ドミノピザのケースから考える景表法 ~書いてあるだけではダメな広告法務~

ドミノピザのケースから考える景表法 ~書いてあるだけではダメな広告法務~

先日、ドミノピザに関する大きなニュースが流れた。

ドミノピザと言えば、テレビ東京の経済番組でも常連で、成長を止めないサービス提供の精神は、非常に好ましく見ていた。また、無料ピザ地域支援といった社会貢献活動も行っており、日々の良いニュースでも見かけることが多い。それだけに、今回のは「おや?」と思うところが大きかった。

今回は、「ドミノピザのチラシと、実際に請求される料金が違う」というクレームが問題になっている。もちろん、料金の根拠となる説明はチラシに書いている。しかし、消費者庁は『措置命令』という処分を発した。これは、「微妙だけど消費者にとって良くないからやめよう」ではなく、「不当景品類及び不当表示防止法(景表法)上違法である」と明確に宣告されたことを意味する。

一応は説明も書いてあるのに、なぜそこまではっきり違法と言えるのか?

実はそこには『打消し表示の効果』という、景品表示法上、かなりアツアツな話題が潜んでいる。このようなニュースによって、企業の優良なイメージを打消されないためにも、今回は景品表示法という法律についてしっかり触れてみたい。

1. そもそも違法な広告とは? ~優良誤認、有利誤認、etc~

景品表示法5条は、不当な表示をしてはならないとして、不当な表示に該当するものを定義付けている。

1号が優良誤認。意味は、実際よりすごく良いものだと誤解させて消費者の選択を誤らせるようなもの。

2号が有利誤認。意味は、実際や他の同業と比べてすごく有利だと誤解させて消費者の選択を誤らせるようなもの。

それに3号が、別途指定される類型である。

条文だけを見ても、なんとなくそれが良くないことなのは伝わるかもしれないが、具体的なアウト・セーフの基準はわからない。具体的な事例を見て行くのが、景品表示法を理解する上では有効だ。

例えば、優良誤認。「うちの塾の講師は国公立大学出身98%ですと言っていたのが14%にすぎなかった、講師陣を優良だと見せかけた。」「温泉で11種類の湯めぐり三昧、温泉三昧と書いてあったのが、温泉は2種類だけだった、温泉が優良だと見せかけた。」といったものがある。

例えば、有利誤認。価格表示の仕方を問うものが多い。「標準小売セット」「当社通常販売価格」という、実際にはそのような価格で売ったことのないうその比較対象を作って、今表示されている価格が安いように見せかけるケースなどは典型的だ。

3号として、指定されている類型は、それぞれのカテゴリにわかれる。食品の原産国偽装は3号の代表例だ。「国産」と書かれた食品が「海外産」だと、違反になる。無果汁のジュース、消費者信用の融資、不動産おとり広告、おとり広告、有料老人ホームと、特に指定を作ってきた類型は、その時代の消費者問題を反映するかのようだ。

2. ドミノピザは何が問題だったのか? ~本当だけど打ち消せてない~

景表法における不当表示の例を見てきたが、やはり典型的な違反ケースは、うそを広告してしまっているものが多い。今回、措置命令を採られたドミノピザの広告にうそはない。ピザの料金以外に、サービス料がかかることは、ちゃんとチラシに書いてあった。それでも、わざわざ消費者庁は記者会見を開いて問題を公表し、措置命令を出した。

なぜか?

実はこの、「ちゃんと書いてあるじゃないか」という抜け穴を許さないというのが、最近の消費者庁の中でもアツイ話題なのだ。【ちゃんと書いてある】の部分を「打消し表示」と呼び、強調され誤解されそうな効果が、打消し表示によってちゃんと打消せているかどうかを評価し、打消せていないなら、強調された部分しか掲載しなかったのと同じだと処理する。このような手法が定着している。

今回のケースで言えば、ピザ一覧のページにはピザの料金が書いてあるだけで、サービス料はチラシの末尾の電話番号などが記載されているところに、わずかに書いてある。パッとピザのページを見た時に、物理的に視界に入らないという時点で、これを正当化に使うのは不可能だろうとわかる。

消費者庁が広報で話した内容のうち、「消費者の価格に対する認識を打消せていない」というワードをしっかり拾っていたニュース記事は、要点をつかんでいると、情報の消費者である私も勝手にうなずいていた。

3. 打消し表示がアウトになるラインは、本当はもっと厳しい

さて、今回のドミノピザは、物理的に「打消し表示部分」が「強調表示部分」と同時に見えなかったため、かなりダメでしょうと言いやすいケースだった。

実は、消費者庁の規制ラインはもう少し厳しい。

例えば、同じ画面の中に強調表示と打消し表示が同時に存在するテレビ・ネットCMも、打消せてないと評価することもある。「こんなの、消費者庁が目をつけるかどうかで決まってしまうのではないか」と思われるかもしれないが、消費者庁は「打消せていないという効果」を、ちゃんと科学的に証明する手段を持っている。

例えば、人の視線がどこにどれだけの時間が注がれるのかというアイトラッキング実験や、広告から受ける認識を統計処理した社会学的調査を用いれば、数字などを基に、その規制の根拠を説明できる。

消費者庁は、少なくともこの問題に対して、それくらいの本気度で準備してきて、今対処している。

4. 大広告時代に備えた心構えを

WEB経由でのマーケティングも発展し、一部のプロの領域だった広告は、昨今では事業主自身が発信することも多い。広告を仕事とする手段も増えた。

そのような中で、より売れる、受けが良い広告を狙っていく中で、消費者被害が発生すると、規制庁もより本気で動くようになってくる。今までは影響が小さかったものが、その影響の大きさから、いきなり大きな処分を受けるリスクも増えるかもしれない。ドミノピザはおわびのキャンペーンなども行っていたのに措置命令を出され、打消し広告の問題点を「広告」する材料にされた感もある。ただ措置命令はまだマシで、事例を拾って行けば、1億円以上の課徴金納付命令を出されているケースもある。

大広告時代で、自在に広告を扱って行くには、広告特有の規制の考え方を理解しておくことも大事だ。

杉山 大介
杉山 大介 弁護士

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