『埼玉県水着撮影会中止事件』から考えるプロセスの大事さと危機管理

『埼玉県水着撮影会中止事件』から考えるプロセスの大事さと危機管理

以前、ABEMA Primeからの取材でジュニアアイドルの撮影会について弁護士の立場からコメントした。ジュニア世代における『同意の不完全さ』や『搾取的な側面』、得てして『性的な要素に走りがちな客層の問題』などは、むしろ意識を共有するところだ。

ただ、今回起きた埼玉県による水着撮影会中止事件については、批判的である。そのポイントは、「一度認めたものを、直ちに中止させなければならない緊急性があったか」という問題設定にある。

また、私から見ると非常に重い判断をしたことになるのだが、その無自覚さからか、後だしで誤った情報が出てくる行政側の対応にも頭が痛くなる。弁護士として、プロセスごとに求められる『正当性のあり方』や、望ましい『危機管理対応』に言及したい。

1. 「公園の使用」は“原則自由”である

この憲法的な大前提は、まず共有されなければならない。

国民が、お金を負担し合って維持して、共同で利用することを前提としている公の施設は、原則として皆が自由に使えなければならない。このような趣旨は、憲法21条を受けて、地方自治法244条などにおいても具体化されている。施設管理者が、自分の庭に入るものを自由に選んで自由にルールを作れる民間施設とは位置づけが異なってくる。

原則誰にでも使わせる施設なのだから、使用させたことでそこで行われる行為にお墨付きを与えるような効果はない。そのような肩入れをせず、全ての国民にフラットに接するのが公の施設の原則なのだ。

既に取材が行われている内容によれば、公園の利用規約も今年に入って少なくとも2回改訂が行われているようであり、しかも未成年の出演を禁止したのは今年の6月とつい最近のようだ。そうすると、イベントを許可された時期によっても適用される前提ルールが変わってくると思われ、そもそもルール違反があったのかすら、議論になりそうだが(実際、ニュースで出てくる違反の内容は「過激なポーズ」「過激な水着」「公序良俗違反」など評価を加えないと違反を認定できないようなものばかりだ)、仮にルールが前提にあったとしても、そこに憲法的な審査が入ってくることを理解しておかなければいけない。ルールだから正しいとも言えないような問題なのである。

2. 法的な正当性を判断する上で重要な手段や効果とのバランス

今回の事件を法的に評価しようと思えば、各条例や規約の解釈に、合憲法的な修正を加えるなどする必要があるため、複数の論理を複合していく必要がある。本稿では、そのような個別の法解釈を示すよりも、その前提となる結論の正しさを担保する考え方を記しておこうと思う。

手段に要求される正当性は、その生じる効果の大きさや目的などによって変わってくる。悪人を全員死刑にして良いわけではない。社員に問題があったら、無能だったら全員解雇して良いわけではない。一方的に地位を奪える立場にあるものは、その力を行使するとき、常にそれだけの力を行使するだけの正当性があるかを要求される。このような根本原理が、さまざまな法の場面で通底している。

本件も、既に許可して準備が進んでいた撮影会を直前に中止させるだけの正当性という、数段高いハードルで評価する必要がある。ただ、公園で水着の撮影会をさせるのが正しいのか、未成年を対象にした撮影は正しいのかと漫然と考えては、本件の手段の強さを適切に評価できていない。

私が、本件を「正しくない」と評価しているのは、ここの理由が大きい。どうしても、突然に今になって、一度許可していたものを中止させる緊急性がどこから生じたのか、理解できないからだ。

私が取材を受けたのが今年の1月で、そのずっと前からジュニアアイドルの撮影問題は、世間の話題になっている。今、唐突に始まった話でもない。今のところ、児童ポルノというのは性器が露出していたり、性的な行為を直接に想起させるような非常に過激なものを指していて、水着はどこまで行っても水着という扱いがなされてきたのであり、法規制に反していて表現の自由による保護自体を否定するような前提が社会的な合意に至っているとは思えない。

今月撮影会が行われたことで、何か致命的な被害があるとは、近年の法規制への認識からも、評価できないはずである。そうすると、問題を認識したならその問題に対処する手段を、社会の共通規範である法として定めたりしていくのが常道であり、そのように順序をたどってようやく、どの範囲の行為が規制されるべきかなどの社会合意も作られる。このようなプロセスなしに、いきなり一度は認めていた利用まで中止させる必要があったのか。過去に問題あるイベントを行った団体であったのなら、今回はそのようにしないよう指導していけば十分だったのではなかろうか。

このように行使する手段に対して謙抑的な姿勢が全く見えないのは、よっぽど行政としての不健全さを疑う。実際、そのような懸念もあったからか、あくまで電話で要望を伝え、イベント主催者が中止を申し出るという形式が取られている。しかし、その背景には、今後の県との関係性を意識した忖度(そんたく)が生じており、完全な同意であるわけがない。

子どもが大人に対して対等に交渉できないよう、施設を今後も利用し得る立場にある主催者と埼玉県も、対等な交渉にはならないのだ。

3. 埼玉県は急ぐなら適切なアナウンスを、正しく調査するなら時間を味方にすべきであった

以上のような観点からすると、仮に今回のような中止という手段を取る場合、なぜそこまでの手段を取る必要があったか、現状、どこに法的根拠があったのか曖昧で、取材によれば、違反とされる行為があった団体となかった団体も混在する中、そのような区別もつけぬままに「違反があったようだ」と埼玉県知事までツイッターに投稿をしている。

これは非常に杜撰だ。統一見解すらろくに持てていないことが露呈してしまっている。原則自由であったはずのものに、法規制という網をかけていくなら、ちゃんとどこまでをどのようなルールに基づいて規制していくかという全体像を持って進める必要がある。そうして初めて、批判にも耐え得るような手段が取れる。本当に急いで対処が必要と考えたのなら、それくらいの準備を急ぎで整え、行動と同時に書面の一つもアナウンスすべきだった。

他人の立場を一方的に奪うだけの権限を与えられたものに求められるマナー、行政としての権限行使の正当性は、ジュニアアイドルの水着撮影が許容されるかよりも、ずっと大きく普遍的な問題をはらんでいる。その権限行使の姿勢は、ただの一般市民である私たちに対しても、影響を及ぼし得るからだ。そのような問題意識を、本件に関わる人には持ってほしい。

杉山 大介
杉山 大介 弁護士

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