳・心臓疾患の労災認定基準
脳疾患または心臓疾患の労災認定の基準を簡潔にまとめると、以下のようになります。
- 長期間の過重業務:発症前約6か月間において、時間外労働が過労死ラインを超える
- 短期間の過重業務:発症前約1週間において、過度の長時間労働・深夜労働が認められる
- 異常な出来事:発症直前において、強度の身体的・精神的負荷を強いられる
上記いずれかの基準に当てはまるか、もしくは、負荷要因の総合的な判断で業務との関連が認められるかによって判断されます。
出典:厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定 過労死等の労災補償 Ⅰ」p.11②精神障害の労災認定基準
精神障害が労災として認定される基準を簡潔にまとめると、以下のようになります。
- 認定基準の対象である精神障害になった
- 発病前約6か月間で、業務による強い心理的負荷が認められる
- 業務以外の要因による発病ではない
厚生労働省は「多額の損失を発生させるなど仕事上のミスをした」「セクハラを受けた」など、個別の出来事による心理的負荷の強度を3段階で評価し、労災認定の指標としています。
出典:厚生労働省「精神障害の労災認定 過労死等の労災補償 Ⅱ」p.2、53. 会社に対する損害賠償手順と弁護士に相談するメリット
会社に対して過労死の責任を問うためには、事前の準備と法的知識が肝要です。
(1)会社に問える責任とは
会社が適切な管理をせず、労働者を死に至らしめた場合には法的責任を問うことができます。
①安全配慮義務違反
会社は、労働者の生命や身体の安全に配慮する義務があります(労働契約法5条)。会社が労働時間を調整せず、労働者を過労死させた場合などには、安全配慮義務違反として損害賠償請求が可能です。
過去にも、「労働者が恒常的に著しく長時間にわたり業務に従事していることや、その健康状態が悪化していることを認識しながら、その負担を軽減させるための措置を採らなかった過失がある」として会社の安全配慮義務違反を認めた判例があります(最高裁平成12年3月24日第二小法廷判決)。
出典:裁判所「最高裁判所判例集 平成10(オ)217」②不法行為責任
会社が故意・過失によって損害を発生させた場合、不法行為責任を問うことができます。たとえば、会社側が管理体制の不備を知りながら、労働者に異常な長時間勤務を強いていたケースなどが挙げられます。
(2)会社に損害賠償を請求する手順
会社に対して損害賠償をするには、次の手順で進めていきます。
①証拠集め
会社との交渉・裁判を有利に進めるには、いかに有力な証拠を示せるかが肝心です。長時間労働を示す勤務管理表や医師の診断書、通院歴、証言などを集めておく必要があります。
②会社との示談交渉
いきなり裁判に進むのではなく、まずは裁判外での話し合いから始めます。示談交渉で双方が合意できれば、迅速な解決が望めます。
③労働審判または民事調停
当事者同士での話し合いがまとまらなければ、第三者に間に入ってもらいましょう。裁判よりも簡易的な手続きとして労働審判と民事調停があります。労働審判では最終的に裁判所が判断を下しますが、民事調停はあくまで合意を目指す手続きです。
④民事訴訟
上記の方法で解決しない場合は、最終的には民事訴訟を起こして、裁判所に総合的な判断をお願いすることになります。
(3)損害賠償請求を弁護士に相談するメリット
会社への損害賠償請求は争いが長期化してしまうこともあります。専門知識が豊富な弁護士から的確なアドバイスを受けることで、会社との交渉を有利に進められる可能性が高まります。また、交渉から訴訟まで一括して任せられるため、遺族の負担軽減にもつながります。
家族の過労死を会社と争う際には、あらかじめ弁護士に相談してサポートを受けることをおすすめします。
- こちらに掲載されている情報は、2024年05月06日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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三浦 知草 弁護士
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