子どもへの虐待で親権喪失の可能性も? 親権停止との違いも解説

子どもへの虐待で親権喪失の可能性も? 親権停止との違いも解説

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

子どもへの虐待などを行った親は、家庭裁判所の審判によって親権を失う場合があります。

今回は親権喪失について、具体例や審判手続きの概要などを解説します。

1. 親権喪失とは

親権喪失とは、父親または母親が未成年者である子どもの親権を失うことをいいます。

親が以下のいずれかに該当する場合、子やその親族などの請求により、家庭裁判所の審判によって親権を喪失することがあります(民法第834条)。

  1. 虐待または悪意の遺棄があるとき
  2. その他、父または母による親権の行使が著しく困難または不適当であることにより、子の利益を著しく害するとき

(1)親権喪失によってできなくなること

親権には、以下の事項を内容とする権利・義務が含まれています。

  1. 子を監護・教育すること(民法第820条)
  2. 子の居所を指定すること(民法第822条)
  3. 子の職業を許可すること(民法第823条)
  4. 子の財産を管理し、財産に関する法律行為について子を代表すること(民法第824条)

親権を喪失した場合、子どものために上記の各行為をすることができなくなります。

(2)親権喪失と親権停止・管理権喪失の違い

親権喪失のほか、民法では「親権停止」と「管理権喪失」についても定められています。

親権喪失と親権停止・管理権喪失の違いは、それぞれ以下のとおりです。

①親権喪失と親権停止の違い

親権喪失の場合は親権を完全に失うのに対して、親権停止の場合は、家庭裁判所が定める2年以内の期間(=親権停止期間)に限って親権が停止されます。

②親権喪失と管理権喪失の違い

親権喪失の場合はすべての親権を失うのに対して、管理権喪失の場合は、子の財産を管理し、財産に関する法律行為について子を代表する権利(=管理権)のみを失います。

なお、親権喪失と親権停止・管理権喪失の効果の差を踏まえて、審判の要件にも以下のとおり差が設けられています。

<親権喪失の要件>

虐待または悪意の遺棄があるとき、その他父または母による親権の行使が著しく困難または不適当であることにより、子の利益を著しく害するとき

<親権停止・管理権喪失の要件>

父または母による親権の行使が困難または不適当であることにより、子の利益を害するとき

2. 親権喪失となるケース・親権喪失の審判手続き

親権喪失の審判がなされ得るケースの具体例と、審判手続きの流れを解説します。

(1)親権喪失となるケースの例

たとえば以下のようなケースでは、親権喪失の審判がなされる可能性が高いと考えられます。

①虐待または悪意の遺棄があるとき

  • 子どもに対して日常的に暴力を振るっている
  • 正当な理由がないのに、子どもの生活費を全く支払わない
  • 子どもに対して食事を与えない
  • 病気の子どもを病院に連れて行かず、看病もせず放置する

など

②父または母による親権の行使が著しく困難または不適当であることにより、子の利益を著しく害するとき

  • 実刑判決を受けて収監され、長期間出所の見込みがない
  • 所在不明である
  • 重篤な精神疾患を負っている

など

(2)親権喪失の審判手続き

親権喪失の審判は、子どもの住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。

<申立権者>

  • 子ども(本人)
  • 子どもの親族
  • 未成年後見人
  • 未成年後見監督人
  • 検察官

<必要書類>

  • 申立書
  • 子どもの戸籍謄本
  • 現在の親権者の戸籍謄本(子どもと同じである場合は不要)
  • 申立人の戸籍謄本(子ども本人または検察官が申し立てる場合は不要)
  • 申し立ての理由を示す資料

親権喪失の審判申し立てが受理されると、家庭裁判所は審問期日を指定します。審問期日では、家庭裁判所が親権者の陳述を聴き取ります。子どもが15歳以上の場合は、子どもの陳述の聴取も行われます(家事事件手続法第169条第1項第1号)。

さらに、家庭裁判所調査官が子ども・親権者・親族などと面談を行い、家庭環境に関する情報を収集します。

裁判所は、当事者によって提出された資料・審問期日で聴き取った内容・調査官による調査結果などを検討し、要件を満たすと判断すれば親権喪失の審判を行います。要件を満たさないと判断すれば、申し立てを却下します。

審判に不服がある場合には、告知日から2週間以内に即時抗告をすることが可能です(同法第172条第1項第1号・第4号、第86条第1項)。即時抗告期間を経過すると、審判が確定します。

3. 親権を回復するための要件・手続き

児童虐待や悪意の遺棄、親権の行使を著しく困難・不適当とする原因が消滅した場合には、親権を喪失した本人またはその親族は、家庭裁判所に対して親権喪失の審判の取り消しを請求できます(民法第836条)。

ただし、かつて親権を喪失するほどの不行跡があったにもかかわらず、それが消滅したと言えるためには、過去の行為に関する後悔や、性格・心情の明確な向上・改善が認められなければなりません(大審院昭和12年3月2日判決参照)。

親権喪失の取り消しは、親権喪失時と同様の審判手続きによって審理されます。

4. 親権喪失に関するトラブルは弁護士にご相談を

子どもの親権を失ってしまうと、再び親権を回復することはきわめて困難です。もし配偶者や親族などから親権喪失の審判を申し立てられた場合は、すぐに弁護士へご相談ください。

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  • こちらに掲載されている情報は、2023年04月18日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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