同居親による子どもの連れ去り別居は違法?損害賠償が認められる?~親権を巡る情報の錯綜と弁護士の限界~
先日、弁護士の間に衝撃が走りました。
子どもの連れ去りに絡んで、肯定的な助言をした弁護士に損害賠償が認められたというニュースが出て来たからです。
「子を連れて別居、代理人の弁護士にも賠償命令」という見出しからは、連れ去り別居の民事上の違法性が認められたかにも読み取れます。ただ、同記事を冷静に読んでいくと、今まで定説的に考えられてきたことからズレるわけではない、とわかってきます。
あくまで東京地裁が出した1裁判例でしかなく、この判決が裁判所の統一見解になったわけでもないですし、おそらくはこれから控訴審、最高裁でも争われる内容であるため、今回の判決を先例視しすぎるのも、適切ではないかもしれません。
ただ、特定の政治家の発言だけでも、警察の見解などについて大いに議論と誤解が生まれたくらいに、センシティブで関心の高い話題なので、このニュースについても正確に解説しておくことには意義があると考えました。
1. 「同居親による子どもの連れ去り別居が違法」と判断されたわけではない
一番大事なポイントですので繰り返しますが、「同居親による」子どもの連れ去り別居が違法と判断されたわけではありません。
普段、子どもの連れ去りが問題となるのは、離婚に向けて手続きが進んでいる途中の夫婦です。刑法で略取誘拐が認められた、平成15年3月18日最高裁決定(刑集第57巻3号371頁)と、平成17年12月6日最高裁決定(刑集第59巻10号1901頁)も、離婚前の夫婦の話でした。
今回、ニュースで問題となっている2人は元夫婦です。すでに離婚しており、しかも父親に単独親権があり、監護権もおそらくは単独であった事例です。そのような元夫婦が、どうして再び同居していたのか、なぜDVの危険や被害がありながら復縁に向けて同居状態があったのかは、外部からはよく分かりません。
ただ、この母親はもはや行為時点で「同居親」ではなかったという点は、非常に重要です。この前提事実を踏まえると、今回の事件で連れ去りに違法を認めたこと自体は、すごく当たり前の話だとわかってきます。
2. 親権者かつ監護権者が、親権者でも監護権者でもない者に子どもを連れ去られたら、違法である方が通常である
一方は、法律上、子どもと実際に一緒に住んで、養育する権限を持つ人であり、他方はそのような法律上の権限を持たない人です。子どもが、どちらと一緒にいる法的状態にあるかも確定しています。そのような中で、法律が保護すべきなのは、当然、権限を持っている側です。
その権限の所在に問題があるというのであれば、監護者指定のための裁判手続きを行い、あらためてどちらの元で監護を受けるのが適切か、問う機会もあります。結論を急ぐ必要があるなら、仮処分を求めて子の引き渡しを実質先行する手続きをとることもできます。
さらに緊急性が高いなら、人身保護法による保護命令を求めることも可能です。もちろん要件は厳しいですが、強行な手段を直ちにとるのですから、緊急性があるとはっきりわかる事情を求められるのは当然です。そのような正規なルートを通らずに、子どもを連れ去って、法律によらずに監護権者の地位を乗っ取るのであれば、法律が問題視するのも当然です。
そのような点を理解するがゆえに、子どもへの虐待の危険性といった点も主張されたようですが、上記のような正規の手続きを経ない理由にはならないと思います。実質復縁という話も、裏を返せば再度婚姻して法律上の共同親権を復活させるには至ってなかったということになります。
それに、子どもの虐待という問題を一番に取り扱う公的機関は、児童相談所です。児童相談所は一時保護といった、緊急の措置も手段として持っています。やはり、自分が一方的に連れて行くよりも優れた措置があることは、否みきれないどころだと思います。
このように掘り下げていくと、今回のニュースは何か特別なことが起きたわけでもないということが、見えてきませんでしょうか?
普段、同居親が子どもを別居時に連れて行けるのは、自らが子どもと一緒に食事をして養育していく権限を持っているからであって、その前提を満たさないのであれば、単に法律上の親子関係を遮断した人にしかならないのです。
3. 弁護士の助言の難しさ
~もしも離婚後共同親権が認められた社会だったら?~
こうして事後的に整理すると、今回の件では法律上の立場がかなり片方によっているため、連れ去り行為の違法性を予測できたとも言えるのかもしれません。
ただ、最初に弁護士が助言する時は、あくまで依頼者の主張がベースになります。そうすると、虐待の危険性などを強く認識していた可能性もあり(いきなり依頼者に向かってうそつき呼ばわりするのは、かなり難しいです)、そのような時点でも連れ去りが当然違法とわかったとまで言えるかは疑問です。
また、弁護士が「肯定的な助言」をしたというのも、どの程度であったのか気になります。弁護士の言葉を拡大解釈して受け取る依頼者も実際いるわけです。今回の法廷でも、依頼者の責任と弁護士自身の責任を別にする主張は、守秘義務も負う弁護士倫理上、どこまでできていたのか疑問に思います。そういう意味で、弁護士の責任が認められてしまったことには、私も怖い気持ちを抱くところがあります。
そして、今回いろいろ考えていて、弁護士の立場で一番怖いと思ったのが、もしも離婚後共同親権が認められていたら、この事案はどういう結論になっていたであろうと考えた時です。
上記分析からもわかるように、法律上のつながりが一方にあって片方にはないという関係が、今回の事案では当事者の優劣を決めているところがあると思います。それでは、離婚後共同親権が認められ、法律上のつながりはどちらも持っている場合は、同居していたという事実基準でその優劣が決まるのでしょうか?
そうすると、今回違法とされた側も、連れ去られた側に劣後することはなく、離婚前同居時の連れ去りと同様に評価されたのでしょうか?
私なりに考えはあります。しかし、今回のような判決を受けると、思わず口をつぐむかもしれません。
私は、この時、「弁護士がアドバイスしづらくなる」という言葉を実感したのです。訴訟を起こすのに違法性を認める場合があるものの、それは極めて例外的な不当な訴訟である場合に限定されています。
同様に、弁護士の助言についても、法律上一分の理もないような、明白かつ重大な違法でなければ損害賠償責任は認めるべきでないと考えます。
- こちらに掲載されている情報は、2022年05月06日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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