自動改札“割り込み”きっぷ窃盗犯にあ然…「ドロボー!!」と叫ぶのが正解?

弁護士JP編集部

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自動改札“割り込み”きっぷ窃盗犯にあ然…「ドロボー!!」と叫ぶのが正解?
“きっぷ窃盗犯”が改札近くに潜んでいる可能性も…(αR / PIXTA)

7月上旬、「東京駅・東海道新幹線の自動改札できっぷを入れた瞬間に割り込まれ、出てきたきっぷを奪われ逃走された」という内容のツイートが話題となった。

リプライには「同じような被害に遭ったことがある」という声のほか、対策として「チケットレスにする」「駅員さんに近い改札を利用する」「左手できっぷを入れることで割り込まれづらくする」などのアイデアが寄せられている。

この騒動、JR東海としては確認ができていない状況であるという。万が一、同様の被害に遭った場合の対応や対策について担当者に尋ねると、「ケースバイケースなので具体的に答えることが難しい」とした上で、「もし被害に遭われた場合は、すみやかに駅係員へ報告をしてほしい」と呼びかけた。

改札突破で奪い返そうとすれば「建造物侵入罪」も

もし自分が「改札できっぷを奪われる」被害に遭った場合、法的にはどのような対応ができるのだろうか。鉄道旅行を趣味とする伊藤雄亮弁護士に聞いた。

Twitterで話題となった「改札に割り込み、きっぷを奪って逃走する」という行為は、何罪にあたるのでしょうか?

伊藤弁護士:まず、今回のケースはいわゆる「ひったくり」にあたると思いますので、窃盗罪(刑法235条)に該当することは間違いないと言えます。

Twitterの投稿からは割り込まれたときの動きがはっきりしませんが、もし犯人が改札できっぷの持ち主を押し倒すなど「暴行」によってきっぷを奪った場合は、「強盗罪」(刑法236条1項)が成立する可能性もあります。

万が一「改札できっぷを奪われる」被害に遭った場合、法的にはどのような対応ができますか?

伊藤弁護士:その場で「ドロボー!!」などと叫べば、駅員さんや他の乗客が機転を利かせて、犯人を追いかけ、現行犯人として捕まえてくれるかもしれません。しかし、犯人が人ごみに紛れるなどして逃げられてしまう可能性もあります。

そこで、駅や車内でどのような犯罪に遭った場合でも同じことですが、すぐに駅員(または乗務員)に連絡し、警察を呼んでもらうべきです。警察を呼んでもらったら、可能な限り、被害の状況を正確に、詳しく話すようにしましょう。できれば、犯人の特徴をしっかり覚えていれば、警察としても捜査がしやすくなります。

新幹線ともなれば、防犯カメラもあちこちに設置されているため、警察の捜査によって犯人が特定・逮捕されることも期待できます。

話題となったTwitterのリプライには、被害に遭った場合の対応として「改札を突破して自力で奪い返す」といった意見もありました。このような行為に、法的問題点はありますか?

伊藤弁護士:まず、改札機を無理やり突破して改札内に入ることは、建造物侵入罪(刑法130条前段)に該当する可能性が高い行為です。また、「停車場其の他鉄道地内に妄に立入」る罪(鉄道営業法37条)に該当する可能性もあるのですが、これら2つの罪は法条競合(一つの行為が二つ以上の刑罰法規に触れる場合に、それらの刑罰法規相互間の関係上、そのうちの一つだけが適用されて、他は排斥されること)となり、罪がより重い建造物侵入罪が適用される可能性が高いでしょう。

他にも、改札を突破しようとして改札機を壊してしまえば器物損壊罪(刑法261条)にあたる可能性があります。また、混乱の中で他の乗客にぶつかりケガをさせてしまうと、過失傷害罪(刑法209条1項)にあたる可能性もあります。

 

このように、改札を突破して自力で奪い返そうとする行為には、様々なリスクが考えられます。

改札を突破することに「犯人を追いかける」という事情は加味されないのでしょうか?

伊藤弁護士:ここでポイントとなるのは、刑法上の「緊急避難」という規定です。刑法37条の条文を、まずは確認してみましょう。

  • 第37条
    自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
    2 前項の規定は、業務上特別の義務がある者には、適用しない。

今回のケースは、大事な新幹線のきっぷが奪われそうになっているのですから、「自己の財産に対する現在の危難」があると言える可能性は十分あるでしょう。したがって、緊急避難が成立し、罪に問われない可能性はあります。

しかし、緊急避難が成立するためには、他にも「やむを得ずにした行為」であること、「生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった」こと、などの複数の要件を、すべて満たしている必要があります。

過去に緊急避難の成立が問題となった裁判を見ると、これらの要件を満たすと認められるには、高いハードルがあります。ましてや、被害者の立場から、きっぷを取り返そうとする緊迫した状況で「緊急避難が成立するよう気を付けながら、慎重に行動すること」は、かなり難しいでしょう。

つまり、「犯人からきっぷを取り返すためだということが考慮され、罪に問われない」とは限らないというのが結論です。

「改札できっぷを奪われる」被害に遭わないよう、乗客自身が事前に対策できることはありますか? 先生の趣味である鉄道旅行の経験から、アドバイスをいただけると嬉しいです。

伊藤弁護士:今回話題になった投稿をTwitterで見てみると、「チケットレスを使えばいい」というようなリプライが、ちらほら見られます。私も新幹線のチケットレスサービスを利用していますが、確かに、紙のきっぷと比べれば、被害に遭うリスクは低いのかも知れません。

ですが、チケットレスだからと言って油断していると、ICカードやスマートフォンを奪われる(盗まれる)危険性だってあるわけです。単に「きっぷではなくチケットレスを利用する」というだけでは、根本的な対策とは言いにくいように思います。

結局のところ、たくさんの人が集まるターミナル駅は治安が悪いかもしれないということを意識し、常に手荷物や周囲の状況に気を配ることが、最大かつ唯一の対策法ではないでしょうか。

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