浮気者にも権利はある ~不貞行為者のできることできないこと:離婚編~

浮気者にも権利はある ~不貞行為者のできることできないこと:離婚編~

婚姻は、法律上のつながりです。契約、たとえば企業同士の取引を、何の根拠もなく断絶し破壊したら、その行為が違法で、損害賠償を含めた制裁を受けるのはイメージできると思います。

同じように、法律上のつながりである婚姻を破壊する不貞行為も、明白な違法行為です。

そのため、破壊された側は損害賠償請求が可能になりますし、一方的に離婚することもできるようになります。破壊した側は、離婚関係の主張でも、「どの口で」と言われてしまい、権利が制限されます。

ここは大前提のお話です。プロでなくても、よく知っている方々も多いかと思います。ただ、それでは結局具体的に、どういうことまではでき、どういうことからはできないのかまで詳しくわかっている方は少ないと思います。そこで、今回はそのような不貞行為を前提としても可能なところとして、離婚の可否に言及して行きたいと思います。

1. そもそも離婚が認められる前提条件は? ~「婚姻を継続し難い重大な事由」~

民法770条に明記されています。その中でも代表的なのが、相手方の不貞行為と、「婚姻を継続し難い重大な事由」です。

自分が不貞行為をした側である場合、配偶者から離婚を突き付けられたら応じざるを得ないわけですが、配偶者は離婚したくないと言っている場合、「婚姻を継続し難い重大な事由」があるかをまず検討することになります。「婚姻を継続し難い重大な事由」について、裁判所はもう少し具体的に、「夫婦としての共同生活の実態を欠くようになり、その回復の見込みが全くない状態」(最判昭和62年9月2日民集41巻6号1423頁)と説明しています。

別居期間がしばしば重要な要素とされるのも、この言葉に密接に関連しているからです。夫婦としての共同生活の実態というのを端的にあらわしているのは、民法752条でも求めているように同居して互いに協力している状態です。

したがって、別居しだすとそういう夫婦らしい生活の実態は失われることになります。また、その期間が長くなって固定化してくると、回復の見込みがなくなってきます。全くないと断言しやすいのは、同居していた期間より別居している期間の方が長くなった時で、常識に照らしても同居していた間に築かれた関係は、同じ期間たつことで失われたという説明には納得しやすいのではないかと思います。

2. なぜ浮気者は離婚しちゃいけないのか? ~昭和な結婚観からの転換~

婚姻は法律上の関係であり、夫婦相互の扶助義務というものも定めています。配偶者が困窮しないよう、生活できるよう助ける義務が、夫婦間にはあるということです。

これをもう少し生の事実にあてはめると、たとえば主婦として嫁入りした奥さんは、旦那に養ってもらう権利があるということになります。これは現代の結婚観からはずれているのですが、どうしてあえて持ち出したかと言いますと、このイメージが、浮気者が離婚してはいけない理由にもなっていたからです。

いくら愛情がなくなったからと言って、仕事をせずに嫁入りしていた奥さんが、いきなり浮気旦那の一方的な判断で放り出されてしまっては、生きていけないじゃないか。離婚を制限して保護してあげなければ。こういう発想から、昭和の時代は、不貞行為をしたものの離婚は認めないと考えていました。

転機となったのは、昭和62年9月2日、昭和末期の判例です。上記のような昭和の結婚観が薄れ、夫婦の実態も異なるようになり、法律が一生壊れたふたりについて結合を強制し、新たな関係を認めさせないというのも拘束が強すぎると考えるに至ったのでしょう。

夫婦相互の関係や別居期間、子どもの状態、離婚後の妻の状態などを考慮して、「信義誠実の原則に照らしても容認されうる」場合は、離婚を認めるという判断基準が示されました。ただ、こういう抽象的な言葉に直しても、結局根底にあるイメージは同じであることを理解しておくと、わかりやすいです。

上記のような、一方的に自分の都合で捨てて勝手に走る浮気者と、捨てられて困る配偶者や子ども、そういう姿がイメージできるときは、離婚を認めないということです。

3. 人間関係を問題とする世界に絶対的な基準はない ~そして絶対的な拘束もない~

実際に別居期間が何年だったら離婚できる、何年だったら離婚できないといった絶対的な基準は、私は存在していないと考えています。

あえて数字で単純に比較しやすいものがあるとすれば、1で述べたような同居期間との比較でしょうか。後は、個別の夫婦関係から、究極的には、法律で強制してでもこの2人のつながりを継続させ、片方に養わせるべきかという問いを考えることになります。

たとえば、別居期間自体は短くても、双方が完全に新しいパートナーを見つけて新たな人間関係を作っているのであれば、無理につなげておく必要はないです。逆に、いくら別居期間が長くなっていたり、子どもが成人していても、子どもも介護が必要な状態だったりとなお残された配偶者と子どもが保護を必要としている場合は、夫婦の関係を続けるか、せめてその残された者たちの生活を保障する提案などがあるべきかもしれません。

このように、単純に答えが出せる問題ではないのですが、ひとつだけお伝えしておきたいのは、法律は人間を一生拘束することを望んでいるわけではないということです。拘束せずとも良い状況があるなら、一度浮気者になってしまったからと言って、一生責任を取らされるほど酷ではないです。

自分の立場に悩んだら、弁護士に相談し、そもそも自分が何をできるかを考えてみるのも良いでしょう。

杉山 大介
杉山 大介 弁護士

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