コロナ禍で急増「絵本読み聞かせ動画」“善意”のアップロードでも逮捕の可能性

弁護士JP編集部

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コロナ禍で急増「絵本読み聞かせ動画」“善意”のアップロードでも逮捕の可能性
子どもたちに長く読み継がれている絵本「だるまさん」シリーズ(写真:弁護士JP)

近年、YouTubeなどの動画投稿サイトにアップロードが急増している「絵本の読み聞かせ動画」。家事などで忙しい子育て世代の支持を受け、10万回アクセスを超える動画もあるほどその人気は定着しつつある。

動画編集などの特別な技術がいらない読み聞かせ動画は、撮影後すぐにアップロードが可能だ。そんな気軽さに加え、コロナ禍での在宅時間の増加により需要も増えたことが、「絵本の読み聞かせ動画」が広がった一因だろう。

しかし、その一方で著作者や出版社の許可なく投稿された「無断アップロード」の動画も後を絶たない。

3年間で1000件以上の削除申請

国内外の絵本を数多くリリースしている出版社「ブロンズ新社」の広報担当・森さんによると、2019年2月から現在(2022年3月)までの3年間でおよそ1070件におよぶ無断アップロード動画の削除申請を行ったという。

『だるまさんが』かがくいひろし作(ブロンズ新社)

ブロンズ新社の看板絵本のひとつ、「だるまさん」シリーズ(かがくいひろし作)の読み聞かせ動画で収益を得ていたアカウントを中心に10件ほど対応したのが最初だ。以後、定期的にパトロールを続け、無断アップロード動画の削除申請を行っているという。 3年前といえば新型コロナウイルスの感染拡大前だが、コロナ禍になって無断アップロード動画の数は増えたのだろうか。

森さんは「増えた」としたうえで、「以前は収益化を狙って絵本をアニメーションに加工するなど悪質な動画がめだちましたが、コロナ禍になってからは会えない子どもたちのためにと一般の方が絵本を映しながら読むという動画が多くなった気がします」と内容の違いを指摘する。

また、同社の絵本のキャラクターを無断で使用したエプロン・手袋シアターやパネルシアター(※1)などを作成しフリマサイトで販売する悪質な出品者も、無断アップロード動画と同時期に散見されるようになり、こちらの対応も行っているという。

フリマサイトで販売される手袋シアター(※画像は編集部で加工しています)

(※1)手袋やエプロン、布製のパネルなどを用い、物語を人形劇として再現すること。それに使われる道具。主に保育の現場で使われる。

「ファスト映画」と同罪か?

無断アップロードといえば思い出されるのは、逮捕者も出た「ファスト映画」だ。映画を勝手に短く編集し、ナレーションなどをいれて解説する動画である。時事通信社の取材に「映画界に貢献していると思っていた」と語った動画投稿者がいたが、いくら善意があったとしても、著作権侵害は著作者や製作者が正当に受け取るべき報酬も取り上げ、長い目で見れば業界自体を衰退させかねない行為だ。

荒居聖弁護士は、「絵本の読み聞かせ動画」の投稿者も「ファスト映画」の投稿者と同様に逮捕されることもあり得ると注意を促す。

「著作権上、著作者の許諾を得ないままインターネットで読み聞かせ動画を配信すると、公衆送信権と複製権の侵害となり、10年以下の懲役、もしくは1000万円以下の罰金、またはその両方が刑罰として科されると定められています(著作権法119条)。

オンラインでの読み聞かせは、インターネットなどで著作物を伝達することを著作者に専有させる権利である公衆送信権(著作権法23条1項)を侵害することとなります。

また、『読み聞かせ動画』を配信するためには、撮影した映像や録音した音声を変換処理するなどして、サーバーに電子的に保管・蓄積する必要があります。このサーバーへの電子的な保管・蓄積行為が、著作者の複製権(著作権法21条)を侵害することになります。

したがって、『ファスト映画』の投稿者から逮捕者が出たように、著作者の許諾を得ない『絵本の読み聞かせ動画』の投稿者から、逮捕者が出ることも考えられます」

刑罰は執行猶予の有無も含め、「投稿した動画の数、動画へのアクセス数、出版社の被った損害などによって決まると思われる」(荒居弁護士)というが、「ファスト映画」では逮捕された配信者の1人には、懲役2年、罰金200万円、執行猶予4年という判決が下されている(※2)。

(※2)一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構サイト「『ファスト映画』アップロード、3名に有罪判決」より

読み聞かせ動画で訴えられないために

子どもたちや、忙しい保護者のために読み聞かせ動画をアップロードしたいと考えた人は、どうすればいいのだろうか。実は正規に許可申請をすることで、刑罰に問われる可能性を回避できる。

ブロンズ新社をはじめ各出版社のサイトほか、一般社団法人日本書籍出版協会のサイトなどでは、読み聞かせ会などで絵本を使用したい人のための「著作物利用許可申請書」をダウンロードできるようになっている。この申請書を出版社に送付すれば、動画上であっても絵本を使用できる可能性があるのだ。

申請があると、出版社は著作権者である著作者や遺族らに連絡をとり、許諾の可否や条件(使用料や、公開可能範囲)などを確認する。許諾の可否や使用料については、全て著作権者の考え方次第で、出版社が決定するわけではない。

森さんは「オンラインでは読み聞かせしてほしくないという著作者もいますし、すべての申請書に目を通してから判断したいという著作者もいます」と著作者それぞれの考え方によって回答が異なることへの理解を求め、まずは申請をしてほしいと呼びかけた。

動画では伝わらない‟読み聞かせ”の良さとは

子どもにYouTubeの絵本読み聞かせ動画を見せることも、保護者が直接読み、聞かせることも同じ行為には違いない。しかし、動画や音声は再生ボタンを押せば毎回同じ声に同じ演出、読み手の表情が見えないことも多い。森さんはそこに違和感を持っているという。

「保護者の方に読んでもらうと毎回違うと思うんです。『今日ちょっとお母さん疲れてるな』とか、子どもも親もお互いのことを感じ取ることができる。そういう経験が子どもにとってとてもいいことなんじゃないかと思っています」(森さん)。

子どもと大人のコミュニケーションのツールにもなりえる「読み聞かせ」だが、著作者の許諾を得ず気楽にアップロードした動画が、トラブルを生んでしまう可能性もあるので注意が必要だ。

日本児童出版美術家連盟による「『読み聞かせ』こんなとき、どうする?」はこちら

取材協力弁護士

荒居 聖 弁護士
荒居 聖 弁護士

所属: ベリーベスト法律事務所 八王子オフィス

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