「万引きGメン」が万引き容疑で逮捕のお粗末… 「使命感だけは食べられない」キャリア25年以上のすご腕が語る保安員のリアル事情

弁護士JP編集部

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「万引きGメン」が万引き容疑で逮捕のお粗末… 「使命感だけは食べられない」キャリア25年以上のすご腕が語る保安員のリアル事情
万引きGメンは万引きと紙一重の場所にいるが(IYO / PIXTA)

万引き犯を捕まえたら、万引きGメン(私服保安員)だった――。17日に岡山市内で窃盗の疑いで逮捕された63歳の容疑者の職業に、ネット上では「ミイラ取りがミイラ」「コントじゃないか」と冷笑が浴びせられた。万引きGメンとして、これまでに6000人を超える万引き犯を捕捉してきた万引き対策専門家の伊東ゆう氏は、この容疑者を「あまり低レベルだ」と酷評した。

ベテラン保安員が最も問題視した点

筋金入りの万引きGメンの分析は、さすがの鋭さだった。伊東氏が最も問題視したのが、容疑者が担当するスーパーの店長に目をつけられていたという点だ。

「詳細は報道レベルでしか把握していませんが、私が気になったのは逮捕が店長による通報だったという点です。万引きGメンがうまくやっていくうえでなにより重要なのは店との信頼関係。ところが容疑者は店長から怪しまれていた。その時点で保安員としてのレベルが疑われますし、そもそも防犯カメラに映っていたというのがお粗末極まりないですね」

報道では他の万引きGメンが同店で成果を上げている中で、容疑者の男は全く万引き犯を捕捉できず、店長に不審に思われていたという。そこで、店長が容疑者の勤務日に防犯カメラを確認しているとそこに容疑者の窃盗シーンが映っており、逮捕につながった。

「普通は万引き犯がコンスタントに捕捉される店舗ならまじめにやっていれば、成果は出るものです。顕著に成果を出す人には指名が入ったりもします。容疑者の経歴はわかりませんが、キャリアが浅かった可能性はあるでしょうね。成果が出ず、店や派遣元からのなんらかの”圧”も感じていたはずです。そうした力が変な方向に作用した可能性もあるでしょう」と伊東氏は推察した。

万引きGメンの使命感・責任感

それにしても、保安員は犯罪を防止する仕事。そこに対する責任感、使命感はないものなのか。「もちろん使命感や正義感から保安員になる人がほとんどですが、窃盗犯を捕まえる過程を楽しみ、自己満足的な達成感をモチベーションにしている人も多いです」(伊東氏)

そのうえで伊東氏は、万引きGメンはその”特権”をいくらでも悪用可能とも証言する。実際、今回の事件の容疑者は余罪を明かしており、常習だった可能性もある。

「万引きGメンは店員の顔、混雑時間、すいている時間、防犯カメラの位置、防犯上の死角など、万引きがばれないための情報をすべて把握しています。そのうえで窃盗犯を捕捉する役割を担っている。おまけに客のふりをして商品をかごに入れたり、休憩で中抜けしたりすることも可能ですから、やろうと思えばいくらでもできます」と伊東氏は明かす。

だからこそ、保安員にとって店との信頼関係がなによりも重要になる。”特権”を悪用せず、窃盗犯の捕捉に全力を注ぎ、コンスタントに結果を出す。それが保安員として認めてもらえる「全て」なのだ。

待遇面で厳しい実情も

高次元のプロフェッショナリズムが求められる職業である一方で、待遇面では厳しい実情があるという。

「この仕事だけでは食べていけないですね。賃金は低く、最低賃金レベルですよ。だから優秀な人材は集まりません。若い人からは敬遠され、高齢者が多くなります。ただ、やはり、若い年齢のほうがスキルは身につきやすいですし、店側もそういう保安員に対して安心感がありますよね」(伊東氏)

今回の事件の容疑者は63歳。万引きしたのは300円前後の日用品類だった。取り調べに対し、容疑者は「所持金を使いたくなかった。自分だけ得をしようという気持ちで盗んだ」と語ったというが、なんともわびしさが漂う。

“人をさす仕事“だからこそ常に高い意識が必要

現役の保安員としてもいまも現場に立つ伊東氏は並行して、培ったノウハウを店舗での万引き対策のために注ぐ活動も精力的に行っている。全ては世の中から万引き被害を可能な限りなくしたいという想いからだ。

「保安員の仕事は、“人をさす”仕事です。だから人から後ろ指をさされないように普段から気をつけましょうと言いたいですね。いまはどこにでもカメラが設置されている監視社会。それを忘れて気を緩めるのが”魔が差す”ってことじゃないですか」

容疑者の63歳の保安員に魔が差したのかは分からない。だが、店舗における万引きの死角を把握していなかったことが、保安員として致命的だったのは確かといえそうだ。


伊東ゆう
万引き対策専門家、万引きGメン。およそ25年に渡って6000人を超える万引き犯を捕捉してきた経験を有する現役の保安員。「万引きGメンは見た!」(2011河出書房新社)を上梓すると大きな話題を呼び、多数のメディアで特集された。現役にこだわり現場で活動する一方、「店内声かけマニュアル」(香川大学、香川県警)「セルフレジサポーター育成マニュアル」(同)の企画制作、監修を手掛けるなど、万引きの未然防止対策に情熱を傾ける。現在、一般社団法人ロスプリサポートセンター代表理事。映画「万引き家族」(是枝裕和監督)の制作協力、テレビ出演も多数。
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