【運送業】有給休暇の取得を断られた。労働基準法違反になる?

【運送業】有給休暇の取得を断られた。労働基準法違反になる?

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

運送業は慢性的な人材不足もあって、有給休暇の取得を断られてしまうこともあります。しかし基本的に会社は、労働者の有給休暇の申請を拒むことはできません。

ここでは、運送業界の労働環境をふまえ、有給休暇の付与条件や、会社側が有給休暇の日程変更を要請できる例などを解説します。

1. 運送業界の労働環境

人や荷物を車などで目的地に運ぶことが、運送業に携わる方々の役割です。代表的な職種として、トラックドライバーやバス運転手などが挙げられます。いずれも社会インフラを支えるエッセンシャルワーカーです。その仕事の重要さに反し、労働環境は過酷で長時間労働が発生しやすいことが問題視されています。それぞれ解説します。

(1)トラックドライバーの労働環境

トラックドライバーの仕事には、わずかな判断ミスで自他の命を危険にさらす可能性があるほか、重たい荷物の積み下ろし、数時間にも及ぶ荷待ちなど、さまざまな過酷な面があります。

また、脳血管疾患などに起因する事故も増加傾向にあります。厳しい労働環境が慢性的なドライバー不足を招き、ますます現役ドライバーの労働環境が悪くなる負のスパイラルに陥っているのが現状です。

働き方改革で2024年4月から適用される「自動車運転業務における時間外労働時間の上限規制」についても、他の業種と比較すると、運送業の実情に合わせて規制が緩く設定されています。

(参考:「トラック運転者の改善基準告示」(自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト))

(2)バス運転士の労働環境

バス運転士の業務は乗客の安全を確保しながら、決められた運行時間に間に合うよう運行するもので、大きなプレッシャーが伴います。乗客から理不尽なクレームを寄せられるなどストレスも多い環境です。

特に高速バス・長距離バス運転士の勤務体系は過酷で、平均睡眠時間が短いことが問題視されています。そのため厚労省は、勤務終了〜翌日の始業までの間を「最低11時間」と定める案を提出しましたが、経営状況などにより、下限9時間と定められることになりました。

(参考:「バス運転者の改善基準告示」(自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト))

2. 有給休暇の拒否は違法ではないのか

運送業界では現状、有給休暇はおろか十分な休息もままならない状態が続いています。そのため、労働者本人が希望する日に有給休暇を取れるようにするべきですが、会社側が拒むケースも依然として存在しているのが現状です。

本来、会社側は、労働者から有給休暇の申請をされた場合、断ることはできません。有給休暇を拒み、希望する時季に有給休暇を与えない場合は、労働基準法第39条違反として、30万円以下の罰金または6か月以下の懲役が科される可能性があります。

ただし会社側には、有給休暇の取得が運営を妨げると判断した場合、有給休暇の日にちを変更する「時季変更権」があります。 時季変更権についてはこの後で詳しく説明します。

(1)従業員の有給休暇取得について

①正社員の場合

正社員に有給休暇が付与されるには、「入社日から6か月経過しており、その期間における労働日の8割以上出勤している」という条件があります。

条件を満たしていれば、入社6か月で10日の有給休暇が付与されます。それ以降の付与日数は次のとおりです。

1年6か月:11日
2年6か月:12日
3年6か月:14日
4年6か月:16日
5年6か月:18日
6年6か月以上:20日

(参考:「リーフレットシリーズ労基法39条」(厚生労働省))

出勤率の算定にあたり、育児休業や病気などで長期休業した期間は「出勤したもの」として扱うと決められています。なお、有給休暇は翌年に繰り越しできますが、2年間で消滅します。

また、「有給休暇は入社日に5日、入社6か月後までに残りの5日を付与する」といった「分割付与」を行う会社もあります。詳細はご自身の会社の就業規則などを確認してください。

②アルバイトやパートの場合

アルバイトやパートは週の所定労働日数に応じて有給休暇が付与されます。

週の所定労働日数が3日(年121〜168日)のアルバイトの場合、以下のようになります。

入社5か月:5日
1年5か月:6日
2年5か月:6日
3年5か月:8日
4年5か月:9日
5年5か月:10日
6年5か月以上:11日

(参考:「リーフレットシリーズ労基法39条」(厚生労働省))

(2)使用者は時季変更権を行使できる

会社側は、事業の正常な運営を妨げる場合のみ、従業員に有給休暇の取得日を変更するよう要請する「時季変更権」を行使できます(労働基準法第39条5項)。

ただし従業員の権利を侵害しないよう、行使できるケースが限られています。また、あくまで日程の変更の要請なので、有給休暇の取得そのものを拒否することはできません。行使できるのは、例えば下記のようなケースです。

  • 同じ日に多くの従業員の有給休暇が重なっている
  • 会社側が努力をしたが、諸事情で代替人員、代理人を確保できない
  • 事前の十分な相談がなく、長期間の有給休暇を取得する

しかし、必ずしも時季変更権の行使が認められるとは限りません。退職前の有給休暇の消化に関しても、時季変更権は行使できません。

また、次の理由は一見すると正当性があるようですが、いずれも行使する理由とはなりません。

  • 繁忙期
  • 慢性的な人手不足
  • 私用を取得理由として認めていない
  • 就業規則で○日前までに申請することになっている

(3)時季変更権の強制力

会社側が正当に時季変更権を行使した場合、従業員はそれに応じなければいけません。従わずに該当日に休んだ場合、欠勤扱いとなり、その日の賃金が差し引かれる可能性があります。また、就業規則などで定めがあれば、無断欠勤による懲戒処分を科されることもあり得ます。

(4)有給休暇の取得を拒否した場合の罰則

合理的な理由がなく安易に有給休暇の取得を拒否すると、会社側は労働基準法第39条の違反となり、6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科されます。

3. 違法な勤務状況下で働いている場合の対処法

有給休暇に関するコンプライアンス意識が十分でない会社が存在することも事実です。有給休暇の取得に関連するトラブルが起こった場合は、まず会社の人事部に報告してください。それでも解決しない場合、以下の手段を取りましょう。

(1)労働基準監督署へ相談

会社の所在地を管轄する労働基準監督署へ相談するのも有効です。トラブルの解決に向けた相談に応じてくれるほか、明らかな違法行為であれば、立ち入り調査のうえ、是正勧告などの行政指導も行ってくれます。事前に次のような資料を準備しておくとスムーズです。

  • 就業規則
  • 雇用契約書
  • 給与明細書
  • 勤怠管理表
  • メール、メモ、音声データなど、有給休暇の取得に関するやり取りがわかる資料

本社と勤務地が異なる場合、勤務地を管轄する労働基準監督署に相談してください。遠方の場合、相談だけであれば、近くの労働基準監督署でも対応可能です。電話相談も利用できます。

(2)別の運送会社へ転職

有給休暇に関するトラブルで会社側と交渉するのは、心身ともに疲弊してしまいます。そのため、有給休暇をしっかりと取得できる別の運送会社へ転職するのもひとつの方法です。

退職前に有給休暇を申請すれば、変更する日がほかにないことから、会社側は時季変更権を行使するのは不可能です。退職日は就業規則で「○か月前までに申請」と定められてあっても、退職の意思表示があってから2週間が経てば、基本的に会社側は退職を拒めません。

(3)弁護士へ相談

有給休暇の取得を拒否されたり、パワハラを受けたりする場合は、弁護士に相談するのが有効です。時季変更権が認められる場合と認められない場合の判断は一般の人では難しいため、弁護士のサポートを受けると良いでしょう。

正当な理由がないのに有給休暇の取得を拒否する行為は違法で、罰則もあるため、弁護士に代理人になってもらうことでその権利を守ることができます。

「会社側が時季変更権を行使したものの、その正当性に疑いがある」といった場合などでも、専門的な知識を持つ弁護士に判断してもらうのがおすすめです。

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法的トラブルの解決につながるオリジナル記事を、弁護士監修のもとで発信している編集部です。法律の観点から様々なジャンルのお悩みをサポートしていきます。

  • こちらに掲載されている情報は、2023年10月19日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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