賃貸の原状回復は、どこまで賃借人が負担するの?

賃貸の原状回復は、どこまで賃借人が負担するの?

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

賃貸物件に住んだことのある方であれば、退去時に不動産管理会社から原状回復費用として、クリーニング代、修繕費、工事費、リフォーム代などを敷金から引かれたという経験があると思います。

これから賃貸物件のオーナーとなる方からすると、入居者の退去にあたってはできる限り入居者の負担で原状回復を行いたいと考えるかもしれません。しかし、原状回復の費用負担にあたっては、一定のルールがありますので、すべてを入居者の負担とすることは難しいのです。

今回は、賃貸住宅のオーナーに向けて、賃貸の原状回復について賃借人がどこまで負担する必要があるのかについて解説します。

1. 賃貸における原状回復の考え方

賃貸借契約における原状回復については、民法やガイドラインなどによって一定のルールが定められています。

以下では、賃貸における原状回復についての基本的な考え方について説明します。

(1)建物価値の減少

建物の賃貸借においては、契約期間中に建物を使用することによって当該建物の損耗(建物価値の減少)が生じます。この建物の損耗の原因については、大きく以下の3つに区分することができます。

  1. 建物・設備などの自然的な劣化や損耗など(経年劣化)
  2. 賃借人の通常の使用により生じる損耗など(通常損耗)
  3. 賃借人の故意または過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗など

(2)原状回復義務の根拠と内容

賃貸借契約が終了したときには、賃借人は、賃借物を元の状態に戻して賃貸人に返還しなければなりません。これを原状回復義務といいます。

民法改正により、賃借人の原状回復の範囲が明確になり、賃借人は、通常損耗や経年劣化を除いた損傷について原状回復義務を負うことになりました(民法621条)。

このことからも明らかなように、建物の賃借人が契約終了時に履行すべき原状回復義務は、入居時の状態に戻すということを意味するものではありません。建物の賃貸借においては、経年劣化や通常損耗に関する修繕費用は、賃借人の支払う賃料に含まれていると考えられています。

そのため、契約終了時に建物の賃借人が負うのは、通常損耗を超えた部分、すなわち(1)③の損耗についてのみということになります。

2. どこまで原状回復?賃借人と賃貸人、どちらの負担?

通常損耗を超えた部分について賃借人が原状回復義務を負うとして、具体的にどのような状態のときに賃借人が負担することになるのでしょうか。

(1)通常損耗を超えたといえるもの

以下のものについては、場合によっては賃借人が原状回復義務を負うものと考えられます。

  • カーペットに飲み物などをこぼしたことによるシミ、カビ
  • 冷蔵庫下のサビ跡
  • 引っ越し作業で生じたひっかき傷
  • 畳やフローリングの色落ち(賃借人が不注意によってもたらしたもの)
  • 落書きなどの故意による毀損
  • 台所の油汚れ
  • 結露をしたことにより拡大したカビ、シミ
  • たばこのヤニ・臭い
  • ペットによる柱などの傷、臭い
  • あらかじめ設置された照明器具用コンセントを使用せず、天井に直接つけた照明器具の跡
  • 風呂、トイレ、洗面台の水垢、カビなど

(2)原状回復義務の範囲

賃借人が原状回復義務を負うとして、どの範囲まで修繕する必要があるのでしょうか。

原状回復義務の範囲について、ガイドラインでは、原状回復は毀損部分を復旧するということから、できる限り毀損部分に限定して、毀損部分の補修工事や設備工事が可能となる最低限度の施工単位とすることを基本としています。

たとえば、畳や襖(ふすま)であれば1枚単位、フローリングや壁クロスなら平方メートル単位での補修が原則です。ただし、壁クロスについては、張替が必要な場合には、毀損箇所を含む一面分までを賃借人の負担とすることもやむを得ないとされています。

その際には、経過年数を考慮して賃借人の負担割合を算定することになります。

(3)原状回復でのトラブルは相談を

原状回復に関する基本的な考え方については上記のとおりです。しかし、具体的な場面では、賃貸人と賃借人との間で原状回復の範囲に争いが生じ、当事者同士での解決が難しいこともあります。

どのような範囲で原状回復義務が生じるかについては、ガイドラインや各種裁判例の正確な理解が必要です。原状回復でトラブルになったときには、専門機関や弁護士などに相談するようにしましょう。

弁護士JP編集部
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  • こちらに掲載されている情報は、2021年07月15日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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