「トレパク」言いがかりで迷惑行為を受け続けた『少女革命ウテナ』監督勝訴 業界に横行する“逆恨み”嫌がらせへの抑止なるか

杉本 穂高

杉本 穂高

「トレパク」言いがかりで迷惑行為を受け続けた『少女革命ウテナ』監督勝訴 業界に横行する“逆恨み”嫌がらせへの抑止なるか
判決後に会見に臨む幾原邦彦監督と平野敬弁護士(12月13日 東京都内/弁護士JP編集部)

『少女革命ウテナ』や『輪るピングドラム』などの作品で知られる、アニメーション監督幾原邦彦氏が原告となった「トレパク冤罪」被害訴訟の判決が12月13日、東京地方裁判所立川支部で言い渡され、被告の女性に対し、名誉毀損および業務妨害に関する慰謝料121万円の支払いが命じられた。

被告はTwitter社がDMCA※申請に応じたことが、盗作の事実を示しているなどと主張していたが棄却。原告側の主張がほぼ認められた形となった。

※デジタルミレニアム著作権法(米)のこと。盗用コンテンツをWebサイトに投稿したプロバイダーに対して、著作権保有者が著作権侵害の申し立てを行う。

原告の同監督と平野敬弁護士は同日、霞が関の司法記者クラブの会見を行った。

繰り返される嫌がらせ…判決までの経緯

幾原監督は2022年、アニメ関係者の知人らと音楽バンドを結成。そのバンドの宣伝イラストをTwitter(現・X)に投稿したところ、被告の女性が著作権侵害であると主張し、嫌がらせが始まった。

DMCA申請によってバンドのアカウントを休止させ、CD発売元にも嫌がらせメールを多数送るなどして、ライブイベントを中心に追い込んだ。

幾原監督は被告に対し内容証明を通じて、「主張には同意できずイラストの削除等にも応じられない」と伝えたが、被告は内容証明郵便をSNSに投稿し、被害者のポジションをとり続けたという。その後も誹謗中傷は悪化の一途をたどり、幾原監督は警察に相談し、巡回保護してもらうことになった。

放置していても被告の言動が収まる気配を見せなかったことから、名誉毀損と業務妨害で訴えることを決意。昨年6月に総額330万円の損害賠償額で提訴をした後も、出版社など監督と関係のある会社への嫌がらせがエスカレートしていったので、今年1月、訴額拡張で110万円を賠償金に追加した。

今年8月から10月にかけて本人質問を実施、12月13日に判決言い渡しとなった。

嫌がらせメール総数は「電話帳一冊分」にも

被告は、自らの主張のために、音楽バンドの宣伝イラストと被告自身のイラストや写真などを重ねたデータを監督に送りつけているが、まるで線が重なっておらず、トレースとは言えないものばかりだ。

原告音楽バンドのイラストと被告のイラスト(画像:原告提供)
被告が作成した重ね合わせ画像(画像:原告提供)

判決でも、「本件画像(音楽バンドの宣伝イラスト)と本件被告画像(被告のイラストや写真)は一見して類似するとは言えず、(中略)本件画像が本件被告画像の複製又は翻案に当たるということはできず、本件画像が被告の著作権を侵害するとは認められない」と断言されている。

なお、被告から監督あてに送られてきた嫌がらせメールは「電話帳一冊分くらい」(幾原監督)になるといい、監督の取引先にも攻撃を行っていた。こうした被告の行動について、幾原監督は会見で「取引のある会社に攻撃を行えば、自分の主張が通ると思っている。(被告は)常習犯で成功体験を重ねていて、こうすれば(相手が)困るだろうと自覚していると思う」と語った。

「この勝訴を業界全体で共有したい」

近年、ネット上では「パクられた」という被害者意識にもとづく迷惑行為が横行しているという。

こうした事例は「創作の世界では昔からあった」(幾原監督)というが、近年はSNSによって著名人との心理的距離が近くなったことで増加しているそうだ。幾原監督は「実際に私の知人でも同様の被害を経験した人がいる」と訴えた。

小説を盗作されたと逆恨みすることで犯行に及んだ京都アニメーション放火事件が有名だが、編み方をマネされたと言いがかりをつけられ、DMCA申請されたユーチューバーが広告収入を失った「編み物ユーチューバー事件」、ベテラン漫画家がイラストレーターに盗作だと難癖をつけた事件など、話題となる事件が相次いでいる。これらを受け幾原監督は「訴訟で毅然とした態度を示す」ことで、類似の事件を防ぎたいと訴訟に踏み切ったと話す。

「こうしたケースは対応が難しく、相当数の類似被害があるはずだが、どう対処すべきかわからないので泣き寝入りになってしまうことが多い。今回のように、(訴訟になれば)負けることはないので、同業者に(今回の勝訴を)知ってほしい。業界全体に同様の迷惑行為から逃げず戦うという考え方が広がってほしい」(幾原監督)

判決がクリエイティブ業界全体にまん延する“類似の事件”の抑止になればと語る幾原監督(12月13日 東京都内/杉本穂高)

また、幾原監督は「本来なら裁判はやりたくなかった」とも述べ、「正直に言えばクリエイターとしてダメージを受けた。ある会社からは、他のクリエイターにまで飛び火する可能性があるから表立って応援できないと言われた。こうした訴訟を抱える人物から距離をとろうと考える会社が出るのは理解はできる」と自らが置かれた立場についても振り返った。

なお、今後については刑事事件化も考えているといい、「ネットでのつきまとい行為としてストーカー防止法の適用や業務妨害の事実が認められるのではないかと考えている。今後は警察と裁判結果を共有して、対策を相談していくつもりだ」と話した。

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