作業現場で怪我をした場合の責任の所在は? 損害賠償は請求できる?

作業現場で怪我をした場合の責任の所在は? 損害賠償は請求できる?

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

建設現場の作業では、時に予期せぬ災害が起こりえます。その際、怪我を負ってしまった従業員は、いったい誰へどのような責任を問えばよいのでしょうか。

本コラムでは、建設現場で災害が起きた場合の責任や、請求できる損害賠償の内容や方法を解説します。

1. 建設現場で怪我をした際の責任の所在

建設現場は事故などの災害が起きやすく、怪我の危険性が高い職場です。そして、従業員が怪我をしてしまったとき、誰が責任を負うのかが混乱しやすい場所でもあります。というのも、建設現場は一般に下請け、元請け、あるいは発注者など、複数の事業者が関わっており、指揮系統や責任の所在が複雑化していることが少なくないためです。

(1)安全配慮義務と使用者責任

ここで前提として押さえておきたいのが、「安全配慮義務」と「使用者責任」という概念です。これらはそれぞれ、雇用者が従業員に対して負うべき以下の義務・責任を意味します。

  • 安全配慮義務

    従業員が業務で危険な目に遭わないよう安全対策をする義務(労働契約法5条、労働安全衛生法4条)

  • 使用者責任

    業務で従業員が第三者に何らかの損害を与えたとき、雇用者もまた損害賠償責任を負うこと(民法715条)

(2)下請け・元請け・発注者の責任

通常、安全配慮義務や使用者責任は、その従業員を直接雇用している企業が負うものです。そのため、建設現場で下請けの従業員が、下請け企業の安全配慮義務違反で怪我をしたとき、あるいは下請けの従業員が誰かを怪我させてしまったとき、第一にその責任が問われるのは従業員を雇用している下請け企業そのものになります。

ただし、先述のように、建設作業は下請けと元請け、あるいは発注者の複雑な関係の下で成り立っています。たとえば、元請けの指揮下で下請けの従業員が働くことや、元請けが保有・管理する設備を下請けの従業員が使うことは珍しくありません。そして、下請けと元請けがこのような「特別な社会的接触関係」にあるとき、元請け企業にも下請けの従業員に対する安全配慮義務が生じるとされます。

これは発注者も例外ではありません。発注者もまた、受注者やその従業員に対して強い監督権限をもつ特別な社会的接触関係にあると見なされることがあります。

そのため、たとえば元請け企業や発注者が作業現場の危険性に気づきつつもその対策を放置した結果、下請けの従業員が怪我をした場合、その従業員は元請け企業や発注者に対しても安全配慮義務違反で損害賠償責任を問うことが可能です。また、元請けや発注者側の従業員が原因で下請け企業の従業員が怪我をした場合、元請けや発注者の使用者責任が問われることもありえます。

2. 他の従業員の過失で怪我をした場合は?

他の従業員による過失が原因で怪我をした場合は、その従業員に対して「不法行為責任」が問える可能性があります。これは、他者へ過失や故意によって損害を与えた場合に生じる民事上の損害賠償責任です。

(1)不法行為責任の成立要件

不法行為責任は、主に以下の要件を満たす場合に成立します。

①加害者の故意または過失の存在

怪我をさせた従業員が、その危険性を認識しつつその危険性を避けるための行動をしなかった場合や、わざと危険な行為をした場合が該当します。ここには工具や設備の整備を怠るといった「必要な行為をしない」ことも含まれます。

②法律上保護された被害者の権利や利益が侵害されたこと

これは、加害者の行為に違法性があったことを意味します。結果的に怪我をさせてしまった加害者の行為に、生命の危険を避けるためなどの正当な理由があった場合は不法行為にはなりません。

③損害が発生したこと

加害者の行為によって法律上保護されるべき利益が損なわれていなければ、不法行為は成立しません。作業現場での怪我の場合、怪我そのものやそれによって生じた治療費などが損害の具体例です。

④加害者の行為と被害者の損害に因果関係があること

被害者が受けた損害の原因が、加害者の行為によるものと見なせる必要があります。一方的に損害を受けていても、被害者側が原因の一端となる不安全行動をしていた場合などでは成立しないか、被害者にも責任があるとして加害者の負う責任が軽くなります。

上記の要件を満たした場合、被害者は怪我をさせた加害者に対して不法行為責任を問い、損害賠償請求を求める権利があります。また、「不法行為が発生したのが業務中だった」「企業側の指揮監督や環境整備に問題があった」といった場合は、怪我をさせた従業員を雇用している企業側に対しても使用者責任を問うことが可能です。

3. 損害賠償請求の内容と請求方法

前述のように、建設現場で怪我をした従業員は、状況次第で安全配慮義務違反や使用者責任、不法行為責任を根拠に会社などへと損害賠償を求めることが可能です。損害賠償請求の主な内容は、怪我の治療費や入院費、慰謝料、介護費用、怪我によって働けなかったことで生じた損失(逸失利益)などが挙げられます。

被雇用者が建設現場で作業中に怪我をした場合、労災保険の給付を受けることが可能です。しかし、労災保険の場合、休業給付や逸失利益などの補償が十分ではないことも少なくありません。怪我によって生じた経済的損失を補塡(ほてん)し、自分の生活を守るためにも損害賠償請求を行うことをおすすめします。

(1)損害賠償請求の方法

損害賠償請求をする際には、まず怪我の責任を負うべき相手に対して、内容証明郵便を使って、怪我によって自分が受けた損害や、その怪我が相手の責任であることを示す請求書を送付します。ここから、加害者またはその雇用者とのあいだで損害賠償請求交渉を開始します。

ただし、建設現場の事故は責任の所在が複雑であることも関係し、当事者間の交渉ではまとまらないことも少なくありません。その場合、労働審判あるいは裁判へとさらに進んでいくことになります。

損害賠償請求をする際は、まず誰に請求すべきなのか明らかにした上で、その相手の法的な責任を追及・立証していくことが重要です。しかし、特に企業を相手に、こうした交渉や訴えを個人で行うのは容易ではありません。そのため、損害賠償請求を検討する場合は、弁護士への相談をご検討ください。

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  • こちらに掲載されている情報は、2024年12月10日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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