ドラマ好きな弁護士が、あえて突っ込んで楽しむ『石子と羽男』6 ~不正直不動産の理論~

ドラマ好きな弁護士が、あえて突っ込んで楽しむ『石子と羽男』6 ~不正直不動産の理論~

石子と羽男の第6話(8/19放送)は、前期NHKで放映されたドラマ『正直不動産』で出てきてもおかしくないお話でしたね。今回もドラマとしてリズム良く話が進んでいったため、あまり深掘りはされていなかったのですが、羽男くんが前提としていたのは、結構高度な法律論でした。

不動産を巡るトラブルは、現在でも実務の中でルールが作られているところもあり、基軸が定まらないところもあるんですよね。ただ、そういう中でも一定の指標となる考えがあり、それをドラマでは当然の前提として会話していたのです。

そこで今回は、ドラマの前提となっている法律や「告知義務」の考え方の部分、その他として誰かどんなことを伝えないと違法になるのかなどについて、話していこうと思います。

1. 告知義務違反を根拠づける法律 ~宅地建物取引業法~

羽男くんが呪文を唱えていた場面ですね。いわゆる「宅建業法の47条1号と2」という項目がポイントになっています。

第47条 宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
一 宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の契約の締結について勧誘をするに際し、又はその契約の申込みの撤回若しくは解除若しくは宅地建物取引業に関する取引により生じた債権の行使を妨げるため、次のいずれかに該当する事項について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為
イ 第35条第1項各号又は第2項各号に掲げる事項
ロ 第35条の2各号に掲げる事項
ハ 第37条第1項各号又は第2項各号(第1号を除く。)に掲げる事項
ニ イからハまでに掲げるもののほか、宅地若しくは建物の所在、規模、形質、現在若しくは将来の利用の制限、環境、交通等の利便、代金、借賃等の対価の額若しくは支払方法その他の取引条件又は当該宅地建物取引業者若しくは取引の関係者の資力若しくは信用に関する事項であって、宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの

面倒な方は、下線部だけ見ていただければ大丈夫です。要するに、不動産を買ったり借りたりする判断において重要なことは告知しなければいけませんということになっています。

ただ、これだけだと実務上、結局どんな時に何を伝えなければいけないかがわかりませんよね。そこで、そのような実務上の基準を、裁判例などから読み解かないと、告知義務の問題は扱えないわけです。

2. ひとつの基準となる国土交通省ガイドライン

特に今回のドラマでも問題になった人の死については、トラブルが多く裁判例も積みあがりました。そこで、2021年10月、国土交通省が告知義務に関するガイドラインとして、『宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン』を策定しました。

現在の実務としては、このガイドラインを踏まえることで、告知義務違反かどうかの判断をある程度行えることになっています。詳しくは原文を見るのが一番ですが要点を整理しておきます。

不動産取引業者は、全く人の死に関する事故を疑わせる理由もないので、毎回独自調査までする義務は負っていません。あくまで、わかるきっかけがあったり、知っていたら特定の条件の時には伝えなさいということになります。ただ、そもそも長く物件を扱っているのなら、知ってることの方が普通にも思います。

このガイドラインが対象とするのは、あくまで居住用不動産です。人が継続的に生活して寝泊まりする場所だから、人の不幸な死が心理面にも影響するということなんでしょうね。

そして、寝泊まりする際の心理面に影響を与えそうな人の不幸があった場合には知りたいだろうという趣旨であることから、日常的な「老衰」や「病死」は告知の対象ではありません。他に事故死でも、餅をのどに詰まらせたといった日常感のあるものは、やはり告知すべき「異常」ではないです。一方で、日常的な死亡原因でも、長く放置され、死体の状態が「異常」となり、またその建物に与える影響から「特殊清掃」が必要になった場合には、告知が必要ともしています。

ただし、日常死じゃない場合や特殊清掃が必要であった場合でも、事故から3年経過した場合は、原則告知しなくても良いとしています。また、事故の発生が、購入もしくは借りた部屋や、その共用部分である廊下などで起きていたら告知する必要がありますが、たとえば隣の部屋で起きていたとかだと、原則告知の対象外としています。

けれども、起きた事件の重大性やニュース性などの内容によっては、3年以上経過していたり、お隣さんの出来事であっても、伝えるべき場合もあるとしています。

つまり、原則OKの度合いは示していますが、例外はあるということで、ガイドラインが万能の物差しというわけでもなく、「法的評価」は結局必要になってくると言うことです。羽男くんは、「特殊清掃」ときっちり言及していましたよね。このガイドラインも頭に入っていそうと見ていて思いました。

ガイドラインに違反するような行為であれば当然違法として、ドラマのように攻めて行けるでしょう。そうでない場合でも、個別の事情をしっかり検討することは必要です。『正直不動産』の原作では、このガイドラインよりも告知すべき条件を広めに考える業界慣習が語られていましたが、これも絶対セーフと言えるラインがなかなかないからでしょうね。そのようなイレギュラーの裁判例としては、20年以上前の自殺に説明義務違反を認めた高松高裁の事件などがあります(平成26年6月19日判時2236号101頁)。

3. 不動産屋以外の告知義務

宅建業法は、あくまで宅地建物取引業者、不動産屋向けの法律です。それでは、一般の不動産売買には告知義務がないのかというと、そこはやはり問題になります。

契約上合意された前提が満たされていなければ契約不適合責任となりますし、契約上の根拠がなくとも、信義則上の説明義務違反として不法行為に基づく損害賠償請求も認められてきました。たとえば、大阪高裁平成25年(ネ)3533号事件などです。ただ、告知義務違反として損害賠償を認められた賃貸人は、不動産業者ではなく、弁護士だったのですが…。

4. 人の死以外の告知義務

結局、売買や賃貸の判断に影響を与えるかどうかなので、人の死だけが告知義務を生じさせるものではないです。こちらは、やはり裁判例の積み重ねを見る必要があるのですが、暴力団の事務所が近くにあるとか、元々風俗業に使われていた部屋だったとかが出てきます。

5. 羽男くんが法律顧問になるエピソードはあるのだろうか?

今回も、上記のような実は難しいテーマを、事実調査部分までしっかり取り組んだ、非常に有能弁護士だった羽男くんでしたが、顧問獲得には至りませんでした。ただ、私見を述べれば、事業が小規模で法務部などもなく、一方で知財系の権利や今後の組織のルールを作っていく必要のある事業にこそ、羽男くんのようなカジュアル顧問が役に立つと思うのですが、そこらはアピール不足だったように思いますね。

顧問弁護士がどう役に立つかについても、また言及する機会があればしようと思います。

杉山 大介
杉山 大介 弁護士

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  • こちらに掲載されている情報は、2022年08月25日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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