海外への子供の連れ去りは違法? 知っておきたい「ハーグ条約」とは

海外への子供の連れ去りは違法? 知っておきたい「ハーグ条約」とは

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

国際結婚が破綻した際、一方の親が他方の親に無断で、子どもを自国に連れ去ってしまうケースがあります。この場合、親権者(監護権者)である親は、ハーグ条約実施法に基づき、外務省に対して相手の居住国への働きかけを行うことを申請できます。

今回は、国境を超えた子どもの連れ去りに関するルールを定めたハーグ条約や、ハーグ条約実施法の内容について解説します。

1. ハーグ条約とは

「ハーグ条約」とは、正式名称を「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」といい、国境を超えた不当な子の連れ去りへの対処ルールを定めた条約です。

(1)不当な子の連れ去りへの対処ルールを定めた条約

国際離婚の増加に伴い、夫婦の一方による国境を超えた子どもの連れ去りが国際的に問題となりました。

こうした状況を受けて、1980年に不当な子の連れ去りへの対処ルールを定めたハーグ条約が作成され、2022年10月1日時点で101か国が締約国となっています。

(参考:「締約国一覧」(外務省))

日本もハーグ条約の締約国であり、条約の内容を国内において実施するため、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律」(ハーグ条約実施法)が施行されています。

(2)ハーグ条約実施法に基づき、連れ去られた親ができる申請

ハーグ条約実施法に基づき、子どもを日本以外の条約締約国へ連れ去られたり、日本以外の条約締約国にいる子どもとの面会交流ができなくなってしまった親は、外務大臣に対して以下の2つの申請を行うことができます。

①日本国返還援助申請(同法第11条)

子どもの常居所地国が日本である場合、連れ去られた子どもの日本への返還を実現するため、必要な援助を申請できます。

②外国面会交流援助申請(同法第21条)

子どもとの面会交流を実現するため、必要な援助を申請できます。ただし、面会交流ができなくなる直前における、子どもの常居所地国(地域)が条約締約国であることが必要です。

申請に対して援助決定が行われた場合、外務大臣は連れ去られた子どもがいると思われる条約締約国に対して申請書類を送付します(同法第12条第2項、第14条、第22条第2項、第24条)。

また、必要に応じて相手国に情報提供を求めたり、相手国の中央当局と連絡を取り合ったりして、子どもの返還や面会交流の実現に向けた援助を行います(同法第12条第3項、第15条、第22条第3項、第25条)。

2. 子どもの返還・面会交流の援助申請が認められる場合・認められない場合

ハーグ条約実施法に基づく、連れ去られた子どもの返還援助申請・面会交流申請は、一定の却下事由がある場合を除いて認められます。

(1)返還援助申請が認められる場合・認められない場合

連れ去られた子どもの日本国返還援助申請は、以下のいずれかに該当する場合には却下されます(ハーグ条約実施法第13条第1項)。

  1. 返還を求められている子が16歳に達していること。
  2. 返還を求められている子が所在している国・地域が明らかでないこと。
  3. 返還を求められている子が、日本国または条約締約国以外の国・地域に所在していることが明らかであること。
  4. 返還を求められている子の所在地と、申請者の住所・居所(団体の場合は事務所の所在地)が、同一の条約締約国内にあることが明らかであること。
  5. 返還を求められている子の常居所地国が日本国でないことが明らかであること。
  6. 返還を求められている子の連れ去りの時、または留置の開始の時に、その子が所在していると思料される国・地域が条約締約国でなかったこと。
  7. 日本国の法令に基づき、申請者が返還を求められている子についての監護の権利を有していないことが明らかであり、または返還を求められている子の連れ去り・留置により当該監護の権利が侵害されていないことが明らかであること。

上記のいずれにも該当しない場合、外務大臣は日本国返還援助の決定をしなければなりません(同法第12条第1項)。

(2)面会交流援助申請が認められる場合・認められない場合

外国面会交流援助申請についても、上記の返還援助申請と基本的に同様の要件で認められます(ハーグ条約実施法第23条第1項、同法第22条第1項)。

3. 日本から海外への子の返還手続きについて

(1)子の返還手続きの概要

日本以外の条約締約国から、日本に子どもを連れ去られてしまった場合、日本で裁判を行い、子どもを海外に返還する決定を得ることができます。この場合、外務大臣に外国返還援助申請(ハーグ条約実施法第4条)を行うとともに、日本の家庭裁判所に対して、子の返還申し立てを行います(同法26条)。海外に在住している場合でも、日本での手続きは弁護士に代理をしてもらうことができます。

ハーグ条約は、連れ去られた子の迅速な返還を目的としているため、子の返還申し立ての審理は他の事件と比べても迅速で集中的に行われます。子の返還を決めるにあたっては子ども自身の意思も重要になってくる場合があるため、家庭裁判所調査官が子どもへのインタビューを行います。

審理の結果、家庭裁判所は子どもを条約締約国に返還すべきかどうかを判断し、子どもを返還せよとの決定があると、それをもとに強制執行をすることが可能です。

(2)子の返還事由、返還拒否事由

ハーグ条約に基づく手続きは、どちらが子どもの親権者かを決める手続きではなく、不法に連れ去られた子どもを迅速に返還することを目的としているので、子どもは条約締約国に返還されるというのが原則です。以下のような基本的な要件を満たせば、例外的な場合を除いて、子どもを返還しなければなりません(ハーグ条約実施法27条)。

  1. 子が16歳に達していないこと。
  2. 子が日本国内に所在していること。
  3. 常居所地国の法令によれば、当該連れ去り又は留置が申立人の有する子についての監護の権利を侵害するものであること。
  4. 当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時に、常居所地国が条約締約国であったこと。

一方で、子の返還をすることが子どもの福祉を害する場合も当然あり、いかなる場合でも子の返還を認めるべきではありません。そのため、例外的に、子の返還を認めないことができる場合(返還拒否事由)も規定されています(ハーグ条約実施法28条1項)。なかでも、返還することが子どもを重大な危険に置く場合や、子どもが返還されることを拒んでいる場合は、しばしば争いになります。

  1. 子の返還の申立てが当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時から一年を経過した後にされたものであり、かつ、子が新たな環境に適応していること。
  2. 申立人が当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時に子に対して現実に監護の権利を行使していなかったこと(当該連れ去り又は留置がなければ申立人が子に対して現実に監護の権利を行使していたと認められる場合を除く)。
  3. 申立人が当該連れ去りの前若しくは当該留置の開始の前にこれに同意し、又は当該連れ去りの後若しくは当該留置の開始の後にこれを承諾したこと。
  4. 常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること。
  5. 子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において、子が常居所地国に返還されることを拒んでいること。
  6. 常居所地国に子を返還することが日本国における人権及び基本的自由の保護に関する基本原則により認められないものであること。

4. 子どもが国境を越えて連れ去られたら、外務省や弁護士に相談を

配偶者によって子どもが海外へ連れ去られてしまったら、すぐに外務省へ返還援助申請を行いましょう。

(参考:「返還援助申請」(外務省))

また、海外から、日本に子どもが連れ去られてしまった場合、日本の弁護士に依頼をすることで、日本で裁判を行い、子の返還決定を得ることができます。

そして、迅速な返還を実現するためには、国際法務の経験が豊富な弁護士に相談することも有用です。子の不当な連れ去りに遭った場合は、お早めに弁護士までご相談ください。

弁護士JP編集部
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