「500円でクビは重すぎ?」 “コーヒー分量万引き” で懲戒免職の中学校長に同情も… 「軽犯罪」と「解雇」のボーダーライン【弁護士が解説】

弁護士JP編集部

弁護士JP編集部

「500円でクビは重すぎ?」 “コーヒー分量万引き” で懲戒免職の中学校長に同情も… 「軽犯罪」と「解雇」のボーダーライン【弁護士が解説】
「バレなきゃいいか」の代償はあまりに重い…(xiaosan / PIXTA)

先月30日、コンビニでセルフのコーヒー抽出器で支払った料金以上の量を注いだとして、59歳の中学校校長が懲戒免職処分となった。ネット上では「かわいそう」「重すぎでは」などの同情の声もあふれた事でも話題になったが、実際のところ懲戒処分のボーダーラインはどのあたりになるのか。刑事事件に詳しい、荒木謙人弁護士に聞いた。

「処分としては重いと感じるのが率直な感想です」。フラットな見解として、荒木弁護士はそう語る。その上で、荒木弁護士はこの事件について、次のように解説した。

「今回の被害額は、総額500円足らずと低額です。しかし一方で、複数回行っている悪質性があり、決して軽い犯罪であるとは言い切れません」と、金額以上に複数回の犯行という常習性、悪質性を問題視した。

500円足らずの万引きでの懲戒免職は妥当だったのか

とはいえ当人は、「いけないと認識しながら繰り返してしまった」とし、「心の底から申し訳なく思っている」と深く反省している。そうした姿勢もあってか、刑事事件としては不起訴処分になっている。それだけに、59歳という年齢での懲戒免職で退職金も出ないという処分が「重すぎる」と多くの同情の声につながった。本当に処分は妥当だったのか。

「他にも多数の懲戒処分歴があった場合や、犯罪が社会に与える影響が大きい場合には、懲戒免職という重い処分となる場合もあります。ただし、今回は少額のコーヒーの窃盗であるため、処分の取消しを訴えれば、結論が変わる可能性も考えられるでしょう」と荒木弁護士は指摘した。

公務員が処分の取消しを訴える場合、どのような対応をすることになるのか。荒木弁護士は「人事委員会または公平委員会に審査請求をするという手段が考えられます」と説明した。

会社員の場合はどのような処分が考えられるのか

では、会社員が何らかの犯罪を行ってしまった場合、会社内ではどのような処分が考えられるのか。やはり同じように、懲戒解雇もあり得るのか。荒木弁護士は「懲戒解雇も十分あり得る」としたうえで、以下のように見解を述べた。

「例えば、就業規則の中で、『有罪判決を受けたときに解雇となる』旨が規定されていて有罪判決となった場合や、実名報道されて会社の名前が出てしまい、それによって会社に大きな損害を与えることになってしまった場合には、解雇となる可能性が考えられます」

このように、懲戒解雇となるには一定のハードルはあるものの、犯罪の性質によっては、解雇となることも有り得るとのことだ。

「大丈夫?」軽く考えがちな行為

なお、犯罪の中でも、比較的軽い犯罪については、軽犯罪法第1条において33の行為が記載されている。その中から、つい軽く考えがちな行為をいくつかピックアップする。

  • 人が住んでいない建物などに無断に入り隠れる
  • 正当な理由なく合いカギ、ガラス切りなどの侵入器具を隠して携帯する
  • 劇場や飲食店などの公共の場や、電車や飛行機などの公共交通機関で周囲の人に対し、著しく粗野または乱暴な言動をする
  • 周囲に燃え移らないように相当の注意をすることなく、建物や森林などの付近でたき火をする
  • 街路や公園などでたんつばを吐く、大小便をする

過去を振り返り、少し背筋が伸びた人もいるかもしれない。もちろん、上記のいずれかの行為を行ったとしても、必ずしも逮捕されるとは限らず、即解雇となることは現実的ではない。解雇の要件について、荒木弁護士が補足する。

会社が解雇をする要件とは

「会社が従業員に対して何らかの処分を行う場合、過去の処分歴や勤務態度など、さまざまな事情を踏まえたうえで検討することになります。もし従業員を軽微な犯罪事実で解雇してしまったら、法的に無効となる可能性が高いでしょう。解雇は最も重い処分ですから、会社としては慎重に判断することになります」

では、もし解雇されてしまった場合、争うことはできるのか。「交渉だけでなく、民事訴訟や労働審判といった方法によって、処分を争う手段が考えられます。いずれも解雇の相当性があったかという点が争点になることが多く、解雇の相当性がなかった場合には、解雇は無効になります」と、そもそも解雇のハードルは高く、争うことは十分に可能とした。

「バレないからいい」の考えに潜む大きなリスク

冒頭で挙げた”コーヒー万引”事件では、少額の窃盗事件という比較的軽微な犯罪に対して、懲戒処分という処分の重さが同情の声をあふれさせた。だが、大事なことは、社会生活を送る中で、「当たり前にやってはいけないことはやらない」ということを意識すること。今回の校長懲戒免職事件は、そんなことを考えさせてくれたのかもしれない。

荒木弁護士は、最後にこのような言葉で助言した。

「今回のように『バレないから良いだろう』と考えて窃盗行為などを行ってしまうことには、大きなリスクが伴っていると認識しておく必要があります。被害店舗に損害を与えてしまうだけでなく、刑事罰や懲戒処分などで自らの生活も大きく変わってしまう可能性があるわけです。法律を守るという以前に、社会人としてどうあるべきか。そのことを常に意識して日々誠実でいることが、今回のような厳しい処分を受けないために、最も大切な姿勢だと思います」

取材協力弁護士

荒木 謙人 弁護士

荒木 謙人 弁護士

エイトフォース法律事務所代表弁護士。慶應義塾大学法学部3年次修了後、飛び級により退学。慶應義塾大学法科大学院修了。相撲、ボクシング、空手など数多くの格闘技経験を有する傍ら、プライベートでは保護ねこ・保護いぬを飼う「もふもふ弁護士」。専門分野は、中小企業法務、不動産取引、刑事事件等。スポーツ法務など企業向け講演経験多数。

所属: エイトフォース法律事務所

  • この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。

編集部からのお願い

情報提供をお待ちしております

この記事をシェア