未払いの医療費を回収する方法とは? 患者への法的な対応を解説
医療費の未払いは、医療機関にとって深刻な問題です。入院や手術を伴うと医療費が高額になるのはやむを得ないことですが、中には支払い請求に応じない患者もいます。
本コラムでは、未払いの医療費の回収方法や時効、注意点などをわかりやすく解説します。
1. 医療費の未払いが発生した患者への対応
患者から未払いの医療費を回収する任意の手段には次の5つがあります。
(1)メール・電話
まずはメールや電話で支払いを催促しましょう。強制力は低いですが、手間やコストをほとんどかけずに回収できる方法です。トラブルを防ぐために、メールの場合は送信したメールを保存し、電話の場合は音声を録音しておきましょう。
(2)督促状
メールや電話で効果がない場合は、督促状を作成して患者宛てに送付しましょう。督促状の書き方に決まりはありませんが、支払いの金額や期日、支払いを求める理由などを端的に記載するのがポイントです。
督促状には心理的なプレッシャーを与える効果があるため、一度で反応がなくとも、複数回送付しましょう。最初は「医療費のお知らせ」として穏便な内容に、最終的には「法的措置をとる」といった文言を入れ、徐々に内容を重くしていくのが効果的です。
(3)健康保険の強制徴収制度
患者が健康保険に加入していれば、「強制徴収制度」を利用できます。強制徴収制度は、医療機関が回収の努力をしても回収できなかった場合に、市町村及び保険者(保険組合)が未払い金を徴収し、医療機関に支払う制度です。
ただし、2週間に1回は患者に内容証明郵便を送付して督促を続ける必要があり、回収手段として現実的であるとは言いがたい方法です。
(4)弁護士に依頼して交渉
弁護士に依頼して交渉してもらうのも有効です。弁護士が代理人となることで、素直に応じてくれる患者もいます。債権回収会社(サービサー)に依頼することもできますが、法務大臣の許可を受けていない業者には依頼しないよう注意しましょう。
(5)内容証明郵便による督促
「内容証明郵便」で督促する方法もあります。内容証明郵便は、同じ文面の文書を3通作成(2通はコピー可)して郵便局に提出します。返却される分、郵便局に保管される分、患者宛てに送付される分の3通です。
届いた内容証明郵便は患者には手渡しされ、配達証明を付ければ書類内容に加えて、配達された事実も証明できるため、患者は「届いていない」といった言い逃れができません。また、弁護士に依頼して弁護士名義で送付すれば、さらに支払いに応じてもらえる可能性が高まります。
2. 未払いの医療費を回収する法的手段
任意の手段で回収を試みても応じてもらえなかった場合は、法的手段に踏み切りましょう。法的手段には次の4つがあります。
(1)民事調停
民事調停は、当事者双方に裁判官1名と調停委員2名を交えて、話し合いによって解決を図る方法です。調停は非公開で行われ、成立しなければ通常の訴訟に移行します。
(2)支払督促
支払督促は、裁判所を通じて支払いを督促してもらう手続きです。裁判所から通知が来たことに驚いて、支払いに応じる患者もいます。
支払督促のメリットは、書面のやり取りのみで完結するため、訴訟を起こすよりも費用が安く、出廷する必要がないことです。患者から異議申し立てがあれば通常の裁判に移行しますが、異議申し立てがなければ強制執行が可能になります。
(3)訴訟・少額訴訟
訴訟は時間やコストがかかり、出廷する必要がある点はデメリットですが、未払いの患者が複数いる場合、複数名を同時に訴えられるメリットがあります。患者側との争いに決着をつけ、効率的に回収できる可能性が高い方法です。
未払いの医療費の額が60万円以下の場合は「少額訴訟」を利用して、通常の訴訟より手間をかけずに終わらせることもできます。少額訴訟なら裁判所に出向くのは原則1回だけで済み、判決が出ます。
(4)強制執行
支払督促や訴訟で得た書類を使えば、患者の財産を強制的に差し押さえる「強制執行」が可能です。差し押さえの対象となるのは、給与、銀行口座、住宅、車などです。住宅や車などは競売にかけて売却代金を得ることで、未払いの医療費を回収します。
3. 医療費の時効について
未払いの医療費は消滅時効が成立すれば請求できなくなってしまうため、できるだけ迅速に回収する必要があります。
(1)医療費の時効期間
時効期間は、法改正の影響に伴い、2020年3月31日までに発生した未払い分は3年、2020月4月1日以降に発生した分は5年と決められました。起算は支払期限の翌日からです。
これらの期間を過ぎ、かつ患者が消滅時効を援用してくると、請求自体できなくなってしまいます。ここでいう「援用」とは、時効によって医療費の支払債務が消滅した旨を主張することです。
ただし、次で紹介するように、時効を更新する方法もあります。
(2)時効の完全猶予や更新の方法
患者が債務の存在を認める(債務承認)と、時効期間が延長されます。内容証明郵便の送付、支払督促、訴訟、少額訴訟などを行うことでも、時効のカウントが短期間ストップまたはリセットされます。3年や5年を経過する直前であり、時効が迫っている場合は、すぐに弁護士に相談して時効の完成を阻止しましょう。
4. 未払いの医療費回収における注意点
医療費の未払いは、そもそも発生させないよう前もって防止策を講じておくのがおすすめです。回収する際には以下の4つの点に注意しましょう。
(1)医療費未払いでも診察は拒否できない
病院は、医療費未払いの患者であっても診療拒否ができません。医師には、診療を求められたら正当な理由なしに拒んではならないという「応召義務」があるためです。未払いの医療費があるというだけでは、正当な理由とは見なされません。
ただし、支払い能力があるにも関わらずわざと支払わないなど、悪質な場合は正当な理由に該当し、診療を拒否できます。
(2)保証金・連帯保証人制度
医療費未払いの防止策として、保証金制度や連帯保証制度を利用する方法があります。保証金制度とは、入院や手術によって医療費が高額になると予想される場合に、保証金として医療費の一部を預かる制度です。
連帯保証人制度とは、患者本人が医療費を支払えなかった場合に、代わりに支払ってくれる連帯保証人を付けておく制度です。未払いがあっても連帯保証人に請求することで、医療費を回収できます。
(3)違法な取り立てにならないようにする
未払いの医療費を回収するためとはいえ、度を超えた取り立ては違法です。例えば、早朝や深夜に患者の自宅へ取り立てしに行く、家の前に長時間居座る、脅迫する、職場にまで連絡するといった行為は違法なので避けましょう。
(4)訪日外国人の医療費未払いに注意
訪日中の体調不良やケガなどで受診した外国人の医療費未払いを経験している病院も少なくありません。患者が帰国してしまっている場合、督促ができず、回収するのは現実的に困難です。
こうした未払いを防ぐためには、日本円での現金払いが困難でも支払いやすいようキャッシュレス決済を導入する、誰でも対応できるよう自動翻訳機を導入するなどの対策が有効です。
医療費の未払いは、病院の経営に悪影響を及ぼす可能性があります。未払いが発生した際は迅速に対応し、早めに弁護士に相談することが大切です。
- こちらに掲載されている情報は、2023年07月25日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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