VS文春訴訟の代理人「非常に優れた弁護士」だが「100%負ける」… それでも松本人志氏が勝算なき戦いを “ヤメ検” に託したワケ

弁護士JP編集部

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VS文春訴訟の代理人「非常に優れた弁護士」だが「100%負ける」… それでも松本人志氏が勝算なき戦いを “ヤメ検” に託したワケ
週刊文春は第1弾以後も10人を超える“新証言”を報じている(弁護士JP編集部)

お笑いコンビ・ダウンタウンの松本人志氏が、自身の性加害疑惑を報道した週刊文春(発行元:文藝春秋)を提訴した件で、第1回口頭弁論が3月28日に東京地方裁判所で開かれると報じられた。

名誉毀損に基づく損害賠償のほか、記事の訂正を求めるこの裁判では、松本氏の代理人が「ヤメ検(元検察官)」の田代政弘弁護士(八重洲総合法律事務所)であることが話題となった。

田代弁護士は東京地検特捜部時代、「陸山会事件」で捜査報告書への虚偽記載を行い懲戒処分を受けている。また、週刊文春は松本氏が「(他の弁護士から)勝算がないと次々断られていた」と明かす吉本関係者の証言を掲載した。

なぜ松本氏は、“訳あり”ともいえる弁護士に依頼をしたのか。また、一般に「刑事事件に強い」と言われるヤメ検弁護士に、「名誉毀損(きそん)」を争う民事事件の代理人を依頼した真意はどこにあるのか。

田代弁護士は「能力が高い」

田代弁護士の後輩にあたる「ヤメ検」日笠真木哉弁護士は、田代氏の能力を「高い」と評し、その理由を次のように説明する。

「誤解を恐れずに言えば、能力が高かったからこそ、検察時代に懲戒処分を受けるに至ったのだと思います。私の想像もありますが、検察内で与えられたミッションが重く、虚偽記載をしてまで成果を挙げなければいけない状況に追い込まれた。彼の能力が高いからこそ、重いミッションを受けた、その結果なんだろうと私は考えています」

法曹三役と呼ばれる「裁判官・検察官・弁護士」の中で、裁判官や検察官になるためには、司法試験に高成績で合格し、さらに司法修習において実務でも優秀な成績を収める必要がある。

一人前の検察官になるには5年かかると言われ、そこから一握りが汚職、脱税・経済事件を担当する「特捜部(特別捜査部)」に呼ばれる。特捜部とは、東京・大阪・名古屋いずれかの地方検察庁に属し、警察の捜査を介さずに独自捜査を行う部署だ。

東京地方検察庁の建物(弁護士JP編集部)

「検察官は、民事事件より立証のハードルが高い刑事事件を取り扱います。中でも『ヤメ特(捜)』とでも言うか、特捜の経験を持つ弁護士は、捜査能力があり、緻密な分析をして戦略を立てる能力にたけていると言えます。その意味で、田代氏は非常に優れた弁護士だと思います」

「民事事件」をヤメ検に依頼するメリット

一方、ヤメ検弁護士は刑事事件に特化していたために、民事事件には弱いのではないかという意見もあるが、日笠弁護士はそれらの声には懐疑的だ。

「民事裁判の手続きや相場をあまり知らないという意味では、確かにそういう部分があるかもしれません。ただ、裁判は『証拠を集めて、見て、その証拠から自分たちが立証したいことを組み立てていく』ことが基本で、そこは刑事事件も民事事件も変わりがありません」

その上で、松本氏が田代弁護士を選んだ理由についてはこう推測する。

「『不同意性交があったのか、なかったのか』という事実認定を求める裁判は、極めて刑事色の強い民事事件です。だから、松本氏は刑事に強い弁護士を探し、田代氏に依頼したのかもしれません」

「100%負ける」それでも松本氏が提訴を選んだワケ

田代弁護士の能力は疑いがなさそうだ。ただし、対文春裁判においては、「松本氏は100%負ける」と日笠弁護士は言い切る。

「民主主義国家、特に日本やアメリカ、西欧において『表現の自由』や『言論の自由』は、極めて重く受け止められています。よっぽどのこと、たとえばウソだとわかっていて報道したり、取材せずに記事を書いたということがない限り、報道側が負けるのはありえないこと。負けてしまうと、何も報道できなくなりますから。松本氏も、裁判上の勝ち負けで言えば、最終的には敗訴するでしょう。当然、田代氏も松本氏にそう説明しているはずで、松本氏もわかった上で裁判を起こしていると思います」

負けが確定していてなぜ、5億円という巨額の損害賠償を求め、提訴に至ったのか。日笠弁護士はそこから見え隠れする松本氏の「思い」を推察する。

「松本氏は、もう事実上引退しているつもりだと思います。もし復帰したいと思って裁判をやっているなら、あまりにも勝算がない。芸能界には復帰するつもりはないけれど、このまま不名誉なレッテルだけ貼られて、晩節を汚して去っていくのは耐えられない。名誉を挽回してから引退したいということだろうと思うんです。

『不同意性交の事実があった』と認定されてしまえば訴訟のリスクが顕在化する“もろ刃の刃”ではありますが、『不同意性交の事実がなかった』、あるいは『同意があったかもしれない(疑いがある)』と客観的に認定されれば、敗訴だったとしても、松本氏にとって勝ったに等しいことです。5億円が欲しくて提訴しているわけではなく、ただその認定を求めているのでしょう。

田代氏のフィー(弁護士費用)はわかりませんが、5億円の訴訟物(請求)だから、松本氏は何千万円のフィーを払って訴訟をやる。私にはそれだけの価値がある訴訟とは到底思えないけど、優れた弁護士である田代氏をつけて一矢報いたい。そういう松本氏なりの意地があると見ています」

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