妻と結託 “不倫相手”へ「慰謝料請求」も最高裁で逆転された“ロクデナシ夫婦”の誤算

妻が、旦那の浮気相手に慰謝料請求しました。

最高裁
「ふむ。2か月間、肉体関係を持っていたようだね」

Q.
慰謝料はいかほどで？

最高裁
「ゼロ！ 妻の負けです」
「妻と旦那さ〜、チミたちムチャしすぎ」
「権利の濫用だからダメ」
（最高裁H8.6.18）

なぜ妻が負けたのか？ 以下、分かりやすく解説します。（弁護士・林 孝匡）

※ 判決を簡略化した上で本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換しています

登場人物

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▼ 妻
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・旦那の浮気を嗅ぎつけた？
・2人の子どもがいる

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▼ ロクデナシ男
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・ロクデナシ男（仮名）
・Y子と肉体関係を持つ

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▼ Y子
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・シングルマザー
・16歳くらいの娘がいる
・居酒屋を営業して生計を立てる

どんな事件か

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▼ ロクデナシ男とY子の出会い
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ロクデナシ男がY子の店に行きました。はじめは週1くらいのペースで通っていました。

しかし、9か月くらいたったあと、パタリと来なくなりました。Y子にハマっていれば通い続けると思うのですが、なんと！ Y子の店が入っているビルの2階にあるスナックのホステスと、半同棲の生活をしていたのです（5か月ほど）。

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▼ 妻も来店
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なんと同じ時期、妻もY子の店に行ってます。ロクデナシ男がホステスと半同棲生活をしていることに嫌気がさしたのでしょう。

毎晩のようにお店に行き、Y子に「ロクデナシ男との仲は冷めている。来年くらいに離婚する」とグチをこぼしていました。

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▼ ロクデナシ男の口説きが始まる
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スナックのホステスと別れたのでしょうか。ロクデナシ男がY子を口説き始めます。「本気で考えているのはオマエだけだ。付き合ってほしい。真剣に考えている。妻も別れることを望んでいる」と毎日のように口説きました。

Y子は当時、すい臓の病気になって精神的に落ち込んでいたので、徐々にロクデナシ男に心が傾いていきました。

そして口説き始めて2週間後。ロクデナシ男は「妻とは別れる。それはオマエの責任ではない。俺たち夫婦の問題だから心配することはない。オマエは一生懸命に病気を治せばいい。病気を一緒に治して行こう」と話しました。

Y子はその言葉を信じ、ついに肉体関係を持ちました。

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▼ 結婚に向けて準備を進める
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Y子は、ロクデナシ男を自分の子どもや母、姉妹らに会わせるなど結婚に向けて準備を進めました。

しかし！ ロクデナシ男は妻との離婚に向けてまったく動こうとしていなかったのです（ロクデナシ男と命名されたゆえんです）。

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▼ 妻、動きます
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ロクデナシ男のプロポーズから約2か月後。妻がY子の自宅に乗り込みます。

そして妻はY子に向かって「慰謝料として500万円もらう。500万円さえもらったら、うちの●●くん（ロクデナシ男）あげるわ。うちの●●くんはママをひっかけるのなんか簡単よ」という趣旨のことを言い放ちました。

Y子は「私はロクデナシ男にダマされていた...」と気づかされました。

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▼ 3人の話し合い
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翌日、3人で集まり話し合いが行われました。4時間にも及ぶ激戦です。3人のスタンスは以下のとおり。

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■ 妻の言い分
・ロクデナシ男に対して子どもの養育費や慰謝料を要求（私見：これは形だけのパフォーマンスでしょう）
・Y子に対して慰謝料500万円を要求

■ ロクデナシ男の態度
・「妻の好きなようにせよ」という態度

■ Y子
・終始沈黙
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▼ ロクデナシ男が恐喝まがいの行動に
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その翌日。午後10時ごろ。ロクデナシ男がY子の店に行きます。ほかにお客さんがいるのに「オマエ、男欲しかったんか！ 500万言うてん！ まだ持ってけえへんのか！」と怒鳴りました。

（いやいや、アンタは500万円請求できないよ...）

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▼妻も恐喝まがいに
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その3日後。妻もY子にTELして500万円を要求しました。20分後にはY子の店に行き、客が満席の状況なのに怒鳴って嫌がらせを始めました。

さらにロクデナシ男も店に来ます。山口百恵の「絶体絶命」の歌詞でこんな場面がありましたよね。浮気がバレた「彼」↓

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そこへ彼　遅れて来た彼
ふたりとも　落ちついてって言ったわ
三人模様の絶体絶命〜 ♪
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これ、男性が遭遇したくないシチュエーション、有史以来ブッチギリでNo.1ですよね。

さて、ふつうなら上記の歌詞のように仲裁に入るのですが、ロクデナシ男は一味違いますよ。妻の横に立ち「俺は関係ない」と言いながらニヤニヤ笑うだけでした（なにしに来たんや）。

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▼ 傷害事件発生！
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Y子は支払いを拒み続けたのでしょう。およそ3か月後。 ロクデナシ男は、チャリに乗っていたY子に暴行を加えて加療約1週間の傷害を負わせました。Y子が告訴。 ロクデナシ男は罰金5万円の刑に処せられました。

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▼ 妻が訴訟を提起
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妻がY子を訴えました。「私のロクデナシ男と肉体関係を持ったから慰謝料を払ってほしい」というものです。

ジャッジ

2度のチャブ台返しの末、最高裁は「妻の負けね。Y子は払わなくてよろし」と判断しました。チャブ台返しの経緯は以下のとおり。

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▼ 地方裁判所
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妻の負け！ Y子は払わなくてよろし

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▼ 高等裁判所
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いやいや、妻の勝ち。Y子は妻に慰謝料110万円払え。

Y子は衝撃だったでしょう。「あいつらにダマされたのになぜ私が負けるの」と怒りに震えたと思います。Y子はラストチャンス（上告）に賭けます。以下はY子の上告理由から引用しました。

この熱き思いが最高裁に届くか！？（ちなみに ロクデナシ男はY子から損害賠償請求訴訟を提起されて200万円払うとの和解が成立しました〈月2万円〉。が、そこはロクデナシ界の日本代表。2回だけ分割金を払って連絡を途絶えさせています）

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▼ 最高裁判所
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最高裁は「妻がY子に損害賠償請求することは、信義誠実の原則に反し権利の濫用として許されない」と判断しました。

伝家の宝刀とも言われる「権利の濫用ダメ」が出てきました。権利の濫用と判断した理由は以下のとおりです。

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・妻がY子に「 ロクデナシ男が他の女性と同棲している」「夫婦仲は冷めている」「来年には離婚するつもりだ」と話していた。

・それを聞いたこともありY子は、 ロクデナシ男からプロポーズを受けた時、将来結婚できると考えた。

・妻はY子に上記のことを伝えていたのに、2人の関係を知ると慰謝料500万円を要求し始めた。

・口頭の要求だけでなく、Y子の店で嫌がらせもした。

・ロクデナシ男はY子に暴力も振るった。
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最後に

「権利があるんだぞ！」と調子こいて今回の夫婦のようなムチャをすると裁判所はブチギレる可能性があります。

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民法1条3項
権利の濫用は、これを許さない
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今回2度もチャブ台返しがあったように、裁判官によってブチギレる沸点が違います。

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地裁：ブチギレる（Y子の勝ち）
高裁：まぁまぁまぁ、不倫したY子の負けでしょ
最高裁：ブチギレる（Y子の勝ち）
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【裁判は出たとこ勝負】と言われるゆえんです。

おまけ

【妻が旦那の浮気相手に慰謝料請求できない】ケースって、まだあるんです。夫婦関係がオワっていた場合です（夫婦関係が破綻していた場合）。

詳しくはコチラをご覧ください
→夫がスナックの女性と不倫、子ども生まれ認知も…「慰謝料請求」が認められなかった“妻の誤算”

今回は以上です。いつもは労働関係の知恵をお届けしてます。またお会いしましょう！