ドラマ好きな弁護士が、あえて突っ込んで楽しむ『石子と羽男』7 ~消費者契約法~
  • 2022年08月26日
  • 不動産・建築・住まい

ドラマ好きな弁護士が、あえて突っ込んで楽しむ『石子と羽男』7 ~消費者契約法~

石子と羽男の第6話(8/19放送)は、前期のNHKで放映された『正直不動産』で出てきてもおかしくないお話でしたね。そして、私も「告知義務」というテーマについて、しっかりコメントさせていただきました(前コラム)。ただ実は、この手の問題でしばしば告知義務違反という主張と同じくらい重要な手段も、ドラマを見ている中で頭に浮かんでおりまして…。

ドラマの本筋からすると、ここであえて言及しなくても良いかとも思ったのですが、やはり黙ったままではいられない“正直”弁護士として、別に記載することにしました。

告知義務違反として契約の解除や損害賠償などを考えて行く以外の戦い方、消費者契約法について言及していきます。

1. 賃借人いじめの横行 ~誰でも触れる賃貸借契約書は不平等だらけ~

「賃貸借契約」というのは、大学に通うため、あるいは転勤のため、そうでなくとも一人暮らしを始めるためなど、人生の中で触れる可能性が非常に高い契約書です。雇用契約書などと同じく、一般人でも必ず触れそうな法律文書とも言えます。

それだけ多くの人が触れるにもかかわらず、内容は非常に「不平等」なものが多いです。そもそも、保証金とかいろいろよくわからない名目で、最初に一時金を取られます。民法改正で敷金については明文規定も設けられ、民法上もその位置づけが明確になりました。

退去時に、未払いの賃料や、部屋の原状回復などに必要な費用を差し引いて返すお金ということになっています。なので、「敷金」であれば、本来は帰って来ます。ただし、実際は「礼金」、「保証金」など異なる名前で支払いを求めて、全額清算されてしまい、全く帰って来ない内容になっていたりします。一方で敷金だったとしても、油断はできません。「清掃料」といった高額な見積もりのもと、ほとんど返還されないことがあります。

そして、この入り口のよく分からない名目の一時金と並んで問題となりやすいのが、ドラマで出てきた「違約金条項」です。この個別の条項を無効と主張する時に、消費者契約法は使えます。

2. 消費者契約法9条1号と10条

『消費者契約法』は、事業者と消費者の間で結ばれる契約に適用されます。

個人が事業のため以外で契約すれば“消費者”になり、法人が事業のために契約すると“事業者”になります。そのため、多くの一般の人が結ぶ契約に適用可能な法律です。その9条1号と10条が、不平等な条項を無効にするのに非常に広く使えます。まずは条文を見てみましょう。

【消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効】
第9条 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
【消費者の利益を一方的に害する条項の無効】
第10条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

要するに、「9条1号は、契約の解除の際に損害賠償をするとしても、民法の損害賠償はあくまで『損害を補填する』ものであって『違約罰』ではないから、消費者から本来の損害賠償から取れる以上のお金を取る契約をしてはいけません」と言っています。

10条は、「普通の法律より過剰に悪い条件を消費者に契約で押し付けてはいけない」という内容なのですが、「普通の法律」という中に、「一般的な法理等」という、明文で示していない常識ラインも含まれているため(最判平成23年7月15日民集65巻5号2269頁)、どういう時に使えるのかがわかりにくいのです。

上記判例にもありますが、「賃貸借契約の更新に特約がなければ更新料はいらない」といったものも一般的な法理等なのだそうです。この条文を適用する上では、「利益を一方的に害する」として、過剰に悪い条件という評価を得られるかがポイントとなるでしょう。

判例を見てみると、一時金から、“賃料の2倍弱~3.5倍強”くらいの金額を、固定で「損耗費」として差し引く敷引特約は、更新時に1か月分の更新料しかとっていないことなどを踏まえて有効とされた最高裁判決があります(最高裁平成23年3月24日民集65巻2号903頁)。

また、1年ごとの更新の度に、「2か月分の更新料」をとっていた条項について、一義的かつ明確に契約書にも書いてあった点などから、有効としたものもあります(最高裁平成23年7月15日民集65巻5号2269頁)。ここらの判例は、あまり積極的に介入していないですね。深掘りして考えると、賃借人が契約書の文言修正を求める場面はあまり想像できませんが、他の物件や不動産屋を選ぶくらいなら交渉として全然あり得ると思います。

いろいろな条件が選べる中で、そのような交渉ぐらいは、契約書にはっきり書いてあったのだから試みて良いだろうと、保護主義を少し後退させている感があります。

3. 賃料半年分は、平均的な損外ではないだろう

消費者契約法10条の判例は、上記のとおり決して「賃借人有利とも言えない」状況ですが、このドラマだと異なります。なぜなら、解約違約金は、契約解除時の損害賠償の違約金として、消費者契約法9条1号の適用があるからです。「消費者の利益を一方的に害する」のと異なり、「平均的な損害」より多いと言えれば良いのですから、もう少し理屈を立てやすいです。

解約時の平均的な損害とは、「賃借人がいない期間が生じる」ことです。1年や2年、ちゃんと安定収入があるはずだったのにひどい、ということですね。ただ、半年も借り手がいない状況にまで、元の賃借人が解約した責任だと言えるかは、かなり疑問があります。さまざまな一時金の特約などもある程度有効とされている以上、新しい賃借人になることで生まれる利益もありますし、損害額の算定が“雑すぎる感”があります。裁判例を見てみると、賃借人が次に見つかるまでの平均的な損害は1か月としたものもあるようです。

こちらの主張でも、違約金の回収はできる可能性がありました。 

4. 法律ではそうでも、現実はそうはいかないんですよ

消費者契約法を使って、今回のドラマの問題でできるアプローチを考察してみました。でも、これに気づいていたとしても、羽男くんが行ったように、より強力に不正直不動産屋を屈服させる手段を取っていた方が正解です。

なぜなら、この消費者契約法のような評価を強く伴う手段は、訴訟で裁判官に判断してもらわなければいけない場合が多いからです。そして、訴訟の間も、問題ある家での生活は続き、誰もが転居資金に余裕があるわけでもないです。

そのため、ドラマのように交渉で解決できるだけの手段を考えたら、やはり告知義務違反をおさえるのが、その回収額という点からも妥当でした。ただ、告知義務違反以外にも、戦う手段はあるという意味での豆知識と思っていただければと思います。

杉山 大介
杉山 大介 弁護士

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