「セルフレジ」“万引き対策”の悩ましさ… 海外で「導入見直し」加速も有益な活用へのヒント

弁護士JP編集部

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「セルフレジ」“万引き対策”の悩ましさ… 海外で「導入見直し」加速も有益な活用へのヒント
精算時に店員の”目”がなくなることで万引きを誘発してしまう(maroke / PIXTA)

コンビニやスーパーの精算でセルフレジを使うことはもはや、当たり前の選択肢の一つになりつつある。使い慣れた人なら迷わずセルフレジレーンへ進み、店員並みの手際のよさで精算を終えていく。

うまく機能すれば、店舗側は人手不足、ユーザーはレジ渋滞をそれぞれ解消してくれるセルフレジ。ところが、日本に先立ち、導入を始めた欧米のスーパーをはじめとする小売店舗でいま、セルフレジを見直す動きが加速している。

欧米小売りでは「期待外れ」とセルフレジ見直し加速

米ウォルマートは盗難抑止のために一部店舗でセルフレジを撤去、同国食品スーパー大手のクローガーはセルフレジのみの店舗に有人レジを復活させた。

さらに同国Targetはセルフレジの使用に購入品数の制限、英国のスーパーマーケットチェーン「ブース」は顧客からの「遅い」「信頼性が低い」といった声の多発に心痛…。当初の思惑と逆行する期待外れの展開に、欧米のスーパー各社がその活用の縮小や見直しを検討しはじめている。

こうした潮流の背景には、セルフレジが人員不足を補完し、生産性を高める画期的なテック化との期待が大きかったからだ。残念ながら、いまのところ人手不足の解消に対しては、万引きを含むトラブル多発による対応負荷の増大、そもそも店舗で顧客からセルフレジが選ばれないなどの理由から十分に活用されず、投資に対するリターンをほとんど得られていない…。

”万引き研究者”は欧米の潮流を「当然の帰結」

万引きを専門的に研究する香川大学准教授の大久保智生氏は、こうした欧米の潮流をクールに分析する。

「セルフレジが万引きを誘発することはハッキリしています。そうなれば、その対応や手続きなど、かえって労働負荷が増します。“万引き対策”に限っていえば大事なのはハードではなく、ソフト、つまり人なんです。海外も日本も、研究で最も効果があるのはソフト面の対策であることが示されています。ですからいまの欧米のセルフレジ見直しの動きは当然の帰結ですね」

では日本はこれからどうなるのか。いまのところはセルフレジに対して、欧米のようなネガティブな動きはみられない。それでも、全国スーパーマーケット協会が発表している「セルフレジの設置状況」(22年)によると、「新たに設置したい」「設置数を増やしたい」はそれぞれ22.6%、13.3%、「どちらともいえない」「意向なし」がそれぞれ35.6%、28.2%で、後ろ向きなスタンスが多く、導入には消極的な印象だ。

豪腕万引きGメンは日本でのセルフレジは「ズルズルと続く」と予測

小売りの現場を熟知し、これまでに6000人以上の万引き犯を捕捉してきた現役保安員の伊東ゆう氏は「事なかれ主義の日本は、セルフレジが万引きを誘発すると分かっていても、長い物には巻かれろで、とりあえずそろえておこうとズルズル設置は続けるでしょう」と、統計データではぼやけていた部分をズバリ代弁。欧米のような見直しこそ起こらないものの、特に大手スーパーを中心に日本では中途半端なセルフレジ活用が続くと予測した。

そうした中で、活用するならセルフレジの価値を最大化しようとする動きもある。

完全無人の都内書店の実力は?

東京メトロの溜池山王駅へ向かう地下通路の一角にこじんまりとたたずむ「ほんたす ためいけ」。日本出版販売が運営する完全無人の書店だ。15坪ほどの店内は、小さなコンビニといったサイズ感ながら、約4,000種類の書籍やコミック、雑誌が無駄なく陳列され、無人であることが逆にショッピングに優越感を抱かせる。

地下鉄連絡通路内にある同店はここまでトラブルもなく、順調に推移しているという(写真提供/日本出版販売)

入退出は、事前にLINE登録することで入手できる二次元バーコードを出入り口でかざすことで可能だ。逆にいえば登録していなければ、入店はできない。これが一次関門となって、万引き対策として大きく機能する。

店内にはカメラが7台設置され、常時、ショッピング中の動向をモニタリング。といっても仰々しさはなく、圧迫感はない。購入時は、出口手前にある読み込み機に本のバーコードを読み込ませ、入店時に使ったスマホでキャッシュレス決済する。

実際に利用してみたが、入退出はスムーズに行え、こじんまりした店内は本を探しやすく、精算もコンビニでセルフレジの経験があればもたつくことはない。隙間時間にサクッと本を購入するには申し分のない使い勝手だった。

登録者は想定超える7000人以上で万引きもゼロ

運営する日本出版販売のマーケティング推進部開発課・南氏はこれまでの状況について次のように明かす。「2023年の9月のオープンから累計1万人超にご来店いただいております。会員数は7000人を突破し、想定以上です」

躊躇する人もいるといい、課題は「入りやすさ」を挙げる(写真提供/日本出版販売)

気になる万引き被害やトラブルなどについても「完全無人ですが、オープン以来そうしたことはありません。お客さま自身が”無人店舗と割り切って”努力”してくださっているおかげもあると思います」と南氏。その上で、万一、万引きが発生した際は「店内の7台のライブカメラで犯人を特定し、該当者の会員証を入店拒否設定にするなどで再発を防止することになります」と説明した。

万引きGメンが提示する有益なセルフレジとの向き合い方

こうした小型の完全無人店舗について、前出の伊東氏は「この書店の事例は(ビジネス街でもある)溜池山王という場所が大きなポイントといえます。これが少し治安の悪い場所になってくると、結果は変わってくるでしょう。加えて商品の価格帯が上がるとリスクも増大します。また、本当はより大きな店舗でないと、それなりに投資している分、十分なリターンは得られにくいハズです」と一定の評価をしつつ、課題も示した。

効率的にサクッとショッピングを済ませたい人にとって、セルフレジや完全無人店舗は便利でありがたい存在。一方で、万引き犯にとっては、別の意味で”都合のいい存在”となっている。ここが精算の無人化が抱える悩ましすぎる問題だ。

小売りの現場で数多くの万引き犯を捕捉してきた伊東氏がいう。

「セルフレジにせよ無人店舗にせよ、導入すればどうしても”人目がなくなる時間”が増える。それは結局、万引きの機会を増やすことでもあるんです。万引き犯はその瞬間を狙っていますから。だからこそ、人の力が重要なんです。導入店舗はセルフレジありきでなく、あくまでも店員の補完ツールのひとつとして捉え、うまく融合させることをしっかりと意識すべきです。そうした発想の中に本質的な万引き対策のヒントが詰まっています」


伊東ゆう:万引き対策専門家、万引きGメン
およそ25年に渡って6000人を超える万引き犯を捕捉してきた経験を有する現役の保安員。「万引きGメンは見た!」(2011河出書房新社)を上梓すると大きな話題を呼び、多数のメディアで特集された。現役にこだわり現場で活動する一方、「店内声かけマニュアル」(香川大学、香川県警)「セルフレジサポーター育成マニュアル」(同)の企画制作、監修を手掛けるなど、万引きの未然防止対策に情熱を傾ける。現在、一般社団法人ロスプリサポートセンター代表理事。映画「万引き家族」(是枝裕和監督)の制作協力、テレビ出演も多数。

大久保智生:香川大学教育学部准教授
早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。博士(人間科学)。専門は教育心理学・犯罪心理学。これまでに日本教育心理学会城戸奨励賞、日本教育心理学会優秀論文賞、日本犯罪心理学会研究奨励賞、日本ホスピタリティマネジメント学会奨励賞、キッズデザイン賞少子化対策担当大臣賞など受賞多数。主な著書は「万引き対策に関する調査と社会的実践」(ナカニシヤ出版)、「実践をふりかえるための教育心理学」(ナカニシヤ出版)など。
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