従業員の横領が発覚した場合の適切な対応策について解説
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従業員の横領が発覚した場合の適切な対応策について解説

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

従業員が会社の資金を横領した場合、懲戒解雇や損害賠償請求などを検討する必要があります。適切な処分・請求を行うためにも、証拠収集等の初動対応を迅速に行ってください。

今回は、従業員の横領が発覚した場合に、会社がとるべき対応について解説します。

1. 業務上横領とは?

刑法第253条では、業務上自己の占有する他人の物を横領する行為を「業務上横領罪」として処罰する旨を定めています。

(1)業務上横領罪の成立要件

業務上横領罪の成立要件は、以下のとおりです。

①他人から業務上の委託を受けて、他人の所有物を占有していること

業務上横領罪が成立するのは、横領の対象物を、他人からの業務上の委託によって、すでに行為者(横領者)が占有している場合のみです。これに対して、実行行為の時点で行為者に占有がなく、他人から占有を奪取する場合には窃盗罪(刑法第235条)や詐欺罪(刑法第246条第1項)が成立します。

なお「業務」とは、委託を受けて物を管理することを内容とする事務をいうと解されています。

②その物について、所有者でなければできないような処分をすること

たとえば、委託を受けて管理している会社のお金を自分のために使ったり、会社の備品を勝手に売却して代金を懐に入れたりする行為が該当します。

学説上は「不法領得の意思」を実現する行為であると解されています。

(2)業務上横領罪とその他の横領罪の違いと各法定刑

なお、刑法上は業務上横領以外にも「委託物横領罪(単純横領罪)」(刑法第252条第1項)と「遺失物等横領罪」(刑法第254条)が規定されています。

委託物横領罪(単純横領罪)は、物の占有委託が「業務上」のものでない点が業務上横領と異なり、法定刑も軽くなっています。遺失物等横領罪は、他人の占有を離れた他人の所有物を横領する行為について成立し、典型的には拾った落とし物を着服する行為などが挙げられます。

業務上横領罪・委託物横領罪(単純横領罪)・遺失物等横領罪の各法定刑は、以下のとおりです。

業務上横領罪 10年以下の懲役
委託物横領罪(単純横領罪) 5年以下の懲役
遺失物等横領罪 1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料

2. 従業員の業務上横領が発覚した場合に企業がとるべき対応

従業員による業務上横領罪が発覚した場合、後に適正な処分や請求などを行うために、速やかに以下の対応をとりましょう。

(1)業務上横領の証拠を集める

懲戒処分や損害賠償請求を見据えた場合、業務上横領の証拠は確実につかんでおく必要があります。

出勤履歴・メールのやり取りなどを確認するのはもちろんのこと、捜査機関とコミュニケーションをとれば、強制捜査の結果資料を活用できる場合もあります。

その他防犯カメラを設置して、従業員の犯行の瞬間を記録しておけば非常に有力な証拠になります。

(2)従業員に対する事情聴取を行う

従業員に対する懲戒処分を検討する場合、適正手続きの観点から、従業員に弁明の機会を与える必要があります。そのため、従業員に対する事情聴取は、どこかのタイミングで必ず行っておくべきです。

ただし、客観的な証拠がそろわない段階で事情聴取を行うと、従業員に言い逃れの余地を与えてしまう可能性があります。そのため、従業員に対する事情聴取は、業務上横領の事実がまず間違いないと確信を持てる段階になってから行うのがよいでしょう。

3. 業務上横領を行った従業員への処分等

業務上横領を働いた従業員に対しては、主に「懲戒処分」「金銭等の返還請求(不当利得・不法行為)」「刑事告訴」という3つの手段をもって臨みましょう。

それぞれにつき、法的な観点からわからない部分がある場合には、お早めに弁護士までご相談ください。

(1)懲戒解雇等の懲戒処分

従業員に対して懲戒処分を行う場合、懲戒事由が存在することをきちんと確かめたうえで、行為の重大性・悪質性に見合った処分を与えなければなりません(労働契約法第15条参照)。

業務上横領の場合、1発で懲戒解雇相当に当たるケースも多いですが、念のため弁護士とともに懲戒解雇の有効性について検討を行いましょう。

(2)金銭等の返還請求(不当利得・不法行為)

従業員が業務上横領した金銭その他の財産については、会社は従業員に対して、不当利得(民法第704条)または不法行為責任(民法第709条)に基づき返還・損害賠償を請求できます。

横領の対象となった金額については、会社の側で立証する必要があります。そのため、出金履歴などを精査して、横領の全体像を漏れなく把握することが大切です。

(3)刑事告訴

業務上横領は刑法上の犯罪行為なので、刑事告訴(刑事訴訟法第230条)を行い、捜査機関に捜査を求めることができます。

捜査資料が民事上の請求等に活用できる場合もありますので、早い段階で警察に被害届を提出し、警察と連絡を取り合いながら対応してください。

なお、弁護士に依頼すれば、捜査機関とのやり取りもすべて代行してもらえます。

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